194.…上手くいけばこれで終わりだ…
あけましておめでとうございます。
いつも騎士と狂姫は歩くを読んでいただきありがとうございます。
当初の約束通りコロナに感染したり車に撥ねられたりしながらも投稿を続けた結果、何とかこの物語も終わりが見えてきました。
まだはっきりとは言い切れませんが今年中に結末を迎えるかもしれません。
引き続きよろしくお願い致します。
昼頃の慌ただしい道路で魔動車を走らせる。
この前頂いた休日に確保しておいたセインF2魔動車だ。
旅路で入手したアーレン32式とは違い悪路への適正は無いが…本来王族であるサリン様がお乗りになられる車両の為、本来はこういったセインシリーズの様な高級車で無ければならないのだ。
そして勿論行先は…王城だ。
「ききききききんちょぉする…!!あああああ」
助手席に乗っているスタンがまたしてもかたかたと振動しながらきょろきょろとしている。
あれだけ励ましたというのにもう効果が消えたのか…。
「そんなに緊張するなよ。俺らの仕事なんて大した事じゃないんだぞ?」
カコルネルさんはこんな時でもいつも通り飄々とした態度で後部座席に座っている。
なんなら足を組んでくつろいでいる。
流石だ。
「そーは言いますけどぉ!"例の書類"を探してる時に警備の人に見つかったりしたらぁ…!」
"例の書類"…この言葉にはいくつかの書類が該当する。
例えば"大戦に関する魔族との取引記録"、日付の刻印された"王族三姉妹による王国の統治案"に関係する書類…。
そして"存在しないアトロ様の暗殺計画書"。
これらを見つけ出し公にすることでメチル様という神に等しい天才を地に落とす。
「見つかったらそいつの運が無かった…って訳だ」
カコルネルさんは懐から短刀を取り出し、それを磨く。
そしてそれをバックミラー越しに見たスタンがぶるりと大きく身を震わせた後口を開く。
「ワタシ一応人とか殺した事ないんですけどぉ…」
「ハイハイ…俺が殺るから気にすんな」
カコルネルさんはため息をつく。
まぁ気持ちは分からないでもない…が、どうせスタンは殺し損ねそうなのでカコルネルさんが手を下す事には賛成だ。
「へ、へへ…すいませぇん…」
「ハァ…血も涙もない人体実験を容易く実行する狂気の博士って聞いてたんだがな…」
…俺も初めてスタンに会った時は同じような気分になったものだ…。
「あら、そんな二つ名がありましたのね。ふふっ…変な二つ名ですわね」
「二つ名イジるの許してくださぁいよぉ…ワタシが名乗り始めたワケじゃぁないんですぅ…!」
バックミラーを覗くと口元を左手で隠して可笑しそうに笑っておられるサリン様が見える。
…今日は白を基調として青い刺繍が入っている裾の長いドレスを着ていらっしゃる。
何とお美しい事か…!!
「!…。」
バックミラー越しにサリン様と目が合う。
それに気が付いたのかサリン様は耳を赤くして恥ずかしそうに視線を外してしまわれた。
…可愛いが過ぎる。
心筋梗塞でも起こして絶命しそうだ。
可愛い過ぎる事による激しい鼓動と…この先起こるであろう事に関する心配で、だ。
王位継承の儀は魔術を完全に封じられた部屋に王族のみが入室して行う儀式だ。
王位を継ぐ者には皆一様に特殊な紋様を身体の一部に刻むとされているが…恐らく魔術が封印されている関係上、魔術的な物では無いのだろう。
実際の所は知らないが。
まぁとにかく儀式が終わるまでは一度入った者は部屋から出る事が出来なくなる。
だからこそメチル様という最大の頭脳を封印した状態で事を起こせるという利点がある。
…つまり今回の作戦の勝率は十分に存在するという事だ。
ちなみに過去の事例から学ぶと近衛騎士ですらその部屋には入室を許されないらしいのでやはり非常に不安である。
「…」
「カロン?」
俺の不安がサリン様に伝わってしまったのかサリン様は俺の名前をお呼びになる。
…駄目だ、しっかりしなければ。
「大丈夫です、問題ありません」
「…そう」
そうこうしている内に王城が見えた。
王城の入口には騎士が何人も常駐しており若干の物々しさを感じさせる。
「それじゃあスタンちゃんちょっと失礼」
「ひょッ…!…急にぃ首元さわんないで」
珍しくスタンがほんの少し不機嫌そうな声を出した後、カコルネルさんと共に視界から消える。
予定通りだ、このまま俺とサリン様の二人だけが王城に入城した事にする。
大戦の延長戦も、長い旅も、サリン様の不安の種も…ここで決着がつく。
「…上手くいけばこれで終わりだ…失敗は、しない」