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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第8章:足を止めて
222/226

222.でもよぉどるてぃ!


「お待たせ」


「おやぁきたきた~」


「遅刻だァ、ドルティ」



 多少約束の時間に遅れつつも、最近は馴染みになりつつある酒場に到着した。


 目的の二人がいつもの4人用の席で対面に座っているのでやはりいつも通りスタンを押し込んでジオネさんの対面に座る。


 テーブルには既に人数分の麦酒が配膳されていて何時でも始められそうだ。



「すみません、仕事が長引いてしまいまして」


「まァ急ぐもんでもねェから別にいいけどな」


「ちょっとちょっとぉ~貴族抜けてないってぇ~」


「うっせぇ貴族も大変なんだよ」



 軽く皆で笑った後、麦酒の杯を持って打ち合わせる。



「「「乾杯!」」」



 仕事で酷使した喉を渡る冷たい感触が何とも最高だ。


 求めていた酒が身体に補充され、やっと一息つける。



「いんやぁしっかしめでたいねぇ!おめでとうドルテぃ!祝!貴族!」


「声がでけぇって!あんま言いふらすような事じゃねーだろ!?」


「そうかァ?いいじャねェか。こんなにめでたい事なんて人生でそう何度も無ェんだしよォ」


「う、そんなモンですかねぇ。じゃあ…ありがとうございます」



 ニヤニヤしながら私を眺める二人を尻目に店員を捕まえて酒のつまみを注文する。


 しかしまさかサリン様が本当に貴族に戻れるように便宜を図って下さるとは正直な話…思ってもいなかった。


 少なくともあの場では話に乗っておけばすぐに殺されることも無いだろうとか考えていたが…まぁ頑張ってみるもんだな。



「そういや傷はもう大丈ォ夫なのかよ」


「はい、思っていたより魔術であっさりと治りましたから。カコルネルさんって本当にすごい魔術師だったんですね」


 腹を刺されたときは死ぬって思ったけどそのあと駆けつけたカコルネルさんがあっさり直してくれた。


 戦闘行動中はこんなもん擦り傷みたいなものだって言ってたっけか、それを聞いてめっちゃ安心したのを覚えてる。



「あぁ~聞いたそれ、あの後髭おじ言ってたよ。治癒魔術じゃないけどこっちのほうが人体に良いとかなんとかぁ」


「は…?私治癒魔術だって聞いたんだけど…」



 何されたんだよ私。



「そういやよォ、リインはァどうしたんだよ?」


「髭おじと予定あるから無理ってさぁ~いちゃいちゃしやがってよぉ~~」



 まだ飲み始めて間もないのにもう酒が入り始めているのかスタンが徐々に変になってきていやがる。


 速えよ、まだホントに数分って所だろ。



「隠れ家に居た時からよぉ~ぎしぎしぎしぎしとよぉ~!」


「おいスタンやめろ、虚しくなるだろ」


「でもよぉどるてぃ!このままじゅあぁワタシ達!一生女の子だぞ!!!」


「はぁ?別にいいじゃねぇか…そ、そういう相手とか…無理に探すもんでもねぇだろ」


「やだやだやだぁ~この歳で女の子やだぁ~いい感じの男捕まえてかっちょいい大人の女に進化するんだぁ~!!」


「くそ、こいつ相変わらず声がでけぇって…」



 近くにいた恋人同士らしき男女から生暖かい目線を送られ咄嗟に目をそらす。


 くっそやっとこの店の常連になりかけてたのに…!!恥ずかしくてもうこれねぇよ…!


 そういえばさっきからジオネさんが静かだ、どうかしたんだろうか。



「ジオネさん?あ、スタンがすみません…」


「ン…いや大丈夫だァ」



 目をそらされてしまった。


 なにかやましい事でもあるのか?


 まぁそういうのは誰にでもあるし詮索するなんて野暮なことはしない。



「いいこと思いついたぁ!!!!」


「うるっさ!!お前いい加減に」


「騎士君にお願いしよう」


「は?」



 は?何言ってんのこいつ。



「そうすればサリンしゃまと間接的にぃ…ぎひ、ヒヒハハハ」


「お前正気?」


「ワ、ワタシはっ天才だぁぁぁぁぁあああ!!!ギャヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」


「ぶっ壊れてやがる…サリン様とカロンの関係を多少なりとも知ってる奴の発想じゃねぇ…」



 終わった、いろんな意味で。


 酒を飲んでスイッチが入ったスタンはもう手が付けられない。


 しかも…あ、アホみたいな事を言ってやがる。


 後日スタンの葬式の招待状が送られてきても驚かないぞこれは…。



「あァー…。悪いがァそれは無理だと思うぞ」


「またまたぁジオネさんも早く騎士君で大人の女になりたい癖にぃ~!あぁ~ンしん!してくださいよぉ!呼びますからぁ!!ヒヒヒヒ!三人ですればいいですからぁハハハハハ!!」


「おっおっおま!さん、三人!!で!?とかっ頭おかしいだろっ!!じ、ジオネさんこいつの言ってること!むっ無視して大丈夫ですからね!?」



 馬鹿かこいつは!?ジオネさんがどんな気持ちでカロンの事を…!そ、それを三人…で、とか!イかれてるだろ!!



「ククク…大人の女、ねェ。そォだなァ…」


「ジ…オネさん…?」



 くつくつと静かに笑い、そのまま麦酒を一口で飲み干したジオネさんの目が完全に据わった。


 あ、なにかやらかす。


 絶対何かやらかすぞこの人。



「スタンは任せたァ」


「ギャヒヒ!!」


「えっちょっと!?」



 麦酒一杯にしては多すぎる金額をテーブルに転がして立ち上がったジオネさんはそのまま出口へ歩いていく。


 まだ爆笑しているスタンを放っておいてジオネさんを追う。



「な、何を…?」


「いやァそういえばまだシてねェなッておもッてよ」



 何を言っているんだ…この人は…。



「??どういう」


「あァー。次会うときは大人の私によろしくなァ」



 全く意味がわからない…スタンの言動で何か気を悪くしたとか…?いやそんな程度で帰るようなショボイ人じゃないぞあの人は。



「うーん…何がなんだか…」



 ………。


 あ。


 そ、そういう事?



「…………えっ今から…!?」



 行動力バケモン過ぎるだろ…!


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