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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第7章:狂姫と天才
210/226

210.手段を選ばないのであれば


 あの後すぐに王城へ手紙を送った、ある程度騒ぎが落ち着くいてから城へ戻るといった旨の手紙。


 もちろん正規の手段で送らず髭おじがなにやら頑張って手配したらしい。


 …あれから数日、サリン様がお部屋にこもられて出てこない。


 とはいえ入るなと言われているわけではないので食事をお運びする際にはサリン様とお会いできている。


 とくに体調が悪そうだとか思い詰めているような様子は見受けられなくて、なんならちょっと張り切られている…という印象。


 お部屋にお邪魔すると、どこから持ってきたのか表紙の豪奢な古本をまじまじと見つめておられる事が多かった。


 何をしておられるのか、それは想像に難くない。


 きっと騎士君を生き返らせる為のお勉強なんだと思う。


 今直近で対処しなくてはいけないことも無くなったから急かすことも無いし、ていうか昔のサリン様を思い出して最高。


 …とにかくサリン様のお部屋にお食事をお運びするのが最近の楽しみになっている現状。


 いいね。



「サリンしゃまあぁ、お食事ですぅ~」



 部屋の扉を数回ノックして返事を待つ。



「どうぞ、お入りになって」


「!はいぃ~」



 扉越しにサリン様の声が聞こえるの良くない?


 このまま耳をすませていたいのを我慢してお部屋に入る。



「お邪魔しまぁす…おっと」



 食事を乗せたトレーを片手で支えて扉を開こうとしたら内側から騎士君が開けてくれた。


 相変わらず首無しだ。



「たすかるよぉ」



 部屋に入ってサリン様を目で探す。


 まぁいつも窓際の机にいらっしゃるからすぐに見つかるけど。



「そこに置いておいて下さいまし」


「はいぃ」



 おや、今日は珍しく書き物をしていらっしゃる。


 筆記具を持つ手が最高に美しい。


 お手本のような持ち手。



「今日は何をしていらっしゃるんですかぁ?」


「…蘇生魔術の応用法を探っていますの」



 お食事をもう一つある机に置いて、横目でサリン様の手元に重なる紙を見る。


 …すごい密度の文字。


 目的の方法へ至る公式に目星をつけていらっしゃらない様子。


 なんというか、しらみつぶしに模索していらっしゃる…という感じ。


 懐かしい。


 この一切の漏れがないようにと言う意思を感じられる緻密で訂正のしようがないレポート。


 まるで新聞の文字のようなきれいな文字。


 師に報告する為ではなく、誰が行使しても同じ結果になるように考えられた魔術理論。


 本当に、素晴らしい。


 どんな宝石や奇跡より価値ある物だ。


 …知りたい、この人の思考を、思想を。



「気になりますの?」


「えっ!?あ、すみませんワタシつい…」



 そうおっしゃるとサリン様は手元の一枚を渡しに手渡してくださった。



「拝見させていただきまぁす!」


「どうかしら」



 ふむふむ、なるほど成程。


 やはりサリン様も10年来かつ愛しているという者の生贄という条件が気になっているご様子。


 …。



「あの…これ」


「ええ、書いてある通りですわ」



 10年という期間は対象者を深く理解している者でなければならないからという仮説、魂が精神に宿っているという思想が根付く王宮に携わった者が初めに作り出したとすれば可能性として対象者の死んだ肉体に他者の深い理解という精神的魂を移植することで高い精度で対象者の人格に限りなく寄せた蘇生が可能になる、それが古い蘇生魔術の仕組みであるとするならば現状肉体は死につつも精神が生きているカロンであれば10年知り合った生贄の代わりに理論上453人の生贄で代用ができる、何故10年知り合った生贄と453人の生贄が等価であるという計算は対象者への意思の強さに魔術・呪術的な魔力の指向性が重なることで…



「これは…」


「魔術公式上では半分の成功率ですわ。けれど」



 考えたことはあった、魔力を利用した公式である魔術とは別の意思を利用した作用の呪術。


 魔術と呪術に相違点は多い。


 だがどちらも術である。


 もてる術をすべて投じて事をなす。



「手段を選ばないのであれば」



 意思と魔力その両方を扱い今までにはない法則で奇跡を起こすというのなら。


 もしもこの…儀式が成功するのなら。


 きっと。



「必ず成功しますわ」



 この世に魔法という概念が生まれるのだろう。


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