187.一番初めに提案したのは
投稿が遅れて申し訳ありません。
バイク乗ってたら車に撥ねられまして…現在リハビリ中です。
この作品は命を削ってでも完結させますのでご安心下さい。
姫様方全員が同じテーブルに着かれる。
テーブルには大量の豪華な食事が並んでおり、正直なところ流石王族の開いたパーティーだという感想しか出てこない。
「良い挨拶でしたねサリン」
「あらそうですの。お姉様の挨拶はさぞかし良かったようですわね」
「もうサリンお姉さまったらすぐそんな皮肉を…仲良くしましょう?」
サリン様のメチル様嫌いが傍で聞いていてよく伝わって来る。
流石にここまで厳粛な場では俺が口を挟むなど言語道断なので黙って聞いているしかない。
…勿論メチル様もアトロ様も俺達騎士にとっては命より尊い存在だ、だがもはや仕えるお方を見出した俺にとっては二の次と言わざるを得ない。
「ふふ、サリンは相変わらずですね。騎士の皆さん、ずっと立って居るのは大変だと思いますがそういうしきたりですのでごめんなさいね」
「いえ、問題ありません。慣れていますので」
「…」
「…」
俺とメチル様の傍に控えている騎士は無言で敬礼をするが、ユヒサだけは穏やかに答えている。
本来ならば黙って忠義を示す所の筈だが…まあ幼い頃からの付き合いがあるのだしそれ程に仲が良いのだろう。
こういうのをゆとり世代というのだろうか…?いや詳しくは知らないのだが。
「さすがユヒサ!いつもありがとうね」
「そんな…アトロ様私は騎士として当たり前の事を…」
姫様方が会話をしていらっしゃる内に会場の隅で忙しそうにしているウェイターに目配せをする。
このままではパーティーが進行しないので酒を姫様方に注ぐように、という意図だ。
そう、未だに乾杯すらしていないのだ。
壇上ではパーティーの進行役も若干困った様子で乾杯の合図待ちをしている。
しきたり・作法・身分…それらは尊重するべきものだがこういう時は若干不便にも思う、俺が直接姫様に酒を注げないのもそういう訳がある。
汚れ仕事でも何でも心を無にして遂行する騎士だがこう見えてかなり身分が高い、故に自分で出来る様な事もある程度他人にやらせなければならない…そうでなければ彼らの仕事が無い。
ちなみに騎士がこういった場で姫様の空杯に酒を注げないのは、騎士が要人を護衛している…という体があるからだ。
要人を守っている筈の騎士が呑気に駄弁りながら酒を注いでいては要人が安心してその場を楽しめない…と教わったのを今でも覚えている。
「あら、ありがとう」
「遅れてしまい申し訳ありません」
焦った様子のウェイターが急いで姫様方の杯に酒を注いで回る。
全員に酒が行きわたった所で壇上の進行役に合図を送る。
『それでは皆様グラスを持って頂いて。…大戦の勝利と再び三人揃われた姫様方に!』
「「「乾杯!!」」」
パーティー会場に集まっている皆が右手に持ったグラスを掲げる。
その後は酒を呑むなり食事を始めたり会話をしたりと皆様々だ。
…とはいえ騎士は姫様方の傍を離れてはいけない、そもそも離れるつもりも無いのだが。
「ぷはぁ、このお酒美味しいです!」
「ふふ、そうでしょう?この日の為に良い物を取り寄せたんですから」
「…」
ちらりと酒の銘柄を見ると確かに有名な醸造所の良い酒だった。
サリン様は特に酒を呑むわけでも無く、料理を食されることも無くじっと微笑みを浮かべながら座っておられる。
こうしておられると美しさを極限まで追求した高級人形の様だ。
「あれ、サリンお姉様はお酒呑まないんですか?苦手でしたっけ?」
「いえ、苦手という程でもありませんわ」
……………苦手では無い……?いやいや…あれ程まで呑めて苦手では無い…と仰るのですか…?むしろ大大大得意と言い張れる呑みっぷりだった覚えがあるのですが……。
毒物に耐性のある俺にあれ程まで張り合われたというのに…何という謙遜なのだろうか。
苦手では無い程度というのはスタンとかを指す言葉なのでは…?
