31.この件については
「カロン」
直剣を鞘から引き抜こうとした時、姫様に呼び止められる。
「姫様…しかし」
姫様の表情を伺うと、いつもの美しい微笑みとは違うなにやら可愛らしいな笑みを浮かべていた。
「ありがとう。わたくしを心配して下さったのでしょう?」
いつのまにかあの可愛らしい笑みは消えてしまっていて、いつも通りの二ッとした微笑みに戻っていらっしゃる。
「わたくしが危うくなるのは一人で全てを解決する場合の事ですわ。でも、貴方がわたくしを信じて裏切らないのなら…」
姫様は微笑んだ表情を一切崩さない。姫様は真剣さを感じさせる口調で話していらっしゃるが、微笑んだ表情とはまるで一致しない口調が俺にとてもアンバランスさを感じさせた。
「…この件についてはもう失敗する可能性が見え無くなりますわ」
「私は、必ず姫様をお守り致します。…どうか姫様も私を信じて下さい。何があろうと決して私は姫様を裏切りません」
これはまぎれもない本心だ。初めて戦場であった時から、自分がどうなろうとまだ未来のある姫様だけは無事に王国へと送り届けると神に誓ったのだ。この誓いはこの身が命を落とそうとも必ず果たされるだろう。
「????」
そんな話をしているとナレが混乱している事に気がついた。いまいち状況が分かっていないのかも知れない。
「ナレ、姫様に感謝しなさい。…エルザスヘイムを救って下さるそうだ」
「あ、あ、ありがとうございますっ!!!」
ナレは爆弾が爆発したように、希望に満ち溢れた表情に変化していた。