165.贋作だろうと真作だろうと
「…ん、んん?」
「あ、ケーヴが目を覚ましました」
拘束していたケーヴが目を覚ましたと聞いて立ち上がり、ケーヴの目の前に移動する。
ちなみに二人とも原初的だがロープで拘束しているのでそう簡単に反乱する事は出来ないだろうと考えて抜剣せずに近づく。
もっとも不意に襲われた所で負ける気はしないのだが。
「おはよう」
「…え?あ、おはよう…」
状況に戸惑って居る様子だがとりあえず返事は出来るらしい。
「その…なんだ」
「……?」
「なにか違和感とか…無いか?」
「え」
ケーヴは何か察したのか青ざめ、ロープで縛られながらも器用に自身の身体を確かめる。
ぐねぐね蠢くその姿は少し気味が悪いのだが口にはしない。
「…いや、無いならいいんだ…無いなら…うむ…」
「え…あぁ!怖い怖い怖いって!なんだいハッキリ言っておくれよ!?」
ケーヴは酷く怯えた表情でそう問いてくる。
…これは言っていいのだろうか?人によっては発狂物だと思うのだが…。
「ケーヴ。あなたはどうなってもケーヴ…安心して」
「オルシャ!?ああもうなんだっていうんだい!?」
「そ、そうだ。その通りだ…先の戦闘で傷ついた身体も無事だろう?」
兜の中で愛想笑いをしながらそう宥める。
うむ…見えないのは分かっているのだが…これは癖なのだ。
一応同じ騎士なのだし気も遣う…当然…だろう?
「あぁ…確かに………ん!?いや、アンタに大剣で頭ぶっ刺されなかったかい!?」
「…………」
「黙らないでおくれよ!!?」
大剣とはこの直剣の事を言っているのだろう、そうだな確かに大剣だったなそういえば。
と言った感じで白を切る。
「おやおやぁ~?元気になってるじゃぁ~ん!よかったねぇ!」
「…スタン」
「……こんどはなんだい!?」
「ケーヴ…一応この人、恩人」
そう、俺が"誓いを立てた"ケーヴを始末した後直ぐにスタンが大慌てで加勢しにきたのだ。
と言ってもオルシャはケーヴの死体を見て泣き叫ぶばかりで戦闘の意思が無かったので戦闘面での活躍は無かったのだが…その後。
「ど、どういう事だい」
「知ってること何でも話すって条件であなたを生き返らせてもらった?」
「…なんで疑問形なんだい」
オルシャが今言った通り、泣きわめきながら無様にケーヴを助けてくれと懇願してきたのだ、そんな事を襲って来た君が言うのかと思ったし何なら俺にはそんな事出来ないと言おうと思った矢先にスタンが…スタンが………うむ。
「正確には蘇生じゃないんだよぉ~、簡単に言うとぉ」
「…」
「まず君の脳1号から全ての記憶を抜いてA記録魔術上にアップロードしてぇ完全にA記録構成体のバックアップが完成したらぁ次に君の頭部1号と騎士君が引きちぎった二本の腕1号の構成情報をB記録魔術上にアップロードぉ~んでそれも完全にB記録構成体としてバックアップが完成したらぁそのB記録構成体のデータを…じゃ~ん!もうこれしか残ってないけどこれと同じ"生命の元"に記録干渉魔術で無理やりダウンロード&インストール!いんやぁ~本当にできるかは五分五分だったんだけどねぇ実際やってみたらぁ…なんと見る見るうちに生命の元が君の頭と腕の形状、瓜二つに変質していったんだよぉ!いんやぁすんごいねぇ!?コップ一杯分しか無かったのに頭部2号と腕2号、どっちも出来たんだよぉ~!あとはわかるでしょぉ~?そう!B記録構成体のバックアップデータ通りに形作られた君の脳2号にA記録構成体のバックアップデータをダウンロード&インストール!!そぉ~したらあとはもう必要なくなった頭部1号を君の身体から切除してぇ~新しく作った頭部2号をドッキングっぅ~!かっちょいぃ~ねぇ~!それと同じように新しく作った二本の腕2号も本体にドッキングっぅ~~!んんっ~!クゥ~ルだねぇ!あとはジオネさんの治癒魔術で適当に誤魔化せばぁ~…かんせ~い!っていうワケなのさぁ~!すごいでしょ~?いんやぁワタシってば現代医療を何十歩も前進させちゃったのかもねぇ~!ふひ、ふふはっはぁっはぁっふふふあはは」
「簡単につッたろがァ!」
「ぐえ」
スタンが長々と語っている内に戻ってきたジオネにスタンは頭を殴られる。
実際治療の工程を簡単にまとめてはいるのだが…分からない者には分からないのかもしれない。
…いや分からない者にも分かるようにする為に簡単に説明するというのならば…まぁジオネに叱られても仕方ないな。
「よ、良く分からないけど取り合えず治療してくれてありがとう…?」
「ちなみにコレがぁ~君の頭部1号~」
スタンが数刻前に切除した頭部を背嚢から取り出してケーヴの目の前に提示する。
