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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第8章:足を止めて
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221.じャあァこうしよう


「んでそんなやつれてるッてェ訳かァ」


「ああ、自業自得だとはいえ流石に堪えたなぁ…」



 元気溌剌な子供達も家に帰る頃、俺は”いつも通り”見舞いに来たジオネと話をしていた。


 どうやら俺が入院してからというもの、毎日見舞いに来ていたと看護師に聞かされた。


 「大切にされていますね」だとか言われた、ありがたいことだ。


 …さすがに俺もそこまで鈍くは無い、きっとジオネは俺の事を。



「にしてもそうかァ、あの女抜け駆けしやがッたのかァ」


「…反省はしている。さすがにあの場面では俺がうまく流すべきだったのだろう」



 姫様はまだお若いのだから、と言いかけた所でジオネが言葉を挟む。



「はァ?何言ってんだ。勇気出した女ァを流すなんざァカスのやる事だ」


「そ…ういうものなのだろうか…。なのか…?」


「ッたりめェだ。だからカロン。お前は悪くねェよ」



 そういうものらしい。


 ジオネがそういうのならそうなのだろう。


 そうだったのか…またしてもずっと気にしていた事があっさり抜け落ちた気分だ。


 ジオネは昔から深く考え込んでしまう事が多かった俺にいつもこうしてあっさりと答えを示してくれる。


 本当に…本当にかけがえのない存在だ。



「…ジオネ」


「なんだァ」



 ジオネは俺の呼びかけに答える。



「もし、俺がこの国を出ていくことになったら…」


「ついてくぜ」



 いとも簡単に。


 あっさりと。


 彼女はそう言い放った。


 もちろん俺が国を出ていくと決まったわけではない。


 次の仕事も決まっているし何よりこの国が好きだ。


 この国の民として生きていきたいと思う。


 だが、そうするには俺はあまりに人間のくくりから外れてしまった。


 普通に考えればわかることだ、人間は生き返ったりしない。


 今は大丈夫でもいつかはきっと俺の平穏は消え去るのだろう。


 俺の平穏が消えるだけなら別にいいが…消えるのが俺だけの物とは限らない。


 ずっと真っ当に過ごす為の道のりはあまりに細く脆い。


 だから俺は慎重に、慎重を重ねて歩みを進めなくてはいけない。



「…ずいぶんと簡単に言うんだな」


「簡単だからだァ」



 ジオネには幸せになってほしい。


 測りきれない様な恩があるだとか借りがあるだとかそんな事ではなく。


 彼女には幸せになってほしい。



「ジオネ、お前の人生だ。それを俺のせいで厳しい道のりにするのは…」


「自分の人生ェだからだよ。他人のならともかく自分の人生ェだからァ簡単だッつッてんだよ」



 昔からジオネは変わらない。


 見た目だとか技量だとかの話ではなく。


 心の部分、一本の芯が。


 何年も昔、過去から今まで長く強い一本の芯が続いている。


 それはきっとただの一度も折れることなく、傷つかず…未来まで続いている。


 俺がジオネに言葉で勝てた試しが無いのが良い証拠だ。


 本当に、変わらない。


 変わらないジオネの言葉が俺を繋ぎ止めていて…安心する。



「そうはいうがなぁ…」


「じャあァこうしよう」



 いつも通り腕を組み、ぎざぎざとした牙のような歯を見せてニヤリと笑う。


 ああ、大抵ジオネがこの表情をする時は確実に俺を黙らせる衝撃的な言葉が出てくるのだ。


 革新的で核心的な確信のある言葉が。



「私と結婚しろ」


「………………」



 ガツンと脳みそが直接ぶん殴られたような衝撃で気を失いそうになる。


 そのまま癒着した首がもう一度ちぎれて飛んでいきそうなほどの衝撃。



「そ、れは…。大変うれしい、のだが…」


「あぁ心配すんなァ。これはサリン様の提ェ案でもある」



 サリン様の提案…?いやしかし…。



「何だァ?まだ聞いてねェのか。この国の在り方を大きく変える計ェ画」


「聞いて…いないなぁ…」



 なんだ?どういうことだ。


 この国は一体どうなってしまうんだ。


 あのサリン様がご計画なさった国を大きく変える計画…。



「まァ色々すッとばしてェ簡単に説明すると…」


「あ、ああ…」


「サリン様は自由の身になッてお前と結婚出来るしィ私もお前と結婚できるようにィなる」


「なんだそれは…許されるのか…」



 一夫多妻なんぞ禁じられているこの国で…?


 いや…サリン様が国を大きく変えると仰っているのだ、ならばきっと大丈夫なのだろう。


 それどころか当然協力するべきだろう。


 しかし…うーむ…どうなのだそれは。


 本当に大丈夫なのか?良いのか?許されるのか?


 ………俺がサリン様を信じなくてどうする。



「安心しろよ、かなりまともな政策だッたぜェ?」


「そうなのか…」



 くつくつと笑うジオネの表情は思い出し笑いのように見える。


 そんなに…なのか。



「それでェ。返事はァ…どうなんだよ」



 笑顔の中に隠しきれぬ不安を纏ったジオネがそう俺に問う。


 さっきの告白?の返事か。


 …俺に二人を幸せにすることが出来るのか?


 たった一人の人間が、二人を。


 ………いや、もう人間じゃないんだったか。


 それならば。


 だというのなら。



「こちらこそ…よろしく頼む。人一倍、いや何十倍も幸せにする」


「ッ…楽しみにしとくぜ…」



 ただの人間にはできない事をしてやろうじゃないか。


 俺という存在を使えるだけ使って幸せになってもらう。


 俺を選んだことを後悔はさせない。


 そういった覚悟を一つずつ丁寧に説明し、終わる頃には。



「ああ…わかッた、わかッたから…もう勘弁してくれェ…」



 ジオネの勝気な表情は崩れ、嬉しい様な恥ずかしい様な見たことの無い表情になっている。


 初めて彼女を言葉でここまでさせた。


 そうしてやっと彼女の隣に立つ資格を得た気がした。



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