「???じゃあどうして…」
「いえ…毒が入っていたら死んでしまいますもの」
「えぇぇ…相変わらずサリンお姉さまは心配性ですね」
「ふふ、毒なんて入れていませんよ?…んくっ…はぁ。ほら」
毒を警戒しているサリン様にメチル様が自ら酒を呑んで潔白を証明される。
メチル様の顔は赤い、意外にも酒には強く無いのかも知れない。
…いやこれこそが相手を油断させる天才の策略なのかも知れないが。
「ほら~!メチルお姉さまもこう言ってるんですし大丈夫ですよ!」
「…そもそも入っていたボトルが違いますわ」
「だから毒なんて入れてませんって…、サリンは本当に臆病なんですから」
「あぁ…もう、そんなしょんぼりしないで下さいサリンお姉さま!じゃあ私のと交換しましょう?」
アトロ様はサリン様に自身が使って居た杯を手渡される。
それをサリン様は少し申し訳なさそうに左手で受け取って右手に持っていた杯をアトロに手渡された。
ちなみにサリン様はちゃっかりアトロ様が口をつけていた部分をハンカチで拭って居らした…流石サリン様だ、抜け目が無いご様子。
「一人だけ呑めないなんて寂しいですよ、一緒に呑みましょう?」
「アトロ…ありがとう」
「だから毒なんて入っていないのに…はぁ。でもサリンの臆病さは今に始まった事では無いものね…さ、私達でもう一度乾杯し直しましょう?」
何とも心が温かくなる光景だ、他の参加者達も邪心が一切ない優しい眼差しで姫様方を見て穏やかな笑顔を浮かべている。
…全くもって同感だ。
俺も兜の裏では微笑みが抑えられない。
あぁ…本当に。
「では仕切り直してっ」
「「「乾杯!」」」
姫様方は仲良く三人で酒を口にされる。
「あら、美味しいですわ」
「ふふっ、そうでしょうそうでしょう」
「流石お姉さまですわ」
メチル様は相変わらず頬を朱に染めて微笑んでいらっしゃる…いやはやなんて顔の良いお方だ。
こう…刺すような…いやもはや貫くような美しさだ。
「料理も有名な方に作ってもらったのですよ」
「へー…そうですの」
「っ…」
可愛いッ!サリン様が可愛い過ぎるッ可愛い過ぎてちょっと笑ってしまった。
本当にメチル様がお嫌いのようだっ、興味がなさ過ぎて"へー"とは…!ここまで長い旅路だったが初めて聞いたぞこれは。
あぁ…本当に可愛らしい。
カラン
「あぐッ…!ああ‶っ!!」
「あら」
「どうしましたのアトロ?」
アトロ様は喉元を抑えながら椅子から崩れ落ちられる。
「アトロ様ッ!?どうなされたのですか!?」
「ぐ…あはァッ!…くるし、いよぉ…」
「いったい何が…!?治癒魔術士を呼んでください!早く!」
「あらあら」
アトロ様は首と胸を狂われたようにかきむしる。
強くかきむしられた身体からは血が滲んでおりなんとも痛々しい。
「助け、てッ…!ユヒサっ…ゆひさぁ!」
「お、お待ちください…!い、今治癒魔術を…!!」
「あらあらあら」
ユヒサは瞳に涙を浮かべながら必死に治癒魔術を行使する。
だが非常に焦っているのか治癒魔術の構築が甘い、そんな治癒魔術では擦り傷程度しか治らない。
感情を抑え込めと昔教えたはずなのだがな。
「あっ!あっあっ…あっ…」
「アトロ様!アトロ様…ッ!」
「あらあらこれはこれは」
「御下がり下さい」
皮膚の内側で何かが蠢いているアトロ様からサリン様を庇う様に立ちはだかる。
こんな状況になってもユヒサはめそめそと泣いている、メチル様の騎士は若干混乱しているようだが俺の行動を見てメチル様を庇う様に動いていた。
お前達はそれでも騎士か?
「あっ…アッ…アッ…あっ…アッ……あばぁア」
「ひっ」
ユヒサの治癒魔術も虚しくアトロ様だった物の中から何処か見覚えのある化け物が飛び出す、以前見た物より小さいが。
誰もやらないのであれば俺がやるしかあるまい。
「アトロさ
「どけ」
ごしゃッ
ユヒサを押しのけて化け物を大盾で叩き潰す。
大盾越しにソレを叩き潰した感触が伝わる、ちゃんと一撃で仕留める事が出来た様だ。
「あ、ああぁ…!あとろさまがっ…あとろさまが…」
「…」
「大戦時に戦死なされた第二騎士団長ヘルエス様の死因に似ています。魔族の因子が体内に入り込むと…こうなってしまう…という可能性が高いです。私見ではありますが」
会場は静まり返る。
「まさか本当にわたくしに毒を盛るなんて…驚きましたわ」
その言葉に返す者は誰も居ない。
この場はもはやサリン様の舞台と化した。
「しかも使った毒は魔族の因子…でしたわね?」
「確証はありませんが…恐らくそれに近い何かで間違いないと思われます」
誰かの息を呑む声とユヒサのすすり泣く声が聞こえる。
そしてたった一人、凄惨な現場でサリン様は優雅に話を進める。
「どうやって手に入れたのかしら?そう言えばあの"仕組まれた"としか思えない大戦…一番初めに提案したのは…」
サリン様は可愛らしいしぐさに少し困ったような表情で暴く。
まさに、独壇場。
「"メ チ ル お 姉 さ ま で し た わ ね ?"」
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