23.何ですの
メチル視点となります
「……一位はサリン様です…」
ユヒサは暗い顔で結果を発表した。
私とサリンの捕まえた蝶の数は2匹の差で私の負けでした。悔しくないかと今問われれば、それは勿論悔しいです。でもそんな事より私の妹であるサリンが一位になれた事の方が嬉しくて、誇らしい。
「ねぇ…おねえさま…ちょうちょかわいそうだよ…」
山のように積もった蝶の死骸を見たアトロは今にも泣きそうな声で蝶を哀れんでいますね。アトロがこんなにも優しい子に育ってくれて私はとても嬉しい。
「アトロは優しいですね…でも貴女が泣いていては蝶も悲しい思いをしてしまいますよ」
「…でもぉ…」
あぁ…しゃがみこんで泣き出してしまいました…こうなってはユヒサに頼むしかありません。アトロは情が深すぎてすぐに泣いてしまうのが弱点ですね…
「アトロ様…」
早速ユヒサはアトロを泣き止ませようと必死になっていますね。見慣れた光景です。
「ねぇ、サリン」
「何ですの、お姉様」
ああ…やっぱり私を見つめるこの瞳は…可愛らしい…その強い嫉妬や憎しみ、嫌悪の入り混じった感情が見え隠れする美しい青の瞳。理解出来ますよ、口では言わずともその瞳を見れば全て理解出来ます。
「私が羨ましい?」
「いいえ。2位なんて羨ましくありませんわ」
あぁっ!本当にいじらしくて可愛い。本当は死ぬほど羨ましいのでしょうね。道徳を捨て、手段さえ選ばずにやっと勝ち取った辛勝なのに。努力をせずに、もっと言えば何も捨てていない私にここまで点差を詰められて悔しく無いはずがないですもの。
「ええ。流石は"私"の妹ですね」
「……そうですわね」
サリンはきっと理解しているでしょう。私がいらない勝利を捨てて、その他の評価を得ている事を。私とまともに勝負すれば必ず勝てない事も。全て理解しているから、この道しか選べなかったのでしょうね。サリン…貴女はその道の先に何を見ていて、何を道しるべにしているんでしょうか?
「ねぇ…一位の貴女には今…何が見えるのかしら?」
「化け物ですわ」
可愛いサリンは私を見つめながらそう言った。