182.全く…おしゃべりな騎士ね
「お姉さま!お姉さまはいらっしゃいますかっ!」
「アトロ様!お待ちください!今メチル様は大変お忙しく…!」
ユヒサさんの制止を無視してメチルお姉さまのお部屋の扉を勢いよく開く。
私は今どうしても確認したいことがある、今すぐに…とにかく急いで確認しないといけない事。
「お姉さま!」
「あら…アトロ。何の用かしら」
「と止められず、申し訳ございませんメチル様っ!」
後ろからユヒサさんの実に申し訳なさそうな声が聞こえるけど今は…それどころじゃない。
机に山盛りになった書類に目を通しているメチルお姉さまに詰め寄る。
「サリンお姉さまが指名手配されていると言うのは本当ですかっ!!」
「うーん…嘘よ」
「へっ?」
メチルお姉さまは苦笑いしながら机の端に置かれていたカップを手に取り、相変わらず上品な仕草で口にする。
というか…噓?ど、どういう事なの?
「と言っても信じてもらえないわよね。えぇ本当よ」
「え?…あ。か、からかうのはおよしになって下さい!」
私が少し声を荒げてそう訴えるとメチルお姉さまは少し笑って続ける。
「アトロも知っているでしょう?サリンはこの前の事故を意図的に起こした可能性があるのよ」
「それは…知っています。ついさっき騎士さんに聞きました」
事故があって沢山の人達が無惨にも亡くなったのは知っている…でもそれを引き起こしたのがサリンお姉さまかも知れないだなんてついさっきまで知らなかった。
「全く…おしゃべりな騎士ね」
「と、とにかく指名手配なんて止めてください!指名手配なんてしたらお城に戻ろうにも戻れません!」
大戦に出たという騎士さんは帰ってきたのにサリンお姉さまは未だお城には戻ってきていない。
とても聡明なサリンお姉さまの事だ…きっと今戻れば大変な事になると知っているから戻ってきていないんだ。
「アトロ…勿論私も本気でサリンが意図的にあの事件を起こしたとは思って居ないわ」
「それなら…!」
「駄目。例えその可能性があるだけだとしても…これは大きな問題だわ。王族だからと言って疑惑がかかっているのに指名手配もしないのでは国民が納得しないわ」
メチルお姉さまの仰りたい事は良く分かる。確かにそうしないと納得して下さらない国民もいらっしゃるでしょう。
きっとメチルお姉さまは私がこうやって抗議する事を知っていたから皆に口止めして私にこの事を知られない様にしていたんだろう。
でも、知ってしまった。
聞いてしまった。
「確かに…それは分かります」
「分かってくれたのね。流石私の妹だわ」
私はこれまでただの一度も本当の意味でお姉さまに勝てた事は無い。
きっと今回も本当の意味で負けるんだろうなぁ。
でも…やっぱり聞かなかったフリなんて…したく無い。
「分かった上でメチルお姉さまに問います」
「何かしら?」
私は馬鹿だ、でもそれが私に求められた事なんだ。
馬鹿で…実直な女の子、それが私の役目だというのなら。
「それはサリンお姉さまを殺してでもしなければならない事なのですか」
「アトロ様それは…!?」
私の全てを賭して…演じて魅せましょう。
「……………あらあら。ふふっ」
〇○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
『首尾は』
「完璧です。想定通りあわただしく走り去って行かれましたよ」
脳内に響き渡る声に返答する。
『そうか』
「それにしても流石の御手前ですね」
「本当にわたくしだと気づかれませんでしたわ…これは色々と使い道がありそうですわね」
疑っていた訳では無いがまさか血のつながったアトロ様ですらサリン様に気が付かないとは…流石王国最高峰の魔術士の認識阻害魔術と言ったところだ。
『サリン様にお褒め頂けるとはこれ以上ない幸福ってヤツですね』
「これで後は待つだけですね」
「えぇ…アトロは分かりやすくて良いですわね」