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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第6章:命運
172/226

172.今からでも…戻りませんか


 静かに音を立てる噴水の前で考え事をしていると聞き覚えのある声が聞こえてくる。



「おおおおおおおおおおい!オマタ~」


「近所迷惑考えろアホ!!」



 ポケーっとしたアホ面でスタンが走り寄ってくる。


 集合時刻にはまだ時間がある、てっきり何食わぬ顔で遅刻すると思っていたがそんな予想は以外にも外れたみたいだ。



「いんや~実家に寄ったらさ~」


「おう」


「父様と母様に見つかってさ~色々説明したらなんかねぇ~」



 フフヒヒ、と気持ちの悪い笑い方をするスタンは何やら機嫌が良さそうだ。


 本当に泣いたり笑ったり忙しいヤツ。



「ああ」


「めっさ褒められたんよねぇ~ヒヘヘ」


「良かったじゃねぇか」



 ぼさぼさの髪をワシワシと触りながら照れている姿を見て、そういえばコイツの事全然知らないなぁとか思ったりする。


 だって仕方ねぇよ、そんな余裕なかったし。


 そんな事を考えていると大通りの方からジオネさんが歩いて来るのが見えた。



「こんばんは、さっきぶりですね」


「待たせたなァ」


「時間ピッタリですよぉ~」



 時計塔を遠目に見ると確かに約束した時間丁度だ。


 流石というべきか…



「そういえば騎士君どうでしたぁ~?」


「病院にブチ込めなかッた。大戦の件で事情聴取を受けなきゃダメらしい…クソが」


「まぁまぁ…仕方ないですよ。むしろ病院より高等な治癒魔術を使える人も居そうですし安全ですよ」



 すこぶる機嫌が悪そうなジオネさんをなんとか宥める。



「はァ…騎士団と魔術士団が大幅に弱体化してんのは知ッてンだろ?」


「ア、アハハ…そうでした…すみません」


「取り合えず呑みに行きましょうよぉ~早くぅ~」



 こ、こいつ…マジで空気読めない…



「お、おい」


「そォだな…行くか」


「わ~い」



 まじかよ。


 案外空気読めないのも使える…のか?



////////////////////////////////



「「「乾杯!」」」



 冷えた麦酒を一気に流し込む!


 乾いた喉と疲れた身体に沁みるぜ~~!!



「くぅ~!こりゃ効くぜ!」


「カッーー!やッぱ悩んだときはこれだよコレェ!」


「うんまぁ~い!!」



 気持ち良さそうに笑って居るスタンの口に白いひげがついてやがる。


 ジオネさんは…あぁ…ついてないや、なんかガッカリだ。



「お前らヒゲついてんぞ」


「えっ!?私もですか!?」


「ぐへへ~醍醐味~」



 急いで口元をぬぐう。


 は、恥ずかしすぎる…!いや、というかどうやったらつかないんだよ!?



「アァ~ン?なんだそのどうやッたらつかないんですか?みたいな目ェ」



 ジオネさんはクツクツと笑いながらこちらを見つめてくる。


 お、お見通しかよ…いや、聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥とかいうしな…。



「ぐぅ…どうやったらそんな小奇麗に麦酒が飲めるんですか…」


「ハァ!仕方ねェなァ!こうやんだよ!!」



 ジオネさんはジョッキを片手で持ち上げると上を向いて口を大きく開ける。


 そしてそのまま…ジョッキを傾けて麦酒を口の中へ滝のように流し込んでいるっ!?



「ジオネしゃんしゅごぉい!」


(は…は…は…)



 そしてそのまま麦酒を飲み干してしまった!



「どォだァ!!」


(はしたないッ…!!)


「しゅご~い」



 出来るかッ!!そんなはしたない事ッ!泡つく方がまだマシだろッ!


 ぐうううう…!見てるこっちが恥ずかしいわ!




「わ、私にはまだ早そう、ですねー…!」


「フッ、まだまだだなァ。オイ麦酒オカワリ!!」


「ワタシもやるぅ~」



 この人普段からこんな呑み方してんのかよ…!あああああ、想像しただけで…!



「うー…!」


「おぼぼぼぼぼぼぼおぼぼっっ!!」


「だははははッ!!お前やるなァ!」


「は!?ちょ、何やってんだ!」



 隣でスタンが溺れかけていた。



/////////////////////////////////



「おい頼むから陸で溺れるなよ」


「ギャヒヒイヒイヒヒ!だのじいいいい!!」


「う、うるせぇ…」



 さっきのがぶ飲みが効いたのかスタンはもうだいぶ出来上がっていやがる。



「ギィーヒッヒッヒ!いーじゃん酒に溺れる夜もあるってー!」


「酒に溺れるってそういう意味じゃねぇーから!!?」


「まァまァいいじャねェーか、久々の休みなんだろォ」


「…溺死はやりすぎですよ」


「ン…まァな!」



 流石のジオネさんもスタンを庇うのは諦めてしまったようだ。というか心配だ、短い付き合いながらも寝ゲロとかであっさり死んでしまいそうなアホっぽさがこいつにはあると理解できる。


