50.覚悟はありますの?
「さて…今この街で起こっている事をまとめていきますわ」
3人は夕食を店で食べ終えてからカロンの泊まる部屋に集まっていた。
部屋の内装は焦げ茶色の木製家具で統一されており、特に細かい装飾があるわけでもない質素な部屋である。
窓は一つだけあるが今は内緒話をする為に閉められている。
「先ずは麻薬の合法化の件ですわね」
サリンは木製の椅子に腰を掛けて話す。
それを見たナレは続く様にもう一つの椅子に座る、カロンはサリンより頭が低くなる様に片膝をついて身を屈める。
「あっ、その話は私も商人ギルドの管理人さんから聞きました」
…余談だが書類にサインをした後にケロイにギルドマスターでは無くただの管理人だと伝えられてナレはとても恥ずかしい思いをしていた。
「この件は恐らく魔族が関与している可能性が高いですわね」
「えっと…それは理由を聞いても良いですか?」
サリンは人差し指を立てて話す。
「良くってよ。…先程ヘイセウと実際に会って会話をしましたの。一つ一つ詳しく話を聞いていたのだけれど、所々辻褄の合わない事を言っていましたの」
「まさか…」
カロンはこの症状に聞き覚えがあった。
この話だけでは本来原因を特定するには至らないが…この条件ならば。
「ええ、記憶操作ですわ」
「そんな…魔術は記憶操作すら可能なんですか?」
ナレは驚愕の表情でサリンに問う。
「可能ですわ。…それ以外にも…物理的に、という可能性もありますわね」
ナレは直接の脳味噌を弄られるのを想像してなんともむず痒くなり頭を両手で掻く。
「そうっ…想像するだけで頭が痒くなります…」
カロンは考える素ぶりをせずにある事を考える。
考える…自らの主の考え得る可能性を…探す。
「……既に本来のヘイセウ氏ですら無いという可能性あり得るのでは?」
サリンはカロンしか気づけない程、微妙に驚いた顔をする。
「……成る程。確かにそうですわね…だとするとわたくしとカロンだけでは対処出来ないかも知れませんわね」
ナレはパァっと明るい表情になり、少し食い気味に声を上げる。
「なんでも言って下さい!私も役に立ちたいんです!!」
サリンの表情は何時もの薄い微笑みになる。
「覚悟はありますの?」
サリンは真剣さの全く無い柔らかな声音でナレに優しく問う。
「勿論です!どんな事だとしてもやります!恩人の為にもこの街の為にも!」
その言葉を聞いたサリンは何処からか飴玉の様な真っ黒な球を取り出す。
「これを呑み込めば貴女の本当の力が解放されますわ。…覚悟の強さに応じて貴女は純粋な力を手入れる事が出来ますわ」