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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第6章:命運
180/226

180.目を逸らさないで


 暫し抱き合ってお互いの体温を感じ合い、サリン様が泣き止まれたのを確認した後に話しかける。



「サリン様、お身体が冷えてしまいます」


「ええ…そう、ですわね」



 サリン様は俺を放して立ち上がられる。


 ああ、貴女はお涙を流した後もそんなにお美しいのか。



「一緒に入りましょう?」


「…承知致しました」



 サリン様はニッとほほ笑まれると浴室に入って行かれ、間もなくシャワーの音が聞こえてくる。


 この家に着いたときに予め浴槽に湯を溜めておいて正解だった、いやこうなる事まで予想していた訳では無いのだが。


 …さて、今更断る必要もないのだし俺もサリン様の後を追おう。



「?」



 おっと…何か黒い布を踏みそうになった。


 取り合えず拾って洗濯籠に入れて、俺も浴室に入る。



「丁度良い湯加減ですわ、ありがとう」


「いえ、当然の事をしたまでです」



 浴室に入るとサリン様が浴槽の縁に頬杖をついてわざわざ感謝の言葉を投げかけて下さった、何ともありがたい事だ。


 御伽噺の人魚姫よりも美しいサリン様に釘付けになった眼を無理やり逸らして俺もシャワーを浴び身体を洗い流す。


 一応全身洗浄魔術を行使したので流れる汚れ等無いのだが…まぁ習慣だ。



「狭いかもしれませんが…お隣失礼いたします」


「問題ありませんわ」



 二人で入るには少し狭い浴槽に入る。


 俺が入ると同時に物凄い量の湯が浴槽から溢れ出てしまった、こうなる事は分かっていたが少しサリン様に申し訳ない気持ちになる。


 窓が無い為視線が自然とお互いに向く。


 狭い浴槽の中で二人向き合いながら時間がゆっくり経ち始める。



「…もう少しそちらに寄ってもいいかしら…?」


「も、勿論です」



 流石に色々と厳しいが…ここで断る様では情けない。


 サリン様は俺の胸板にぴったりと身体を合わせなさる。


 ぐ…色々と柔らかい…堪えるのも必死だ。


 …だが悪くない、寧ろ最高だ。



「…」


「…」



 …沈黙が心地良く感じる、気まずくは無い…お互いの気持ちはもう知っているのだから。


 色々とアレだが…こうしてサリン様と共にゆっくり湯に浸かっているこの時間は言葉など無くとも確かな幸せを感じる。


 この幸せは守らなければ。


 数刻前牢屋に着いた時、俺は俺の役目が終わったのだと思って居た。


 ずっと張っていた気を緩めた瞬間に俺を蝕んでいた狂気と苦痛が溢れ出てきて俺を覆っていった、だがもはやそれを抑える理由も無くなった俺は騎士として死んだも当然だったのだ。


 狂気と苦痛を抑えるのは非常に疲れる、ずっとそれに耐えて歩いて来た…もう休んでも良いと思って居た。


 だが今なら判る、それら全てを耐えて歩み続ける事…俺はこれを止める訳には行かない。


 疲れたからと言って止めてしまって良い歩みでは無かったのだ。



「カロン?」


「あの日…貴女と会えて本当に良かったと思いまして」



 サリン様の身に危険が迫った時、俺は再度歩みを進めた。


 そしてこれまで蔑ろにしてきた生きる理由を見つけた。


 サリン様の為に生きようと思いついてからは俺を蝕んでいた狂気や苦痛などもはや道端の小石に過ぎない。


 …というか心なしか以前よりも身体が物理的に強くなった気さえする、魔力が全身に浸透し馴染む事によって単純に身体の頑強になっているのかも知れない。


 もしラマルラで聞いた魔族は全身に魔力を溜め込むという話が本当であれば俺は魔族にでもなってしまったのかもしれない…少々癪だが、この凄まじい力…サリン様の為に存分に振るわせてもらう事にしようか。



「わたくしはもっと早く会いたかったですわ…そうしたら今よりもっと貴方の事を深く知れたのに」


「ははは、それでしたら私も同じですね」


「ふふっそうですわね」



 サリン様は可愛らしく笑われる。


 この時間がずっと続いて欲しいとは思うが…これからやる事が沢山ある、全て終わらせた後にまたこうしてサリン様と共にゆっくり時間を過ごせばいい。



「サリン様、そろそろ上がりましょう。のぼせてしまいますよ」


「そうですわね…ちょっと残念だけれどそうしましょうか」



 サリン様は俺の胸板から離れて静かにお立ちになられる。


 流石サリン様…湯から上がられるのもこんなにお美しいのか。


 本当にサリン様はお美しい、俺には勿体無いと真剣に思うが…今更誰かに渡すつもりは全くこれっぽっちも無い。


 お身体を伝う水滴すら可憐だ、可愛らしい小さな肩から小さいながらも形の良い胸、頬擦りでもしたくなるようなお腹…そしてまだ毛も生えそろって居ない陰部へ…スレンダーで美しい身体を流れる水滴を思わず目で追ってしまう。



「…はっ!?」


「?どういたしましたの」



 咄嗟に顔を横に向けて直視を続ける目を無理やり逸らす。


 どういう事だ…!?何故…!何故……サリン様は"完全に全裸"なのだ!?


 いや、ここは風呂なのだからあたりまえと言えばそうなのだが…!そうではない!!



「その…!サリン様…」


「言ってくださいまし」



 完全に失念していた…!だがアレが外れているという事は…その、つまり…俺の事を本当に。


 いやいや!大変うれしいのだがこんな事を考えている場合では無い!早く伝えなければ…!


 普通に考えて陰部を見られれば恥ずかしいのだ!サリン様にそんな恥をかかせる訳には行かない!



「貞操帯が…」


「…………………………」



 頭の向きを変えず慎重に…サリン様の御顔を見上げる。









「知っていますわ」


「…………」



 サリン様の両手が俺の頬に触れ、俺の頭を正面に向ける。



「目を逸らさないで」


「っ!」



 ああ、本当だ。

 


「…わたくしの全てを知っているのはこの世界で貴方だけ」



 皆の言っていた事は本当だった。



「これで正真正銘わたくしは貴方の物」



 サリン様は狂っている。



「国を犠牲にしても世界を犠牲にしてでも…貴方だけは絶対に誰にも渡さない」



 愛に飢え、狂っている。



「ふふっ愛していますわ…カロン」



 サリン様は今までに見たことが無い程美しく可愛らしい笑顔で微笑まれた。


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