156.ナニがだよ…
丁重にとはいかないがかつての戦友を埋葬し、瓦礫まみれになったラマルラを発つ。
騎士として復興支援は行いたかったが、今は姫様が最優先の為諦めた。
俺が投げた魔動車はドラゴンにでも襲われていなければ狙い通りガエリオン大沼地に落下するはずだ、あそこには騎士団のガエリオン支部があるのできっと保護してもらえるだろう。
「ならば急ぐ必要は無い…か」
常時数十人の騎士が詰めている筈だ、手負いの俺が一人加わったぐらいで何かが変わる事は無い。
本来であれば俺も同行したいと思って居たがこんなアクシデントに見舞われればこれが最善だろう。
俺は姫様やスタンのように替えの聞かない存在とは違いただの騎士だ、そもそも出しゃばりすぎたのかもしれない、一応ガエリオン支部には顔を出すつもりだが姫様が既にガエリオン支部を発っていればそこで俺の使命は終わりと思っていいだろう。
今までは必ず姫様を王城に送り届けると誓っていたが状況が状況だ、一度冷静になって最善を考えるべきだったのだ。
「ガエリオン支部に行くには…この道が最短だな」
俺はガエリオン支部へ向かって歩く。
魔動車を投飛ばしてしまったのだから仕方がない、それに…俺はこうして歩き続けるほうが性に合っている。
先の戦闘で負った傷が痛むが不思議と既に傷口はふさがっている、まさに化け物といった感じだな。
ここからは人通りも増えていくだろうから一応全身洗浄魔術を行使しておいた、普通に考えて血まみれの騎士が一人で歩いていたら要らぬ心配をかけてしまうだろうからな。
しかしこの重装鎧は本当に素晴らしい、確かに先の戦闘で焼け爛れボロボロになってはいるものの、既に自動修繕が始まっているのだから、きっと1日もすれば元通りだろう。
「ジオネには礼を言わなくてはな…いや、そうか忘れかけていた」
俺はもう彼女には会えないのだ。
既に人間ですら無くなってしまった俺は…人間として生きていくことはできないだろう、こんな化け物が王国に入ることを許されるわけが無い、それに俺が許すことは出来ない。
そうだ…俺はもう…、すまないジオネ。
直接謝る事すら出来ないなんてな…全くもって情けない。
「…」
だが歩みを止めるわけには行かない、これからの運命を悟っていても進むしかないのだ。
後悔はしていない、こうなる運命だったのだ。
騎士になったことも、化け物になったことも全て。
「おい…嘘だろ」
「…?」
何人かの通行人とすれ違ったが、初めて話しかけられた、フードを被っているが胸元に見えるプレートが身元を証明しているので身構える必要は無いだろう。
しかし何故魔学研究所の人間がこんな場所に?
「お前…カロンなのか?」
その人物はフードを脱ぐ、そして俺の目に映ったのは誰よりも親しい人物であり、会いたいともおもっていた人物だった。
「ジオネ…!?何故こんなところに…」
「よ…かった…!お前…!」
ジオネはその金色の瞳に涙を浮かべて俺に抱き着いてきたので俺も受け止める。
まさか…こんな事があるなんて、まだ神は俺を見放しては居なかったのだろうか。
「その…だな、ジオネ」
「ンだよ…」
色々言いたいこともあったし、それを除いても言うべき言葉…その二択で少し迷ったが、俺は。
「ありがとう…」
「…はァ?ナニがだよ…」