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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第7章:狂姫と天才
208/226

208.「」↲

 ジオネ氏が泣き止んで少し経った後、ワタシ達はとりあえず眠る事にした。


 拠点を変えるべきだと髭おじが言っていたが、サリン様がそれは不要と断言されたので移動はせず結界?だけ張りなおしてこの屋敷に居座っている。


 ジオネ氏やドルティも眠りにつきワタシもサリン様がお眠りになったらスンヤリしようと思って居る…んだけど、サリン様がお眠りになるかは若干怪しい。


 というのも騎士君は移動しないと聞いた途端に動き出し屋敷の外で飾られた甲冑の如く動かなくなったからだ。


 折れた直剣に切り裂かれ半ば融解した大盾、兜の無い重装鎧。


 何処からどう見ても捨てられた墓所とかに安置されている死者の遺品の様。


 でも時々動いて当たり前のように隣に座っているサリン様に外套を着せたり麗しすぎる金髪についた木の葉を取り除いたりしているのを見ているとやはり騎士君ではあると納得できて安心する。


 そういえば以前騎士君は自分が死んで役立たずになるくらいならアンデットになって少しでもサリン様の為に戦うとか言っていたけど、リインさんが見たところアンデット化はしていないらしい。


 まぁソレに関してはサリン様が却下していたし、騎士の鏡である騎士君がサリン様の言いつけを破るワケがなかった。



「それにしてもなぁ…心配だよねぇ…」



 みんなが寝た後ワタシはこっそりサリン様に死者の蘇生魔術について知っている事を全て伝えた。


 方法は意外と簡単で適切な触媒と魔術陣、適切な太陽と星の位置、そして死者を詳しく知り10年以上付き添って居て深く愛している者の生贄を用意する事。


 ワタシはしっかりと"10年以上"のくだりを強調して伝えたのでサリン様が生贄になろうとする事は無いと思うけれど…。



 ベットの傍にある窓からサリン様と騎士様を見守っていると少しずつ眠たくなってきた。



「ふァ~…あ」



 今ワタシがサリン様を心配して二人の時間を奪うのはなんか違うしもう寝ちゃおうか。


 …この屋敷古いんだろうなぁ。


 ギシギシぎしぎし…うるさいなぁ…。


 髭おじとリインには明日文句を言うとしてワタシはこれにてスンヤリ。



「……」


 スヤスヤ。


「……」


 すやすや…ギシギシ。


「…」


「…」


 ぎし。


「」


「(うるせぇ!!)」



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



 月が城の屋根に差し掛かる。


 深夜の喧騒も深く優しく洗い流す風が夜明けを連れようとしている。


 夜に生きる人々も夢に攫われる頃に二人何処でも無い何処かを視線で追い、優しい憂鬱に身を任せる。


 母は病に倒れ、父は動くだけの死体になり。


 妹と姉は殺した。


 あれだけ利用した愚者(飼い犬)は結局殺した、殺してみたら彼女は死ぬ寸前まで誰かを愛する(善人)だった。


 あれだけ恐れていた天才(バケモノ)も殺した、殺してみたらあっさりと死体になった、結局ただの(人間)だった。


 存在するかもわからない何かに怯えて壁を作り安全なところから一歩引いた所から見渡して、彼らを獣としたのは私自身だった。


 そんな獣たちが、私の知らない所で勝手に蠢いて。


 私に何かをしようと目を光らせていた。


 だから面倒くさくなった。


 大切な人を獣から守るなら、獣を飼い慣らすよりも、肉を献上して機嫌を取るよりも殺してしまった方が簡単で確実だった。


 だから殺した。


 危険な獣を全て駆除した。


 そうしてやっと気が付いた。


 彼らは人間だった。


 私こそが獣だった。


 獣から身を護るために手段を選ばず壁を作っていたつもりが、気がつけばそれは私の何処かに残っていた人心や理性が作り出した私自身を閉じ込める為の檻になっていた。


 押し込めて全てが崩れないように理性で括っていた。


 でも人を愛してしまった。


 そうしたら文字通り箍が外れた。


 抑えていた理性が崩れ溶けて秩序を失った。


 獣を慈しんでいた人や檻を眺めていた人を殺して、愛した人まで傷つけた。


 駆除されるべきは()だ。


 罰を受けなければならないのに、()はまだ生きている。


 何故か?愛した人はそんな()すら愛してくれたからだ。


 駆除すべき()をその身一つで守ってくれたからだ。


 だから…もう()の命も、身体もその全てが彼のものだ。


 誰もいらないと、悍ましいと捨てようとした物をただ一人大切にしてくれた彼の。


 彼だけの物。


 こうして隣で今も守ってくれる彼の。


 愛した人に愛される事がどれだけ自身の救いになってくれているかなんて、言葉には表せない。


 だからもう今更立ち止まるわけには行かない。


 歩み続けると決めた。


 例えそれが獣道だろうと人道というものを踏み外していようと、地獄へ落ちていくのだとしてもその先に見えなくとも目的地があるのなら、それは目的へ向かって進んでいるという事なのだから。



 悠々と街に呑まれていく月とは対照的に燦々と煌めく炎の光が、瞳の奥にじりじりと焼き付いていた。

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