38.私の分は…?
「おそいなぁ」
2号室で座って待っているが、なかなかギルドマスターはやって来ない。
「…」
暇なので2号室の内装をよく見てみる。
…この部屋は全体的に落ち着いた色でまとまっていて、私の緊張を和らげようとしてくれている様に感じられた。
「はぁ…お父さん…」
本当だったら今日はお父さんと一緒に…
コンコンコン
「失礼するよ」
シワひとつないギルドの制服を見にまとった不健康そうなひとが部屋に入ってくる。
「あっっ!ナレです!よろしくお願いします!今日は大切なお時間をー
「ああ、いいよ。そういうのは」
ーっはい。ありがとうございます」
私の言葉を遮ってギルドマスターは微笑んだ。
「一応君が小さい時にあったことあるんだけどね。覚えてない?」
お父さんっ子だった私はよくお父さんのお仕事について行っていた。なのでもしかしたら何処かで会っていてもおかしくない。
「えっっっぅと…ごめんなさい。覚えてないです…」
ガチャ
「覚えてるわけ無いじゃないですか」
バコ
綺麗なカップがのったトレーを持った男…受付の男の人が入ってきてギルドマスターに蹴りをいれた…にもかかわらずトレーのカップから飲み物は溢れていない。すごい。
「おぅぐっ!?ちょっとした冗談だよ…はは。緊張してるみたいだったから…」
「あー…えっとありがとうございます…?」
私に気を使ってくれたのだろうか。優しい人なのかも知れない。
「ホラー!困ってるじゃないですか」
受付の男の人はカップ…(中身は紅茶だった)を私の前に置いてくれた。カップからはほんのりと良い香りがする。
「アドルフ?私の分は…?ねぇ…私の分は……??」
「忘れてました。今から淹れてきます」
ガチャ
私から見てもわかるくらい嫌そうな顔してた…
「絶対わざとだ…!きっと私復讐されているんだ…!」
「その…復讐される様なことしてるんですか……?」
ちょっと気になってしまい聞いてみる。
「………してる…かも?朝は起こして貰ってるし、朝ごはんもお昼ご飯も晩御飯も食べさせて貰ってるし…!服の管理も全部やって貰ってるし!定期的にお手洗いに連れて行ってくれるし!!夜は私が寝付くまでそばにいて貰ってる!?!」
「それは復讐されても仕方ないですね。というかお手洗いに一人で行けないんですか…?」
こんな大人居るんだ…正直、あたまおかしいんじゃないだろうか…いや、でもギルドマスターになれる人なんて、奇人変人だけだってお父さんが言っていた。
「仕事していると忘れるでしょ。普通」
普通じゃないです
「普通じゃないです」
心の声が出てしまった。奇人変人は適当にあしらっておけ、とお父さんに言われているのに…
ガチャ
「次漏らしたら言いふらしますからね」
えっと…アドルフさん?がトレーを持って部屋に入ってきてカップをギルドマスターの前に置く。
「ありがとう。うん、美味しい」
なんとも幸せそうな顔をしている。紅茶が好きなのだろうか?
「さて。では本題に入ろうか。…この度はどういったご用件でしょうか」
スッ…と目つきが変わった気がした。