167.それでも死ぬなら
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やる気MAXでビームとか撃てそうです。
今後ともよろしくお願いいたします。
「王は何をお考えなのだ…これでは魔族との戦争に勝てるはずもない…」
重装鎧を装着しながら独り言ちる、騎士団の大幅な弱体化…それは本当に必要な事だったのだろうか?
騎士団は少数精鋭の組織だ、いくら採用後に訓練すると言っても教えれる人材より訓練生が多ければ粗が出てしまう。
「あぁあぁ、そうか知らないんだったね」
「なんだ?聞かせてくれ」
ケーヴは穏やかな表情で口を開く。
「魔族の王と話が付いて、今は停戦中なんだよ」
「な…………そう、か…」
魔族が停戦を受け入れるというのがまず驚きだが、成程確かに少なくとも先の大戦でぶつかった魔族軍は全滅しているのだから納得できる。
「正式な書類?みたいのはまだらしいんだけどねぇ。今は条約内容をすり合わせてるよ」
「……遠征しているうちに色々と変わってしまったのだな…」
これから王国に帰ると言うのに…何故か自分の知らない街に行くかのような感覚に襲われる。
世の中という生物は注意してよく見ておかなければいつの間にか自分の知らない何かに変わってしまう物だ、と父上はよく語っていた。
それをまさか実感する時が来るなんて、きっと考えたことも無かったのだろう。
もう昔の事は…殆ど覚えていない、身体と記憶が蝕まれる様な感覚…俺が俺で居られる時間もそろそろ終わりが近づいているのだろう。
だからもはや推測しかできないが、きっと…そう、そんな事を考えた事は無かったのだろ?
「どうだァカロンしッくり来るかァ」
「最高だ、自分でもメンテナンスはしていたがやはり専門家に頼むのが一番だな、ありがとう」
ジオネはきっと昔から変わっていない綺麗な黄金の瞳で俺をジッと見つめる。
「なァ…カロン」
「どうした」
「さッき調整してる鎧の記録を見たァ」
「あぁ」
ジオネの表情は暗い。
まぁ最前線での殺し合いの記録だ、気分が悪くなるのも仕方が無いだろう。
「お前は頑張り過ぎだァ…このままだと近いうちに死んじまう」
「問題ない、鎧だって調整してもらったしな」
「嘘つき野郎がァ、休めよ」
この年になって幼馴染に嘘つき呼ばわりされるとはな、流石はジオネと言ったところだ。
だが心配させるわけにはいかない。
「はは、鎧を装着していない時には休んでるさ」
「…なァ!だから、嘘つくなッて!なんで私にまでそんな嘘付くんだよ!」
ジオネは大きな声で捲し立てる。
「お前とッくに限界超えてンだろ!身体もおかしくなッて!頭もおかしくなッちまッたのかよ!」
「…」
「私はなァ!昔からずッとお前を見てきてんだよ!お前だけを見てきてンだよ!」
「お、落ち着け」
俺の静止も聞かずにジオネは続ける。
「うるせェ!分かるんだよ、お前の事は全部よォ!分かッちまうンだよ!!」
「…ジオネ」
「なに平然とした顔で勝手に一人で死のうとしてんだよ!私を置いていくなァ!!」
「…」
「私より先に死ぬンじャねェよ!!それでも死ぬなら!私と死ねェッ!!」
言いたいことを全部言ったのかジオネは肩で息をしながら俺を睨みつけている。
凄まじい迫力だ、それにしても…死ぬなら私と、か。
「め、めちゃくちゃなこと言ってるぅ~…」
「あァ!!?」
「ヒィイッ~!」
空気を読まないスタンの一言で少しだけ話しやすい空気が訪れた…気がしないでもない。
「なァ…!カロン…頼むよ、生きてくれよ…」
「しかし、だな…」
そこでつい先ほどまで何かを考えていらっしゃった様子の姫様が仰られる。
「カロン、安心して全てをわたくしに委ねて下さいまし」
「…姫様?それは…どういった…」
「万事順調に事が進みますわ、貴方はただ…わたくしを信じていて下さいまし、決して失望はさせませんわ」
そして姫様はとても幸せそうな表情でニッとほほ笑まれる。
そのお姿は、まるで
「既に勝負は付いていますの」
「…」
「さぁ、後は…チェスボードを片付けるだけですわ」
勝利の女神の様であった。