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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第6章:命運
170/226

170.お疲れ様ですわ


 揺れる魔動車の中、俺は姫様の隣に座っている。


 運転手はジルニス殿が疲かれているだろうと気を使って担ってくれた。



「スタン達はちゃんとついて来れるかしら」


「これだけの数です、流石に大丈夫かと」


「ふふ、それもそうですわね」



 現在俺達は王国へ向かう為魔動車を走らせている。


 勿論招集を掛けられた他の騎士達もだ、なので結構な数の魔動車で列になり移動している。


 ちなみに俺達が乗っている魔動車は運転席と後部座席が完全に隔離されているタイプの物だ、これもまた…まぁ気をきかせてくれたのだろう。


 ジオネやスタン達はもともと俺達が乗ってきた魔動車に乗っている、運転者はスタンなので…大丈夫だろう。



「…」



 ふと窓の外を見ると見覚えのある地形が目に入る。


 たかが数か月前の事だと言うのに無性に懐かしい。


 戦争から始まり姫様に出会い、様々な人に会い…殺した。


 あまりにも様々な事があり過ぎた、いや違うな…そんな事は昔からずっとあったのだ、だから昔と違い最近の出来事ばかりが記憶に強くこびりついているのは…きっと。



「どうか致しましたの?」


「…いえ、何でもありません」



 きっと、このお方に出会えたからなのだろう。


 姫様に出会ってからというもの俺という人間は変わった…のだろうか?わからん、もう遠い記憶など思い出せないのだから。


 いや…思い出す必要は…無い、か。



「その…怒って…いるのかしら」


「は…?その、そんな事は全く、一抹もありません。…何故ですか」


「そ、そうでしたの。なら良いのだけれど…」



 短い沈黙の後姫様はぽつぽつとお話になられる。



「…貴方がこんな事になってしまっているのに…何も説明しない、から…時間が無くって…それで、その」



 姫様は何処か心細そうに言い訳をされる。


 その様子は叱られるのを恐れる少女の様だ。



「全部話してしまったら…貴方は嫌な気持ちになるかも知れないって…わたくしの元から去ってしまうかもって…だから」



 姫様は続けられる。



「わたくしがお姉さまの様に天才だったら…全て問題はありませんでしたの…きっと貴方に納得してもらえますわ…失望させてしまう事も…無い筈ですの…でも」



 姫様は俺と目を合わせようとして下さらない。



「分かりませんの、貴方が…どんな行為を嫌がって…何をしたら喜んで、下さるのか…」


「姫様」


「だから、どうすればいいか」


「姫様!」



 姫様の肩を掴ませて頂く。


 勿論痛くない様に細心の注意を払ってだ。



「それが、本心ですか?」


「……ええ。そうでしてよ…情けないでしょう?」



 姫様はそう仰って俯かれる。


 あぁ…そうだ、きっと今目の前に居らっしゃる姫様こそ本当のサリン様なのだ。


 本人が仰っていたでは無いか、自分は天才などでは無いのだと、非凡の存在なのだと。


 だからこそ…手段を択ばない事で天才であるメチル様に並ぼうとしていらっしゃったのだ。



「…私は…騎士です、だからこそ此処まで着いて来た」


「…」



 姫様は…本当は誰かを殺すのだって躊躇っていたのでは無いか?でもそんな甘い考えでは目的を達成できないと自身の心すら押し殺していたのではないか?そんな道を選ぶしかない程に苦しんでいらっしゃったのでは無いのか。


 目的の為に手段を選んでいられない程に"天才"と比べられるのは…辛かったのだろう。


 天才と比べられ、優秀な方だけが賞賛される。


 姫様は誰かに褒めて欲しかったのでは無いのか、誰かに認めて欲しかったのでは無いのか。



「…それだけだと、思っておられるのですかッ!?」


「っ…それは」



 非凡を隠す為に気を許せる人もおらず、故に誰かに相談する事もできずに…一人で苦しみ続けてこられたのだろう。



「私はッ…!初めから…姫様に期待なんて…していないんです」


「…そう…」



 背負った期待を裏切らぬように、失望させないように。


 手段を択ば無い事で人の道を踏み外した姫様は孤独の闇に真っ逆さまに堕ちていったのだろう。


 …たどり着く闇の底にはきっと美しい花の一凛くらいはあるだろうと、希望を抱いて。



「……私はただ、姫様を守りたかったのです」


「…え」



 褒められたくて、頑張って、頑張り過ぎて、引き返せなくなって…。


 

「そして幸せに、なって欲しいと」


「…カロン」



 そんな。



「俺は…騎士カロン・ヴァンヒートとして、着いて来たんですよ…サリン様」


「…っ」



 そんな何処にでもいるちょっと頑張り屋な普通の少女を誰が嫌いになれようものか。



「だから、この先騎士である私が死んでも…俺は必ず着いて行きます…いつまでも何処までも」


「…ありがとう」



 サリン様は俺の手にご自身の手を重ねると少しの間お涙を零された。


 これは俺の予感だが、きっとこの先も姫様は手段をお選びになられ無いのだろう、たかが俺一人の言葉でこれまで築いてきた物をお捨てになる筈が無いのだ。


 だが、願わくば…これからは少しでもその苦痛が和らぐように。



/////////////////////////////////



「落ち着きましたか?」


「ええ、ありがとう」



 少し目元が赤くなられたサリン様は以前より自信に溢れておられるように見える。


 そしていつも通り…とは少し違うふにゃっとした大変可愛らしい微笑みを浮かべておられる。



 コンコン



「どうぞ」



 カチャ



 後部座席と運転席を繋ぐ扉が開かれるとジルニス殿が運転席から器用に顔を出す。



「もうすぐ王都に到着します」


「わかりましたわ」



 サリン様とジルニス殿は簡単な会話を済ませるとすぐにまた扉が閉まる。


 窓から外をちらりと見やると既に王国正門前にある大橋の上を走っている様だった。



「ついに…ですね」


「…ええ。ついに、ですわ」

 


 お互いに顔を見合わせる。


 そして。



「はは…」


「ふふっ…」



 何故だか、二人とも微笑みが零れた。



「お疲れ様でした」


「お疲れ様ですわ」



 ついに、俺達は夢にまで見た王国に帰ってきたのだった。

あ、まだまだ全然普通に続きます。

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