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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第7章:狂姫と天才
185/226

185.ええ、頼りにしていますわ



 懐かしい話に花を咲かせているとふとサリン様が壁に掛けてある振り子時計を一瞥なされる。


 そういえばアトロ様はサリン様より先に会場へ入られる予定だった筈だ。



「そういえば時間はよろしくて?」


「え?…えぇ!?もうこんな時間!?大変…早く行かないと!」



 アトロ様はつられるように振り子時計を確認されると、血相をお変えになられて急に走り出される。


 それを見たユヒサもサリン様に一礼してアトロ様の後を追っていった。



「…春風のようなお方ですね」


「あら、良い比喩ですわね」



 サリン様はやはり気を使っておられたようで、アトロ様の後ろ姿が見えなくなると小さなため息をおつきになられた。


 そしてすぐにいつもの可愛らしい表情へお戻りになった。



「穏やかで優しく…人々に幸を与えて通り過ぎる」


「そして消えて夏が訪れます」


「そうしたら、春に穏やかな風が吹いていた事なんて…皆忘れてしまいますわ」



 赤い絨毯の敷かれた廊下をサリン様は音を立てずにお歩きになられる。


 その美しい後ろ姿を俺は追う。


 廊下に響く音は一人分の重い足音と重装鎧が擦れる音だけだ。


 曲がり角を曲がり、細かな装飾が施された扉が姿を現す。


 あれを開ければもう会場だ。


 …なにか気の利いた言葉の一つくらい用意しておけば良かったと今更思う。


 ………何と言うべきか、何を伝えるべきか。



「予定時刻通りです。…後は司会者の言葉を待つだけです」


「ええ」



 事務的な事をサリン様にお伝えしたところで少しの沈黙が訪れる。


 扉の向こう側ではそれなりに盛り上がっている様子だ、先ほどから演奏や拍手の音が此方まで聞こえている。



「……」


「……」



 ふとサリン様の不安げな表情が視界に入る。



「…サリン様」


「なんですの」



 気が付けば自然と言葉が出ていた。



「何があっても私が御守り致しますのでご安心下さい」



 あぁ、存外すんなりと出るじゃないか。



「ええ、頼りにしていますわ」



 気の利いた言葉という物は。



/////////////////////////////////////



『―以上アトロ・シャンカ・バルトルウス・センス様からのご挨拶でした』



「(はぁ~…緊張したぁ…」


「(お疲れ様ですアトロ様」



 大変緊張したけれど、会場の皆さんに挨拶を終わらせてメチルお姉さまがいらっしゃるテーブルに着く。


 というか簡単な挨拶って言われたけれど、簡単な挨拶って何!!?こんな国内放送もされている上に騎士の皆さんやお姉さまがいらっしゃる場での簡単な挨拶ってどれくらいの挨拶なの!?難しいよっ!!



「(アトロ様、とても良い挨拶でしたよ」


「(そうなのかなぁ…あれで良かったかなぁ」



 ユヒサさんは私の耳元で小さく褒めてくれるけど、ユヒサさんはちょっと私に甘いところがあるから実際どうだったのかが気になってしょうがない。


 そんな事を考えてる内に司会の方がどんどん話を進めて、ついにサリンお姉さまの名前が呼ばれる。


 大きな大きな戦争をが始まってサリンお姉さまが居なくなってからずっとこの日を待ちわびていたのが懐かしい。


 ほんの少しお姉さま方のすれ違いはあったけれど…それも私が沢山頑張って何とかしちゃった。


 褒めてもらえるだろうか?"ありがとう"って言ってもらえるだろうか?きっと…そう言ってもらえたら私はそれだけで…




『――では、サリン・シャンカ・バルトルウス・センス様ご入場下さい』



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