176.お久しぶりですね…
「全く…!王国についてもこれか!」
「厄介事は尽きませんわね」
姫様を抱えて階段を急ぎ駆け上がる。
先ほど聞こえてきた大きな爆発音以来、今でも不規則に爆発音が地上から聞こえてくる。
「地上にはサリン様を確保する為に編成した特務隊が待機している筈だが…」
「では彼らが戦って居るという事ですか」
つまりは地上に出たところで姫様を守るためにその特務隊と闘わなければならないという事だろう。
非常に危険ではあるが姫様をこんな所に押し込んで防衛線などしている訳にも行かない、ならばこちらから攻勢に出るべきだろう。
「…なんだ?」
「止まりましたわね」
つい先ほどまで地上から聞こえていた戦闘音らしき音が完全に止まった。
何があったのかは分からないがある程度混乱しているだろうからそのどさくさに紛れて今のうちに脱出してしまいたい。
「通信も繋がらない。あいつらは何をしているんだ…」
「通信?今は魔術を使わずに連絡を取れるのですか」
「…そうか、カロン殿は大戦より帰還したばかりであったな。これは魔動通信機だ、魔道具の一種で魔石を内蔵しているので魔力を使わずに連絡を取れる優れものだ」
製作者は知らないが今では多くの人々が使って居るとの事。
…知らぬ間に技術が進歩していくというのはまさにこういう事なのだろう、それにしても便利な物が開発された物だ。
購入して耳に装着しておけば後は勝手に微弱な魔力を拝借して半永久的に使えると言うのは便利だ、俺も持っていた方が良いかもしれない。
「どこで買えるのですか?」
「魔学研究所の商品を卸している店ならどこでも売っているだろう」
「成程、ありがとうございます」
ルード殿に感謝を述べると腕の中の姫様が俺の重装鎧をコンコンと軽くノックされる。
なんて可愛らしい主張の仕方だろうか。
「買ってはいけませんわ」
「…?ですがいつでも姫様と連絡を取れるのは便利ではありませんか?」
そう伝えると姫様は耳を赤くして少し顔をお伏せになって話を繋げられる。
「欲しければ直接差し上げますわ、だから買っては駄目よ」
「承知いたしました」
理由は分からないが姫様がそう仰るのであればそうなのだろう。
そして姫様は表情をあまり変えずにニッとほほ笑む。
「それに…わたくしの声が聞きたいのならずっと一緒に居れば良いではありませんの」
「………そう、ですね」
なんていじらしく可愛い表情をされるのだ…!?全くもって表情はいつも通りの微笑みなのだが…わかる…!俺には分かる…!とても恥ずかしいのに勇気を出して歩み寄ろうとされる姫様のご心情が伝わって来る…!
うむ、生きて王国にたどり着いた甲斐がある。
「む…この足音」
「誰だ」
上の階から一人分の足音が聞こえてくる。
音からして騎士では無い…まさか地上の特務隊とやらを全滅させたのか?弱体化したとはいえ騎士、それをたった一人で片付けるなんて…少なくとも一般人では無いな。
人間かどうかも怪しい所だ。
「そんなに警戒するなよ」
「…!?」
その男は外套を揺らしながらゆっくりと階段を降りてくる。
聞き覚えのある声、見覚えのある外套、見覚えのある顔。
王国で最も魔術を極めていると言っても過言では無い人物。
「久しぶりだな、カロン?」
「お久しぶりですね…カコルネルさん」