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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第7章:狂姫と天才
214/226

214.…なにを今更


 満身創痍の近衛騎士と向き合う。


 アトロの近衛騎士だった女、名前はたしかユヒサ・アルネル。


 私は昔からこの女が嫌いだった。


 だが嬉々として殺せるかと聞かれれば今はもう無理だ。


 この女にスタンとドルティは殺された、目の前で。


 でもそれはユヒサにとっても同じことだ、私が妹の杯に魔族の因子を盛って殺してしまったから。



「さぁ…そろそろ死んでもらおう、流石に死んでもらおうか」


「ええ、そうですわね…」



 そうすることが私が考えられる中で一番近道で確実に目的を達成する手段だったから。


 ユヒサには私を殺すだけの理由がある、憎しみがある。



「あの時素直に貴女の忠告を聞けなくてごめんなさい」



 もしも、ずうっと昔。


 庭で蝶をとって遊んでいた頃に、戻れるのなら。


 次は。


 きっと貴女の言葉を聞いて、たとえ最下位になったとしても…それでいいから。


 一緒に話し合って誰かを思いやって…。


 きっと、きっと。


 こんな間違いを犯すことはもう、二度とないだろう。



「…なにを今更」


「ええ、そうですわね。ごめんなさい」


「もう遅いんですよ。私はもう貴女を殺すしかなくなった」



 …そう。


 もう遅い。


 そんなことはとっくの昔にわかっている。


 一度道を踏み外してしまったら。


 一度その道を選んでしまったなら。


 もう後悔なんてすることはできない。



「どうしようも無いですものね」


「…アトロ様の仇、取らせていただきます」



 駄目だ、ずっと忘れていて。


 思い出しては忘れたふりをして、今までの業を思い出して。


 でも、もう駄目だ。


 そもそも全てが無駄だ、無意味だ。


 時間を逆行させることなんて出来ない、過去を悔やむことなんて意味がない。


 二度目の人生なんて無い。


 自分の大切なものとその他の幸せなんて天秤に掛けられるわけがない。


 だからもう駄目だ、無理だ。


 私にもできない事だってある、だから今更後悔したって意味がない。


 いつだって私は一番良いと思う事をしてきた、妥協なんてしてない。


 ああするよりはなかった。



「うん…うん。やっぱりそうよね」



 だから。


 私は何度生まれ変わっても同じことを繰り替えす。


 だってそれが。


 一番いい方法だから。



「貴女も殺すわ」


「!」



 隠し持っていた魔道具に魔力を流し込む。


 すると想定通りユヒサの足元が大きな音を立てて爆発する。



「ぐっ!?」


「…」



 ああ、大丈夫…大丈夫。


 彼が見ている、なら私はもう迷っていられない、後悔していられない。


 そのまま二発だけ再装填できた古い魔弾の魔術を放つ。



「くっ…はッ!」



 鈍い音を立てて一発の魔弾が足に命中し、もう一発が直剣で弾かれる。


 ユヒサが直剣を床に突き立てて膝をつく、良い位置だ。



「思い出させてくれてありがとうございますわ」


「はぁ…はぁッ…なんだと…」


「わたくしが凡人だった事を、ですわ」



 私は三姉妹の中で最も落ちこぼれだった。


 姉のような冴えわたる才覚がなければ妹のように光り輝く人徳も無い。


 だから、努力した。


 落ちこぼれなんて誰も愛してくれやしない、何のとりえもない私なんてきっとみんなに見捨てられてしまうと思ったから。


 ある時気が付いた、一部の才能は作れる。


 誰もが思いついて、しかし誰もが思いとどまる。


 簡単な話だった、みんな誰かの作ったルールの上で正々堂々勝負していた。


 ルールがあるからみんなその範疇で工夫して勝利を目指す。


 ならそれを無視すればルール通りやってる奴らには勝てる。


 何の才能も無い私が、凡人である私が。


 たった一つ天才に対抗する手段。


 だから私はその手段を選んだんだ。


 たった一人でも世界は変えられる。


 手段さえ選ばなければ。



「さようなら、ユヒサ」


「ッ!死ねえッ!!」



 魔道具に魔力を流すのと同時にユヒサが直剣を私目掛けて投げる。


 およそ人間が投げたとは思えない速度で放たれた直剣が私へ回転しながら飛んでくる。


 ユヒサの足元が爆発を起こして身体がばらばらになるのが見える。


 もうすぐにでも私を真っ二つにしそうなところまで迫った直剣は背後から硝子が割れるような音と共に飛来した物体によって砕け散った。



「絶対助けてくれると思ってましたわ」



 廊下の壁に深く突き刺さった真っ赤に熱された大盾を見て私は次の目標を定めた。



 

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