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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第7章:狂姫と天才
186/226

186.本当にありがとう…アトロ

もう少しで3周年…時間が経つのは早いですね。

まだ続きますのでよろしくお願いいたします。

また、もし宜しければブックマークや評価の程よろしくお願いいたします。



「おお…サリン様…よくぞご無事で…」


「報告では聞いていたが本当に生きていらっしゃるとは…」


「相も変わらずお美しい…」



 扉を開けて会場に入ると見覚えのある高貴な方々が大勢居られた。


 そして見覚えの無い者も大勢いる、きっと俺達が出陣している間に様々な事があったのだろうとそのことから察せられる。


 …それにしても聞こえてくる声のどれもがサリン様を支持する物である事からやはりサリン様が俺の知らぬ間に何かをなさっていたであろうことが伺える。


 理解できぬ話だが、俺の記憶ではサリン様は三姉妹の中でもっとも人気の無いお方だった覚えがある。


 三姉妹の方々の内どなたの近衛騎士になりたいか、というありきたりな話題の時にサリン様と答えると場が冷える程度には。



「サリンお姉さま!」


「…久しぶりですね。サリン」



 会場の舞台前、上座に三姉妹のお二人が席について居られる。


 アトロ様の近衛騎士ユヒサも居る。


 顔は見えないがメチル様の近衛騎士も居る…だがどうやら知っている人物とは違う様だ、近衛騎士をお変えになったのか?


 王は…ご不在か。


 ご自身と血のつながった娘が戦から生還したというのに。



『ではサリン様。舞台へどうぞ』



 サリン様が司会に舞台上へ招かれる。


 邪な気配は感じられないが、俺が未熟なだけの可能性もあるので気を張っておく。



「行ってきますわ」


「見張っておきます」



 俺はサリン様の近衛騎士では無いのでサリン様と共に舞台上へ上がることが出来ない。


 少々不安ではあるが、そういう文化なので仕方が無い。


 …そんな事を考えている内にサリン様は舞台にお立ちになった。



「―――」


「――」



 舞台上で司会と何かをお話になっておられる。


 …司会が元々設置されている魔動拡声機を外して別の魔動拡声機を設置した。


 流石はサリン様だ、流石に魔動拡声機に爆弾が仕掛けられているとは考え難いが…絶対にないとも言い切れないのだから。



『…まずはここに招待して頂いた事に感謝致しますわ』



 サリン様は軽くお辞儀なさる。

 

 それにしても…相変わらずお美しく可愛らしい癖になるお声だ。


 サリン様がこうしておられるのを見るだけで大戦の地からここまで頑張ってきた甲斐がある。



『わたくしがここに立って居られるのは皆が私への疑いを晴らすために尽力してくれたおかげですわ…ありがとう。そして特に一番頑張ってくれたのは貴女ですわね?本当にありがとう…アトロ』


「そんな…私はただ当然の事をしただけです…」



 サリン様の為に動いてくれていたであろう方々は皆同様に感極まっている様子だ、アトロ様に関してはもう涙目だ。


 メチル様はただその様子を完璧な笑顔でご覧になっているだけだ。


 こうして見渡しているだけでも自然とメチル様に目を引かれてしまう程お美しい、だが…こう言うと失礼だがお美しいだけで可愛げが無い…というか、単に好きな笑顔では無いだけなのかもしれない…本当に失礼だが。


 とはいえ俺の想定が正しければメチル様に失礼が無いようにする必要などもはや無いのかも知れない。



『そして…大戦にて王国の為に死んでいった騎士や兵士達に感謝を。きっと彼らがいなければわたくしはとっくに命を落としていましたわ…』



 皆暗い顔になったり涙ぐんだりと反応は様々だ。


 そうか…そういう反応が当たり前なのか。


 そうだったのか。



『本来あまり群れない魔族の軍隊、何故かこちらの伏兵を知っているような動き、魔族の技術に見合わない高品質の武器、魔族にしては前例のない指揮官を積極的に狙う戦術、食料不足で人間界に攻めて来たのにも関わらず多すぎる食料』



 首の裏が冷える様な感覚。


 本来は明るい祝いの席である会場が暗い雰囲気に呑まれる。


 あぁ、懐かしい。


 あの瞳だ。


 大戦が終わった後、死体と眠っていた俺と初めて出会ったときの瞳。


 底の見えない深海のように蒼く光の届かない瞳。


 恐ろしい程に美しい瞳。



『"遠すぎる戦争指定地域"へ"異常に遠回りして"疲弊したわたくしたちが快勝できるはずもありませんわ』




「…確かに私もおかしいとは思って居たのだ…」


「うむ…勝つためならばもっと…」



 もとよりサリン様を指示していた戦争賛成派の人物達もそれに関しては思うところがあったのだろう、サリン様の言葉を聞いて近くの同胞達と小さな声で論議している。



『…なんて、誰かを責めるつもりはありませんわ。ここは祝いの場ですもの。戦争とはそういう物ですわ、何かのために殺して殺される。当たり前ですわ。なので最後に―』



 サリン様はニッと微笑まれる。



『これから死にゆく人々に感謝を』



 サリン様は軽くお辞儀をして舞台から降りて来られる。


 会場がざわついている、この感じ…久々だ。



『…以上サリン・シャンカ・バルトルウス・センス様からのご挨拶でした…』



 舞台端の階段を下りられるサリン様のお手を取る。



「どうだったかしら」


「素晴らしかったですよ、サリン様」


「ふふ、それは良かったですわ」



 サリン様はニッと微笑まれる。


 先ほど舞台上でご披露された微笑みとは違う。


 俺だけに見せてくださる可愛らしい微笑みで。


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