30.悪く思うなよ
「お聞かせいただいてもよろしいですか」
歩きながら姫様が言っていた問題とやらを聞く。
「勿論良くってよ。結論から言うとこのままだとエルザスヘイムが滅びますわね」
「えっ…どうにか出来ないんですか…?」
ナレは滅びると聞いた直後に反応していた。俺も内心少し驚いていたが、あまり関わったことの無い町だからかそこまで感情は揺れなかった。
「勿論なんとかする方法は有りますわ」
「本当ですか!?お願いします!」
ナレの表情はパッと明るくなり。姫様の次の言葉を待っている。…まぁ確かに助けられるなら助けたいが。
「確かになんとか出来ますわ。けれどこの件に関われば20%の確率でわたくしが死にますわ。この件に関わらなければ、問題ありませんが」
姫様はニッと微笑みながら自分の死ぬかも知れない可能性を語られる。
「えっ…それは…危険ってことですか?戦ったりするって言うことですか?」
「ナレ、質問する必要は無い。姫様、エルザスヘイムを見捨てましょう」
姫様が危険に晒されるなどあってはならない。時に一つの命は数千、数万の命に匹敵するのだ。
「そんな…!騎士様!それでいいんですかっ!?救えるかもしれないんですよ!?」
「我儘を言うな。…他の町までは護衛するからあの町の事は諦めなさい」
なるべく子供をあやすように説得を試みるが、薄っすらとナレの瞳に涙が溜まってきている事から多分失敗しているだろう事が分かる。
「そんな…!それって見殺しにしろって事ですよね!?……嫌です!私は助けたいんです!」
「…姫様、子供の戯言ですのでお気になさらず。姫様の安全が第一ですから、エルザスヘイムは見捨てましょう」
こんな事で姫様の考えが変わって本当に危険を伴ってでもエルザスヘイムを救う、と言う決断をなされると不味い。
「お姫様っ!どうか救って下さい!私の友達もいるんです!」
「やめなさい。姫様にもしものことがあれば責任を取れるのか?」
「…取れません。今のわたしにはお金や地位はありませんから。でも…いつか必ず恩を返します!約束しますっ!!」
あまりにも聞き分けが無い…このままだと姫様に危険が…しかし…
「…いや。私が間違っていたよ」
ナレの表情が明るくなる。プレゼントを貰った幼い子供のような笑顔だ。
「これが騎士だ。悪く思うなよ」
長剣に手をかける。刃こぼれした直剣では上手く切れないかも知れないので鎧に魔力を多めに回して筋力を強化する。なるべく苦しまずに…と言いたいところだが…まぁ、こいつが悪い、痛くても仕方ないだろう。
「騎士…様?」