152.記憶
「…うえぇ…吐きそうだ…」
「ウェェェェイ!!吐け吐け~!」
街灯が照らす街路を羊も帰る未明に酔った皆で帰る道のりはなんだが寂しいような、これはこれで乙な気もするような…なんとも言えない気分にさせてくれる。
私はこの時間が好きだ、きっと私たちが守っている物の中にはこのような平和も含まれているのだろうと考えると…誇らしい。
「だんちょぉ…」
「こいつ夢の中でも俺の事イジってるんじゃ無いだろうな…」
リインは途中で寝てしまったのでカコルネルさんが背負っている。
ちなみにこれはいつもの事であり、今回は仕方なくとかでは無くて毎回毎回カコルネルさんは酔いつぶれたリインを背負って帰っている。
聞いた話だとカコルネルさんの家とリインの家はお隣さんなのだとか…多分狙って引っ越したんだろう。
「…それでは私達これで」
「あ、ああ…そうだな」
楽しい時間も終わりがやってきたようだ。
家の場所関係上リコ、イリーネ、リイン、カコルネルさんとはここで別れるのだ。
いつも飲みに行く面子の中では私だけが皆と別方向に住んでいる為いつも途中から一人で帰っている…今日はカロンとジオネ氏が居る為一人では無いのだが。
「またね~!」
「楽しかったぜ、じゃあな」
「お気をつけて」
カコルネルさんはカロンの方を見てそう言うとカロンもそれに答えた。
恐らくカロンもカコルネルさんと同じように酔いつぶれたジオネ氏を抱きかかえている為親近感が湧いたのだろう…多分。
「…」
少しずつ遠くなっていく皆の背中を見ているとなんだか心が切なくなってくる。
「さぁ、私達も帰ろう」
「そうですね」
そんな心の切なさを無視して歩みを進める、まずは行動しなければいけない、いつまでもここで黄昏ている訳にも行かないのだし。
「…」
「…」
静かな町の夜に二人の足音だけが小さく響いている。
なんだか少し気まずく感じ適当な話をすることにした。
「今日は私達の飲み会に巻き込んでしまって悪かったな」
「いえ大丈夫ですよ、ジオネも楽しんでいたようですし」
やっぱり敬語はやめてくれないか…何ともカロンらしくて少し笑いそうになるが、それを容易く抑えて話を続ける。
「なぁ…ちょっと質問しても良いだろうか?」
「ええ、構いませんよ」
せっかくの機会だし一つ気になっていたことを聞こう、疑問というか…単純に不思議に思って居たことだ。
「何故第三騎士団の団長に立候補しなかったんだ?カロンの実力であれば団長や副団長になっても可笑しくないと思うのだが…」
「私はその様な器ではありませんので」
そう話す彼の傷だらけの横顔に後悔や悩みの念は感じられなかった。
きっと本心からそう思って居るのだろう、何ともつまらない男だ。
「少しだけ、意地悪な質問を…してもいいだろうか?」
酔いのせいか、悪戯心のせいか。
「構いませんよ」
そう言うと分かっていた、知っていた。
本当にまっすぐで…つまらない男。
だから…私は少し意地悪な質問をした。
「もし私が王国に反旗を翻したら…どうする?」
「…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「目が覚めましたかヘルエス様」
「…ああ、もう大丈夫だ」
目が覚める、そして忘れていた様々な感情が私の全身を蝕む。
あまりの殺衝動に眩暈がする、早く、早く早く早く魔族を殺さなくては。
「……殺さないと」
「お供します…何処までも」
さっきまで見ていた夢はもう忘れてしまった。
どうせあの魔族達に嬲られる悪夢なのだろう、そんなものを思い出したいとは思えない。
そんな事を思い出す時間があるのなら、早く魔族を殺したい。
「行くぞ」
「…次はどちらへ」
何処へ?そういえば私は今何処にいるのだろうか?見たことの無い灰色の景色、異常にうるさい環境音。
ああ、駄目だ…考えても分からない…分からない。
でも、”分かる”
「こっちだ」
「そちらには何が…?」
何が…何があるというのだろう。
「分からない、でも…でも、私が、私の意識が、あそこに向かえば…全てを終わらせることが出来ると…考えて…?感じて…?」
「ヘルエス様?」
黒く煮詰まってドロドロになった脳内で何かが訴えている。
「…いや、違う」
これは思考じゃない、感覚じゃない。
「…全てを終わらせることが出来ると…“覚えているんだ“」