…なぜ他人の生首を背嚢にしまっていたんだ?…いやスタンに聞いても無駄だろうな…俺ですら何を考えているが分からない時があるくらいなのだから。
「ヒッ…!」
「スタンさん、ケーヴを怖がらせないで下さい」
「ええ…自分の頭なのに…」
「貴女本当、そういうところですよ」
「え?騎士君までぇ~?あ、そういえば」
スタンがハッとしてまた語り始める。
嫌な予感がする。
「現在君に付いてる頭部2号はさっき言った通り頭部1号から記憶魔術上にアップロードしたものをダウンロード&インストールしたヤツなんだよぉ~」
「それが…何だって言うんだい…?」
スタンは何か思案している様子で語り続ける。
「だからぁ~、頭部1号からカット&ペーストした物じゃないんだよぉ」
「……つまり切り離した頭部にもまだケーヴとしての人格が残っていると?」
「そゆことぉ!さっすが騎士君~!つまりぃ今のケーヴ君は本来のケーヴ君の記憶と思想を完全な形でコピーした物なんだよぉ。そこでだよぉ~…君たちは魂と呼ばれている物は何処に宿ると思ってるぅ?」
魂が宿る場所…か。
やはり精神では無いだろうか?記憶を無くし、守るべきものも忘れたカロン・ヴァンヒートが俺だとは…思えない。
それはもはやよく似た別人だ。
「身体…だと思う」
「精神じゃないかい?」
「難しィ話だなァ。例えばカロンが記憶を失ッて別人みてェになッても私はカロン絶対会いに行くと思うしよォ、記憶を失ッちまッた私はもう私じャあねェとも思う」
皆それぞれの考えを話す。
確かにこれは人によって違う答えが出る問題なのだろう。
「まぁつまりはぁ肉体か精神の二択なわけだよねぇ~」
「…それがなにか…?」
オルシャは何やら怪訝な顔でスタンにそう問う。
「だからぁ~…この頭部1号には肉体と精神どちらもそろってるんだよぉ」
「あァ…そういう」
嫌な予感が強まっている。
渋い顔をしているジオネに関しては既に何かに感づいた様子だ。
「そして頭部2号にも両方そろっているねぇ…そして同じ魂が二つ同時に存在するなんて話はどんな文献にも載っていないんだなぁ~」
「スタン、その辺に…」
「ケーヴと同じ身体を持ち、ケーヴと同じ記憶・思考を持っているだけでその実本来はコレぇ…」
「あ、ああ…」
スタンは生命の元と呼んでいた怪しい液体を右手で掲げ、ケーヴの目の前に突きつける。
そして俺の声を無視して話を続ける。
「君はぁ…本当に"ケーヴ本人と言えるのかなぁ?"」
「もうやめてっ…!」
オルシャの言葉にスタンは気味の悪いにやけ顔を晒す。
スタンが時々見せる狂気の片鱗は…成程流石、姫様に見切りを付けられていないだけはあるのだろう。
「へひ…ふははぁ…ごめんごめん、冗談だよぉ」
「…へ?」
「折角大切な素材を使ってぇまで助けたんだからこれくらい、いぃ~でしょぉ」
冗談にしてはやけに趣味が悪いが、兎に角やっと落ちついて今後について話せるというものだ。
そんな時、とても美しく儚さを感じさせる声が聞こえた。
「"言えませんわ"」
「あッ!ささサリンしゃまっぁ~!」
今まで一言もお話になられなかった姫様がそう仰ったのだ。
それはもう可愛らしい微笑みで…当然といった様子で。
「元より存在していた物ではありませんもの、贋作は真作を越えられませんわ」
「じゃあアタシは一体…」
「贋作が真作より美しかったとしても…結局それは真作で無くってよ。それは間違っていますもの、どれだけ醜かろうとそれを作った本人以外には真作を作れませんの」
姫様は淡々と"答え合わせ"をなさる。
そうだ、姫様が正しいと仰ればそれが正しいのだ。
「っ…!いくらなんでも…言い過
「そもそも」
姫様はオルシャの抗議を割って話される。
「何故"そこまで真作に拘るんですの?"」
「だって、偽物だったらアタシは…!」
「贋作だろうと真作だろうと貴女は今、ここにしか居ませんわ」
いい事を教えて差し上げますわ、と姫様はお続けになる。
「真作より美しくもしくは醜く、派生した贋作はいずれ全く別の作品として確立されますわ」
「…」
「それが個性であり個人…ケーヴという誰でもない唯一の存在、貴女自身の真作になるのでは無くって?」
「っ…!…誰でもない…アタシ…」
ケーヴは茫然とした面持ちでスタンが左手で抱えている自分の頭部を見つめている。
姫様直々にそれを教えて頂けるなんてケーヴはどれだけ運が良いのだろう?もう金輪際良い事など一つも起こらないかもしれないな、はは。
「はは」
「うんうん…ふひぃサリン様が素晴らしすぎて笑う事しかできないねぇ騎士くぅん…」
「む?…ええ、そうですね」
今回は少し変な話が多かったかと思います、すみません。
でもこの小説を読んでいらっしゃる読者様でしたらきっと大好きですよね。
アハハ!私は大好きです!!