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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第7章:狂姫と天才
201/226

201.そうですの、では次は何をしてくるんですの


「それで?本体はどこにいますの?」



 足元に倒れ、虚ろな目をしているお姉様(バケモノ)に問いかける。



「……えほっ…けほ…身代わりなんていませんよ、サリン」



 あっけない。


 なんともあっけない事に天才である筈のお姉様(バケモノ)はこんなにも簡単に死にかけている。


 やったのは私だ、私が撃った。


 だから当たり前なのだけれど、本当にこれで正解なの?


 目の前で生死の境を彷徨っているのは本当にあの天才(お姉様)なのか?こんな決着のつけ方で良かったのか?本当に殺すべきだったのか。



「そうですの、では次は何をしてくるんですの」


「ふ、ふふ。いえ…さすがにこのまま死に行きますよ」



 ああ、これは正解だった。


 これで本当に殺せたのか。


 初めからまともにお姉様(バケモノ)の話を聞くつもりなんて無かった。


 きっと話せば天才であるお姉様(バケモノ)は私の決断を鈍らせた事だろう。


 言葉で洗脳する相手の話は聞かないことに限るのだし、やっぱり正解だった。



「…本当に?」


「はぁ…ふー…はい、本当に」


「天才であるお姉様が?本当にここで死んでしまいますの?」


「……………残念ですか?」



 あ。


 死んだ。


 最後の言葉は"残念ですか?"…か。


 ええ、まぁ。


 強いて言うのなら。



「残念ですわ」



 とはいえ殺したことは全く後悔していないけれど。


 きっとここで後悔しているのならもう私は既に洗脳されていたという事。


 私は狂人では無いのだからお姉様が亡くなったのは残念ではあるけれど、本当に殺せて良かったと思う。



「…」



 一人でチェスをしていたお父様が立ち上がり、お姉様の亡骸へと歩いていく。



「…(お姉様が生前に何か言葉を残していた?)」



 私の疑問もつゆ知らず、お父様はお姉様の亡骸へと手を伸ばす。



「メチル」



 そして優しい手つきで開いたままの瞼を伏せた。


 泣いている?


 死体になって操られているはずなのに?


 分からない、お父様とほとんど話したことの無い私には解りえない。


 王族にだけ伝わる秘伝の魔術だったとしたら、私には知る由も無い。



「…っ」



 お父様と目が合う。


 私の方へゆっくりと歩いてくる。


 今まで離れたままだった距離を縮める様に。


 怖い。


 足が竦んで動かない。


 私は逃げられない、歩けない。


 カロン。


 カロンが居なくては私は歩けない。



「あっ」



 気が付けばお父様は私のすぐ目の前に居た。


 私とお父様の距離は散弾銃一丁分だけだ。


 引き金を、引かないと。



「サリン」



 お父様は、私を害することもなければ叱りつける事もなく。


 ただ、私の頭を撫でた。



「自由に生きなさい」



 お父様はそれだけ言ってお姉様の亡骸を抱きかかえるとそのまま私が入ってきた扉とは別の扉から出て行った。


 私は引き金に指を掛けたまま動けなかった。



「はい…」



 チェスは白の駒が勝っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 先ほどお姉様と二人で歩いた廊下を一人で歩く。


 この先にカロンが居ると思えば、自然と足は動いた。


 早くカロンと合流しよう。


 きっとカロンなら教えてくれるだろう。


 この濁った気持ちも、不快ではないこの気持ちも。



「ふふっあはは…」



 ああ、でも。


 やっと終わった。


 ずっと、ずっと私を縛り付けていた因縁も自ら打ち砕いた。


 これで終わりだ、やっと解放される。


 気分が良い。


 足取りがだんだんと軽くなっていく、いつの間にか流れていた涙も無視してカロンの元へ急ぐ。


 すぐに扉のもとにたどり着く、焦げ付いた扉だ。


 きっと何かあったのだろう、でもカロンは絶対に私を待ってくれている。



「あはははっ…ふふっ、カロン…喜んでくれるかな…」



 やけに重たい扉を開ける――




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