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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第7章:狂姫と天才
196/226

196.ワタシも未来の為に


「おお…」


「まさか本当にお越しになられるとは…」



 城に入城し若干の騒めきの中サリン様と王位継承の式場に到着する。


 王位継承はこの部屋の奥にある美しい彫刻の扉を開いた先の部屋で執り行う。


 王位を継承する王達の為の神聖な場である為、王の血族以外は入室を固く禁じられている。


 勿論近衛騎士ですら入室を許されない。



「おはよう、サリン」



 彫刻の扉の前にはメチル様と見覚えのある近衛騎士が立って居る。


 …ああ、気持ちは分かるがそんなに緊張するな。


 気品という物があるだろう、メチル様の近衛騎士よ。


 君も騎士であるのなら品良く侍る事を忘れるな。



「おはようございますわ」



 王位継承の儀式は王の血族だけで行われ、我々はそれが終わるのをただ待つしかない。


 儀式が終われば改めて国民に発表される。


 どちらもまとめて公開してしまえば簡単だろう…などと思う輩はこの国にはいないと思うが…そういう古くからの習わしなのだから我々は従うのだ。



「さぁ、サリン。もうお父様がお待ちですよ」



 メチル様が彫刻の扉の横に控えている従者に視線を送り、扉を開かせる。


 それすらも美しく気品に溢れる所作だ。



「ええ、お姉様」



 儀式の部屋へ向かわれるサリン様の少し後ろを付き従い、扉の前で最敬礼をしサリン様をお見送りしてから扉の横で待機する。


 まさかこんな歴史的瞬間に近衛騎士として参加出来るとは…また一つ夢が叶ってしまった。



 …そして従者によって扉は静かに閉じられた。


 ああ、神よ。


 どうか、サリン様の目的が達成されますよう。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●



「でぇ~?ホントにココに例の書類はあるんですかぁ?」


「あるある。だってこの部屋記録保管庫だぜ?ここに無かったらもう何処にも無いだろ」


「…意外と適当なんですねぇ」



 髭おじさんとは反対方向の棚から順に漁っていく。


 時々どす黒いヤバそうな情報が書かれた書類があったりしてアホ程怖い。


 他国の文化を衰退させて歴史を改ざんする計画書、王の身体のスペア製造計画書、協会への奴隷納品書、騎士の印象操作の結果報告書…その他たーくさん。


 ………そういえば髭おじさんが普通に扉開けてこの部屋入ったけどさ…あの扉室内からよく見たら物凄い防犯扉だよね…マジどうやって開けたんだろ…。


 こっわ。



「お。これはこれは…一つ見つけた。王族三姉妹による王国の統治案の原本だ」


「おおぉっ!順調ですね日付はどうなんですかぁ?」



 さっそく髭おじさんが一つ見つけたっぽい。


 凄いぞ髭おじ!



「あちゃーこりゃヤバイ5年前の日付だな。しかも痕跡も古い、確かに5年前後は経ってる」


「うわぁ…ばーけもんですねぇこりゃ」



 5年前の日付という事はつまり本当にメチル様は5年も前から王族三姉妹で王国を統治する予定だったっていう事になるねぇ。


 日付は魔術で刻印されるから基本的に偽造はしないのが常識。


 と言っても偽造をしようと思えば出来る…には出来るんだけども…古い魔力の形跡は詳しい人が見ればパッと見で分かるのでバレるリスクがある。


 日付の偽装がバレればその人の信用はガタ下がりだからそんな危険を犯す人は殆どいない。


 うん、メチル様は本当に天才だったみたいだ。


 だからこそ…本当に三姉妹で統治するつもりだったのか、それとも将来アトロ様がお亡くなりになって自分に疑いの目が向けられるかもしれないと予知してその対策に用意した書類なのか…どっちなのかは分からない。


 結局すごいバケモノだ。



「じゃあ予定通りその書類はぁ」


「ああ、消し去る」



 そう話すと髭おじさんは原本をくしゃくしゃにして衣嚢にねじ込んだ。


 ここで燃やしたりすると臭いとか燃えカスとか出てバレるかもだしね。


 魔術で燃やさなくても現場を調べればその程度の事バレて当然だからね。


 いくら魔術が便利だからとはいえそれくらい当たり前だもの。



「後は取引記録が見つかれば完璧なんだが…」


「なかなか見つかんないですねぇ」



 流石歴史ある我らが王国っ!記録の書類が多い多い!皮肉だよ。


 種類ごとに分かれてるから探しやすいとはいえ式典が終わる前にってなるとちょっと怪しいよね。


 間に合わなかったときの事を考えると…マジ…胃が…。



「あ」


「どしたスタンちゃん。あった?」



 魔族との取引記録…これじゃね…?


 パラパラと軽く目を通しただけで次回の大規模戦闘がどうのとか武器の支援とか…あらら。



「あぁ…そっか…そっか。ハハハ…酷いなぁ」


「まさか本当に魔族と取引してやがったか…」



 これが未来の平和の為かぁ。


 へぇ、そうなんだ。



「ワタシも未来の為に…誰かを犠牲にして魔学を研究してきたけどさぁ」


「…」



 これは酷いじゃないか。


 それなりに王国が強いから目の前に居る敵は皆殺しにしないと国民は納得しない?このまま延々と戦争し続けるより一度大敗して国民に魔族とは戦わない方が良いって思わせる?その後に少しづつ魔族と人間で協力関係を結んでいく? 


 そんな理由で沢山の騎士様達が死んでいったの?なんでそうなるの?


 今までだって生きていく上で害がある動物や病原菌は根絶やしにしてきたじゃない。


 何故昔に倣って魔族を根絶しないの?王国にはそれが出来る力があったのに?それを可能にする魔学力があったのに?


 天才である筈のメチル様がどうしてそうしなかったの?


 





 …そっか。



「メチル様は初めから王国の為になんか動いてないんだ」



 評判や書類の書き方に歪に強い意志を感じる。


 まるで初めからたった一つの目的があって、それを成し遂げる為に行動を起こしてる様な。


 ワタシは今までその目的がきっと王国の為なんだと思ってた。


 そう思い込んでた、勝手に期待してたんだ。


 そして多分それも…全部メチル様が天才だからそうなるように、そう思い込んでしまうようにしてきたんだ。


 怖い、恐ろしい、悍ましい、気持ち悪い。


 これでは集団洗脳…いや国単位で洗脳している様なものじゃないか。


 

「あれ…?」


「やっと気づいたのか」



 やっと?この人は既に同じ事に気が付いていたからサリン様側に付いたの?


 なにか…引っ掛かる。


 昔、何処かで集団洗脳に関する文を読んだ覚えがある。



「あ…!」



 "集団洗脳の対処・対応について"…!


 そしてあれを書いたのは…!



「サリン様だ…」


「そういう事だ」



 サリン様は分かっていたんだ…!期待されるのは好きじゃないって…そういう…。



「サリン様が王になれば…魔族を皆殺しに出来るし、騎士や魔術士が無駄死にすることも無い、そして…王国がメチル様の玩具にされる事も無い」


「そうすれば…全部、全部…」






「そこで何をしている」



 第三者の声に振り返ると同時に。



「あ」



 景色が、くるりと、宙に。


 舞って。



 

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