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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第7章:狂姫と天才
204/226

204.ふゥ、よしこんなァもんだな


「ふゥ、よしこんなァもんだな」



 頼まれていた量産型騎士鎧を調整し終え一息つく。


 額に流れる汗を拭って、用意していた水を飲み干すと若干熱の入っていた身体が収まる。


 そういえばカロンは今何をしているのだろうか?


 あの日からカロンと会えていない事に苛立ちよりも不安を強く感じる。


 病院で療養しているだろうか?もうとっくに治って仕事をしているだろうか?


 それとも…



「…いやァ、無いな。カロンに限ってそんなワケねェ」



 事実カロンの重装鎧に組み込んだ装着者の魔力を検知し生存を確認する回路は正常に機能している。


 今だってカロンの重装鎧から信号を受信できている。


 今までは流石にキモいかと思って自重していたが事情が事情だから仕方ないだろ。


 …森で重装鎧を整備する時間があって良かった。



「さてとォ、やることやッたし」



 日課の時間だ、ということで試作動向確認魔術(仮)を行使する。


 この魔術は前述した魔力を検知し生存を確認する魔術を回路として組み込まれたモノの居場所を把握することができるという代物だ。


 まだ試作段階な為、たまに回線が切れたりするがまぁそこは追々修正していくものとする。



「さァて今日のカロンはッと…」



 ん?王城に居ない。


 今日は王位継承の…



「近いなァ」



 どういうわけかは知らないが王城方面からどこかへ一直線に進んでいる。


 時々立ち止まってはいるようだが…まぁあのデカさだ、人にぶつからんようにしてるんだろう。



「…」



 そこで一つ妙案を思いつく。


 ここからカロンの座標までそこまで遠くはない。


 ならば…。



「ァ、会えるじャん…」



 い、行くか。


 いや仕事中だったら声はかけられないか。


 …それでも一目だけでも会いたいし。



「…」



 ふと鏡を見る。


 ぼさぼさの髪に鎧の調整で汚れた作業着。



「とりあえず…身だしなみを整えるかァ」



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「何だあれ」



 身だしなみを整え、工房の外へ出ると真っ先に目に入ったのは空へ上るいくつかの煙。


 しかもその根元を見るまでもなく煙は王城から出ていた。



「一体何がァ…」



 真っ先に思いついたのはまずカロンに聞こうという事。


 そう思いついてしまったからには後は早い、すぐさま走りにくい服装で出立したことを若干後悔しながら走る。



「襲撃かァ?だが王城の守りを突破するなんざァありえるのかァ?」



 とにかく走る。


 少しづつカロンの元へと近づくにつれて少しづつ様々な音が耳に入ってくるようになる。


 誰のか分からない多数の悲鳴。


 剣がぶつかり合う音。


 爆発音。


 打撃音。


 建物が崩れる音。


 それら全てがカロンの方向から聞こえてくるのだ。



「…」



 嫌な想像が膨らんでいく。


 カロンが進んでいる通りはもうすぐそこだ。


 直後私のすぐ真横の家に何かが衝突して倒壊する。



「なんだァ!?」



 瓦礫の中には砕けた量産型騎士鎧を装着した騎士が倒れている。


 そう、量産型とはいえ騎士鎧が砕けている。


 尋常じゃない事だ、騎士鎧がどれだけ頑丈だと思っている。



「クソッ」



 小道を抜けカロンの居る通りに出る。


 そして一瞬で血の気が引いていくのが分かる。



「カ…え…?」



 全身いたるところに剣や槍が突き刺さったまま騎士と戦い、どこかへと直進する"首の無い重装騎士"。


 もはや人間であるかどうかすら断言できないような姿の彼が。


 どうしても、どうしようもなく私の幼馴染である彼だと理解できてしまう。


 そんなはずはない、首がないのに動いているし。


 彼は若干怪しいが人間であることは間違いないはずなのに。


 やはり、どうしようもなく納得してしまう。



「あァ…お前、カロンだな」



 カロンは止めようとする騎士達を蹴散らしながらこちらに歩いてくる。


 それもそうだ、少し先回りした道に私が出たのだから。


 彼は私のことを理解できるのだろうか?…首が無いのだから無理だろうな。


 私もあの騎士たちと同じようにカロンに斬られるだろうか?…そうだろうな。


 でも、頭ではそう分かっていても。


 私の身体は逃げない。


 本能的にカロンが私を傷つけることは無いと思っている。


 いや、そうであってほしいと思っている。


 私はあの蹴散らされている騎士達とは違うと、彼の特別な存在だから私はそうならないと。


 そう、信じたい。



「そこのお前!危ないから今すぐ逃げなさい!!」



 見知らぬ騎士が私にそう叫ぶ。


 だが動こうとしない私を見て覚悟を決めたのか私の前に立ちふさがる。



「怖いだろうが落ち着いて、少しづつでいいから動くんだ」



 優しい声音でそう説く。


 あぁ一般人目線から見る騎士のなんとかっこいい事か。


 彼ほどではないが。



「…っ!」



 騎士が息をのむ音が聞こえてくるようだ。


 それほどまでに首の無い重装騎士の圧は凄まじい。



「が」



 一瞬。


 一瞬だ、私の前に立ちふさがった騎士は大盾で薙ぎ払われて瓦礫の中へ消えた。


 多分死んではいないだろう。



「…カロン」



 そしてついに私の目の前にカロンが近づく。


 首がないからこちらを見ているのかどうかすら分からない。


 もし先ほどの騎士と同じように大盾で薙ぎ払われたら私は死ぬだろう。


 信じたい。


 私の価値を、彼との時間を。



「…」



 壁。


 いや、大盾。


 いつも整備しているというのに今日ばかりははるかに大きく感じる。


 私では持ち上げることすらできない巨大で重厚なそれが。


 私に触れる。


 そして。



「…ッ」



 こう…ぐいぐい、という感じで道のはしっこの方へ押される。


 優しい。


 そしてそのままカロンは道を進んでいった。


 剣や槍が沢山突き刺さった背中が遠ざかっていく。


 心臓が高鳴っている。



「ッ…ぷはァ…心臓が止まるかと思ッた…」



 私はそのままへたり込んで脱力する。


 もし度胸試しの世界大会があったら私は優勝できるだろう。


 それくらい度胸を試した感覚だ。

 

 結果は見ての通り。


 私は生きてる。


 結局私は彼の特別だったらしい。


 なんだかとても安心して、嬉しく清々しい。


 

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