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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第2章:覚悟
48/226

48.綺麗な赤ですわね

「サリン様、もうすぐ19時になります」



 ヘイセウ氏との話が終わった後、真っ直ぐ時計塔まで来ていた。


 煉瓦造りの時計塔に暗い夕日が当たり赤黒く染まっている。



「ナレはまだ着いていない様ですわね。…そこに腰を掛けて待っていましょう?」



 姫様の視線を辿ると丁度日陰になっている木のベンチがあった。



「かしこまりました」



 腰に携えてある袋から綺麗な布を取り出す。天幕を仕舞ってある大きな袋は宿に置いてきた為今は無い。



「お掛け下さい」



 木製のベンチの中央部に布を敷いた。姫様のドレスが汚れるのを防ぐ役割だ。



「ありがとう」



 姫様がベンチにお掛けになる。俺は勿論側で立って控える。



「綺麗な赤ですわね」



 姫様は赤黒く染まった時計塔の方向を見つめている。



「はい。良い色です……そういえばここの風景は切手の絵柄にもなっているのですよ」



 騎士候補生の頃、よく手紙を書いていたから今でも覚えている。


 切手の風景が全て実在すると知った時、是非自分の目で見てみたいと思ったのを覚えている。



「では…またいつかこの風景を見る事が出来るかも知れないですわね」



 姫様はいつもどうりニッと可愛らしい微笑みを浮かべる。王国に無事帰還した際、姫様に手紙を送らせて頂くのも良いかもしれない。



「カロン」



「いかがなされました?」



 突然、名を呼ばれた。


 姫様の様子を伺うとまた時計塔の方向を眺めていらっしゃった。



「…………」



 姫様は沈黙していらっしゃる。そしてその美しい横顔には微笑みが無い、全くの無表情で時計塔を眺めていらっしゃる。





「このままわたくしと共に先へ歩むと後悔致しますわよ」



 その言葉を聞いた時、特に考える事もなく自然と俺は答えた。



「それでも私は貴女と歩みたい」



「…」



 時計塔を赤黒く染めていた夕日は地平線に沈み、あたりに夜の帳が下りて街に光が灯る。


 時計塔を見ると魔術仕掛けの時計の針が今は19時であると教えてくれる。


 予定の時間だった為、軽く辺りを見回すとキョロキョロと我々を探しているであろうナレの姿が見えた。



「…カロン、ナレが探していますわ。合流しますわよ」



「はい」



 上品にベンチから立ち上がった姫様の可愛らしい耳は夕日が沈んだにも関わらず少し赤みを帯びていらっしゃった。

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