223.君に決まっているだろう
「では当日の警備はそのように」
「フゥー…これで穴は無いだろ」
「ですね、これ以上ないかと」
騎士団の詰め所にいくつかある会議室で俺とカコルネルさんは一息つく。
冷めてから暫く経った珈琲を一口飲んで今一度計画を見通す。
……警備の穴は無い、これ以上は国民に威圧感をあたえてしまうだろうし完璧だ。
そんなことを考えているとふいにコンコンと扉がノックされた。
「リインです」
「おう、終わったから入っていいぞ」
軋む音もなく扉が開かれリインが入ってくる。
カコルネルさんを見るその目は穏やかそのものであり、関係が良好であることが察せられる。
うむ、良い事だ。
「珈琲をと思いましたがもう会議は終わっていたのですね」
「随分時間が掛かっちまったが…まぁ完璧だろ」
若干だがリインがカコルネルさんを見ながらそわそわとしている。
まぁそうだな、あまり旦那を長時間拘束するのも悪い。
ここはひとつ気を回そうではないか。
「残りの些事は私が調整致しますので先に帰られては?」
「…!」
「ん?そうか。じゃあお言葉に甘えて俺は帰るとするか」
リインからよく言ってくれた、とでも言いたげな目線が送られている。
騎士としてこの程度の気遣い出来て当然。
「では一緒に帰りましょうか」
「ああ、待たせて悪かったな」
「いえいえ、待つのも悪くないですよ」
仲の良い二人がまた明日、と残して会議室を去る。
廊下から二人の声が聞こえなくなって一息つく。
「…」
二人も帰った事だし残りをさっさと終わらせる、という訳にはいかない。
余程の事が無い限り安全に終わるだろうがそれでも万が一があっては終わりなのだ。
姫様の次の一手を支える者として、二人のこれからを守り続ける者として…妥協は絶対にしたくない。
「…気合を入れなおさなければな」
二人の姿が脳裏に浮かんで俄然やる気が出た。
俺は基本やる気などなくても万全の能力を発揮できるように訓練しているが、それでもやる気があれば…二人の為なら…どんなことだってやれる気がするのだから…俺もまだまだなのかもしれないな。
まぁ伸びしろというものだ、ハハハ。
そんな事を考えながら残りの些事をさっさとまとめているとまたドアがノックされる。
「会議中失礼します。教官殿にお客様が」
お客様?誰だ?まぁいいか。
すぐに機密資料を隠して返事をする。
「お勤めご苦労、入室を許可する」
そう扉に向かって声を掛けると一瞬の間をおいて会議室の扉が開かれる。
「どうぞお入りください。私は失礼します」
「よォカロン」
「…!?よ、よく来たなジオネ」
案内をしてくれたであろう騎士が戻り、ジオネと俺だけが会議室に二人きり。
しかしジオネの事を考えている時に丁度良く訪れてくれたものだから驚いてしまった。
「入城の申請は面倒だっただろうに…」
「いやァそうでもねェ。普段から鎧の調整で出入りしてるからなァ」
「そ、そうか…それで一体どうしたんだこんな時間に」
それを聞かれたジオネは一瞬硬直したのち口を開く。
「お前に用があッてな」
「そう…か」
「ああァ…」
「………」
「……」
「………」
「……」
「……用…とは?」
「ン…?わりィわりィ…そうだな」
「あ、ああ…」
な、なんだ?ジオネをしてそうなる程の事なのか…?
一体何を言い出すつもりなんだ…。
「ン―…」
「…?」
かちり、と会議室の内鍵を閉めるジオネ。
「ン」
「……??」
機密の為に行使していた防音魔術をもう一重に行使しなおすジオネ。
「ンン」
「………???」
そして何やら上着を脱ぎ始めた。
「今日はァ…ちと熱いよなァ…」
「…え?あ、ああ。そう…か?」
…何を…言っているんだ?
今日はまだ涼しい筈…いやまてよ。
頬を染めてちらちらとこちらを伺うような仕草。
…もしかして誘ってるのか…!?冗談だろ?会議室だぞ??
「ジオネ…ここは…」
「ンンー…仕事と私、どっちが大切なんだ?」
昔ならいざ知らず、今ならはっきり言える。
俺は二人の為に仕事をしているのだ。
二人を幸せにする為なら俺はなんだってするだろう。
だから逆に言ってしまえば…二人が不幸になるくらいなら俺は仕事を辞める。
答えは当然一つしかない。
「君に決まっているだろう…うおっ!?」
ジオネが抱き着いてきた。
咄嗟に抱きしめる。
そして俺が言葉を発する前に口づけを交わす。
「じャあ…別にいいだろ…」
「昔から滅茶苦茶だなジオネ」
「嫌か」
「好きだ」