 知り合いが寝ゲロで死にましたなんて…嫌すぎるわ。



「はぁ…言っても治るもんじゃなさそうだしなぁ…」


「なァ、これなんだァ?」



 ジオネさんは私がさっき魔術士のおっさんから貰った酒瓶をつっついている。


 というか聞かれてもなぁ…こんな高等で繊細な魔術、私には説明できないんだよなぁ。



「ギャヒー!ドルティさては合流する前からもう呑んでたんかーーーーッ!!」


「ちっげえよ!!貰ったんだよ!!」


「へェ…こりゃすげェな」



 ジオネさんは借りるぜ、と言って酒瓶を天井のライトで透かして見る。


 少しするとにやっと笑って酒瓶を返してくれた。



「コレ、何がすげェか分かるか?」


「えーと…高度な魔力操作で作られた…精巧さ、ですかね」



 さっき瓶の蓋を開けて中を見てみたが帆から錨の形状、縄の皺まで全てが細かく造形されていた。


 しかもあの短時間でこれを作ったんだからやっぱ魔術士ってすげぇ。



「スタン、お前はこれどう思うよォ?」


「ギョッホホホホ!!ナニコレ!ふんふん…へー!これ凄いねー!ギヒヒ!これねこれね!酒ビンの内側を削って作られてるねぇー!すごいねー!何が凄いってさーわざわざ魔術でビンの内側と外側を分離してるのが凄いねー!ヨッホホ!何か別の魔術で内側を削ったとかじゃなくて超高度な魔術で安全に平穏に柔らかにビンの性質を変えて分離してるんだよー!そしてそれを船に加工!しかもこの船ワンパーツだよ!いくつかの部品に加工してから中で組み立てたワケじゃないんだよー!しかもそのお船さんは酒にぷかぷか浮いてるんだよ!でもこれ浮上の魔術を付与したわけじゃないんだっ!このビンの内側から作られたお船さんは性質が完全に変化してるんだよ!酒に沈まない物質にさ!でもこのお船さんクリスタルになってるんかー!?すげぇー!オヒヒヒ!」


「簡単に」


「ビンから出来たお船さんはガラスであるはずなのにクリスタルになっててしかも酒に浮くように性質が変わってるねー!ギャヒー!」


「正解だァ」


「すげぇ…」



 そうだ、そういえばスタンはこういうのにめっぽう詳しいんだったな。


 見る人が違うとこんなにも物の捉え方が変わるのか。



「だが二人ともォ、それだけじャねェ」


「なになにー?」


「一番すげェのはな、"硬度"だァ」



 硬度…?この元ガラスの船が?



「…そうだなァ、大剣でぶッ叩いても壊せねェぜ、確実になァ」


「まじっすか…」


「いんやー!やっぱ鎧作ってる人は目の付け所がちがうなぁっー!ヒー!」



 どうしてこんなすげぇ物を私に寄こしたんだ…?


 売れば目もくらむような大金になるだろう物を私に…?



「そういや誰から…ハッ、これは野暮だなァ。オヤジ麦酒オカワリ!!」


「…」



////////////////////////////////////////////



「ダックショイッ!!は~…花粉か?嫌だな~」


「はぁ…団長、そんな顔面汁だらけにして」


「いや誇張凄すぎない!!?」


「どうぞ」



 リインに礼を言い、鼻紙を受け取って拭う。


 ホントこういう所すげぇ気がきく良い女なのになんか俺にだけ当たり強いんだよなぁ。



「団長、今からでも…戻りませんか」


「はぁ、あのなぁ…俺はもう団長じゃないし今更撤回して団長に戻ろうとも思ってねぇよ」


「何故…ですか」


「…」



 少し冷たい夜風が酒で熱くなった顔を撫でる。


 何故、か…説明は難しい。



「大戦で…みんなが死んだから、ですか」


「…」



 リインの表情は暗くて見えないが、長い付き合いだ…どんな顔してるかくらいわかる。



「…団長っ!」


「だからもう団長じゃねぇって。だろ?"リイン団長"」


「っ…!」



 リインの頭を撫でる。


 懐かしいふわふわした白髪の感触、まさかあの時の女の子がここまで強くなるとは思って居なかった、お前は凄い奴だよ。



「お前は死ぬなよ」



 外套に魔力を流して飛行体制に入る。


 いつも通りの理が書き換えられていく感覚に身を任せて空へ。



「待ってください!待って!」



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 団長が、行ってしまう。


 普段は低空飛行しかしないのに、今回は違う。


 遥か大空、夜の闇に身を隠して行く。


 間違いない、本気だ。



『お前は死ぬなよ』



 その言葉には色んな意味が含まれているんだろう。


 きっとその中には"追って来るな"という意味もあるのだろう。



「待ってください!待って!私は…!」



 駄目、駄目、駄目。


 追いかけたい、でも追いつけるはずが無い。



「っ…!」



 ふと思い出す、古い言葉。



『自分の気持ちを大切にしろ、我儘を言え。俺達魔術士に不可能は無い』



 そうだ…私は魔術士だ。


 どんな理でさえも捻じ曲げ理を貫くッ!!


 だから…"追いつけない訳が無い!"


 昔とは違うのだから!



「私に…ッ!不可能は無いッ!!」



 普段の5倍の魔力を外套に流し込む。


 本来星が煌めくように発光する筈の外套が膨大な魔力によって月のように輝く。



「往かせないッ!」



 一気に王国の遥か上空まで上昇する。


 そして目的の人物を見つける。


 彼はこちらを発見すると通話魔術を繋いで言った。



「やっぱり来たか」


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