164.朽ち果てようとも!!
「やあぁッ!!」
オルシャの煌めく鎌を大盾でいなして抜剣し、そのままの勢いで直剣を振るうが残念ながらギリギリの所で躱されてしまう。
ケーヴは既に直剣二本と大剣一本を構え直している、流石に騎士であるだけはあるな。
「…っ!本当に、最悪!」
「はぁ…はぁ…悪い、オルシャ。私も戦う」
「…」
本来ならば重装騎士らしくカウンターを狙うのが効果的なのだろうが、今は二人を守らねばならない、ならば二手に別れられる前に片方を始末するのが適切だろう。
「…はッ!!」
重装鎧に魔力を巡らせて高速でケーヴに肉薄する。
そのままの勢いでシールドバッシュを繰り出す…が。
「なっ…!?ケーヴ!!」
「クソッ!」
俺の突進に気が付いたオルシャが咄嗟にケーヴと俺の間に入りシールドバッシュを受け止めようとする。
「ああッ…!」
「がっ!」
それでも重装騎士のシールドバッシュを受け止める事が出来るはずもなく二人は勢いよく吹き飛び後方の木が2本ほどへし折れた所で地面に転がり、そこにあった大岩に衝突して停止する。
受け身を取れていた様子は無い。
「げほ…ゲホッ…!オルシャ…生きてるかい」
「……あ、ぐ…ぅだめ…ほね、折れて…る」
へし折れたカエシギを踏み潰して地面に這いつくばる二人に接近する。
そういえばいつも木製の物に腰かけるときは軽量化魔術を行使していたが…下手をすればこのカエシギのようにくしゃくしゃに潰してしまっていたのかも知れないな…危ない危ない。
「ハハ」
「何がっ…!可笑しいんだい…!」
「む、すまない。気にするな」
無意識のうちに笑ってしまっていた様だ、これは失礼だったな。
「ふざ、けるなァッ!!」
ケーヴの気配が変わった。
この光…魔力…脅威…、"誓い"か。
第一騎士団や第二騎士団ならまだしも…変人揃いの第四騎士団が扱う"誓い"…さてどんなものか。
誓いは騎士が騎士である以上必ず一人一つだけ扱う事が出来る…いわゆる奥の手だ。
一般的には身体超強化系の誓いを扱うものが多い、特に第一騎士団や第二騎士団は殆どの騎士がソレを扱い勝利を誓う。
「騎士をナメる…なよ!」
「ほう、私も騎士なのだが」
私の軽口を無視してケーヴは誓いを立てる。
「『眼前の敵を滅ぼし!隣の仲間を守る!たとえ、この身が!朽ち果てようとも!!決死の戦いを今!』」
「オリジナルか」
ケーヴの目から血液が溢れ出し、四本の腕に握る三本の剣は黄金に光り輝く。
それにしても流石第四騎士団、本当に個性が強いな、普通ならば定型文…のような物があるのだが、まぁどう誓おうが個人の勝手ではあるしな。
「『ここに誓
「そこまでだ」
ぶすり
右手に握る直剣がケーヴの喉から脳天を貫く。
まさかこの俺が、わざわざ"誓い"を立てさせるとでも思って居たのだろうか?そんなはずが無いだろうに、こっちは要人護衛中だぞ?正々堂々と戦って居ては務まらない。
「お、ご」
「…未熟だな」
直剣を引き抜く。
「………ほう」
「ご」
咄嗟に大盾を前方に突き出す。
直後けたたましい音と衝撃が大盾を持つ左手に響く。
「この身が朽ち果てようとも、か」
「ご、ぎ、ぎ」
重装鎧に魔力を巡らせる。
…その気合は認めよう。
「終わりだ」
「ぁ…」
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暗い…今は夜なのか?暗くて何も見えない。
アタシは…負けたのか?…死ぬのはいい、だけど…アタシが負ければオルシャは…。
「ーーヴ…!」
「…」
声がする。
目を覚まさないと、いけない?
早朝訓練なら…お断…りしたい…ねぇ。
「…起きてっ!!」
「痛ッ!?」
ひりひり痛む頬の感覚があって、いつもあった別の感覚が無い。
眼前には半泣きのオルシャ…何故ロープでぐるぐる巻きになってるんだい?
「よォ、さッきは大層なご挨拶!ア・リ・ガ・ト・ヨ!!」
ドゴッ
そして突然恐ろしい歯をした女に頭をぶん殴られた。
凄まじい激痛と共にアタシの意識はもう一度暗い底に沈んでいった。