195.花がお好きなんですか
「…はい。騎士カロン・ヴァンヒートとサリン・シャンカ・バルトルウス・センス様ですね、確認が取れました」
王城のすぐ手前にある大門にて車を停め身分を証明し終える。
スタンとカコルネルさんは隠蔽魔術により目に見えない上に魔力で探知出来ない様になっている為、頭数には入っていない。
大門を警備している者も騎士である以上二人が隠蔽魔術を行使している事に気が付くかもしれないと思い注意していたのだが…そこは流石カコルネルさんだ。
「しかし…本当にサリン様がいらっしゃるとは…」
「我らの姫様ですよ。当たり前ではありませんか」
「それはそうなのですが…色々とあったものですから」
警備の騎士はそう言って簡易的な敬礼をすると他の警備に合図を出し、すぐにその名の通り非常に巨大な大門を開いた。
そう言えば…他の国へ派遣された時に知ったのだが、多くの場合こういった大門にはその国の紋章を描くことが多いらしい。
というのも今目の前で左右に開いた大門には王国の紋章は描かれていない、その理由を噂で聞いたがどうやら国を現す紋章が左右に分かれるのは縁起が悪いから…だそうだ。
「ではお通り下さい」
「ありがとうございます」
魔動車の窓を閉めて大門を通り抜ける。
そうすればすぐ視界一杯に非常に大きく壮大な王城が聳え立っている。
…やはり街から見るよりもここから王城を見たほうがより帰ってきたという実感が湧く。
綺麗に咲き誇る花々も訓練場も詰め所も今となってはもう懐かしい。
「あら、今年は良く咲いていますわね」
サリン様はアトロ様が一生懸命世話していた花壇を見てそう呟かれる。
確かに今年はジプソフィラが綺麗に咲いている。
「わぁ…綺麗ですねぇ」
姿は見えないが後部座席にいるスタンが…多分窓に張り付いてそう言っている。
「花がお好きなんですか」
「いや別にぃ。ただ…なんてゆーの?キレイに整えられた花壇からやさしさ的なぁものが感じ取れてぇそれを含めて綺麗だなぁぁって」
…普段見ているスタンが変なだけで実は内面とか意外と乙女だったりするのだろうか。
「まぁそれも来年からは見れなくなるか知れないけどな。アレ育てたお方死んじゃったし」
「………へ?あの花壇でお花育てたのアトロ様だったりする?」
「する」
「あ…え…、そっっか…そうだったんだ」
目には見えないがきっとしょんぼりしているであろうスタンに声を掛ける。
「大丈夫です。あの花壇はアトロ様がお亡くなりになられたから綺麗になったのですから」
「えぇ…そんな言い方あまりにも…」
「事実だから仕方ありませんわ。アトロは花壇の手入れが下手でしたもの」
サリン様はくすりとも笑わずにそう仰られる。
実際俺もアトロ様が一日に10回程水やりをしているのを見掛けた事がある。
あの日は昼頃まで詰め所に居た為気づいたが…まさか昼過ぎまでに10回も水やりをしていらっしゃったというのにその後も水やりを…?もはや枯らしに行っていたのでは?
「これからは…アトロが手入れしていた時より綺麗な花壇になりますわ」
「まぁサリン様がそう仰るなら…」
大きな花壇も通り過ぎ王城の入口が近づいて来る。
そろそろ別行動に移さなければ危険な為、後部座席の窓を開ける。
開けた窓からは花の良い香りがほんの少しだけ入り込んでくる。
「よし。それじゃスタンちゃん行くぞ」
「え?もう?」
スタンが何か言いかける前に後部座席から気配が無くなる。
それを確認して後部座席の窓を閉めた。
一気に静かになった車内でサリン様と二人きりになる。
「ねぇカロン」
「如何しましたか」
「全て終わったら何をしましょうか」
「…サリン様とご一緒させて頂けるのなら、どんなことでも」