178.やっと地上か
「やっと地上か」
地下から出て一番最初に目に入ったのは騎士たちの死体。
どの死体も頭部が酷く損傷しており記憶干渉魔術対策は完璧だ、恐らくこれらをやったのはカコルネルさんなのだろう。
「これだけの騎士を相手に良く無傷でしたね」
「騎士と魔術士じゃ戦い方が違うからな」
死体を供養している余裕は無い、そもそもこれだけの規模だ…発覚するのも時間の問題だろう。
まずは姫様の安全を確保するのが最優先だ。
身を隠すとすれば…やはり王都が良いだろう、あそこは人が多いがその分紛れる事が出来る。
「王都で身を隠しましょう」
「それなら俺が借りてる部屋を使うと良い。偽装名義で借りてるからそう簡単にバレたりしない筈だ」
そういえば先に地上へ向かった筈のルード殿が居ない。
本来ならば口封じをすべきだが…居ないのならもうどうしようもない、探す時間も惜しい。
「王都へ向かいましょう」
「悪いが二人で先に行ってくれ。俺はちょっと情報を集めてくる…ほら」
「…成程住所は記憶しました。この紙は燃やしておきます」
カコルネルさんに渡された住居が記された紙を記憶して火炎魔術で燃やす。
それを確認したカコルネルさんは外套に魔力を込めて宙へ浮かぶ。
「朝方には戻る、しっかり休んでおけよ。…それではサリン様失礼致します」
「ええ、お気をつけて」
カコルネルさんはそのまま天高く飛翔し、流れ星の如き速度で飛んで行った。
さて…王都へ向かおう、姫様の為に。
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王都へと繋がる道の中でも人通りが少なそうな道を選んで移動する。
ヴァースから王都まではそんなに距離は無い、歩いて30~40分程だ。
「あの…カロン?」
「如何なさいましたか?」
腕の中から姫様がこちらをじっと見つめてこられる。
上目遣いのなんと可愛らしい事か…更に黄金の長い睫毛がきらきらと瞬いており大空の様な深い蒼色の瞳がより際立っている。
「疲れているでしょう?自分で歩けますわ」
「いえ。むしろ最高です」
「そ、そうですの?じゃあ…もう少しこのまま…」
姫様は腕の中で、俺にもたれかかるようにしてその何処までも続くような蒼く深い瞳をお隠しになられる。
もう少しと言わずにずっとこのままでも…そんな不純な思いが俺の中を渦巻く。
「…」
星が煌めく暗い夜空を見上げる。
あの日…数多の同胞達の死体と共に直剣を抱いて眠りについた夜と同じ空だ。
もはや記憶は遠く懐かしい、ボロボロになった記憶の中でまだ俺を信用されていらっしゃらなかった姫様の姿を思い出す。
あの頃の姫様は何処か"姫"という役を演じている様だった、今となっては見る影もない。
「はは…」
腕の中で静かに眠ってしまった姫様を見る。
俺は今の姫様の方が好きだ、何故姫様はあのように自分を偽らなければならないのか。
いや…分かっている、必要だから仕方が無いのだ。
ならば…俺は…俺だけは本当の姫様を守らなければ。
「…」
俺は…生きなければならない。
俺が死ねば誰が本当の姫様を守れると言うのだ。
姫様を守るためならば…どんな試練だって乗り越えてみせよう。
「…まずは魔族の実験資料でも漁ってみるか」
きっとこれが俺の命運だったのだ。
「生きて…これからも姫様を守る為に」