151.まずは麦酒だよな?
「それで、どちらまで?」
「いつもの場所だよ」
私・リコ・イリーネ・カコルネルさん・リインの5人で街中を歩く。
勿論鎧は装着していないのでいつもより気は楽だ。
「団長あそこ出禁になっていませんでしたか?」
「なってねぇよっ!!」
「ふふ、本当に仲が良いですね」
基本的に騎士団や魔術団の人々は皆仲が良い、というのも騎士や魔術師になる為の訓練は非常に厳しいものであり、それこそ死人が出るほどに…だからこそお互いを励ましあって厳しい訓練を乗り越えた者たちは皆仲が良い。
もちろん例外はある…がそんなもの本当の本当に例外なので気にするほどではない。
「いつまで乳繰り合ってんのさ~!もう着いたんだけど~?」
「乳繰りって…なぜいつもこうなるんだっ」
「…はぁさっさと入るぞ」
リコが扉を開けてくれたのでそれに乗じて店内に入る、店内はいつも通りそして予想通り多くの客が騒いでいた。
ちなみに今日は全員私服に着替えてから来ているので騎士だ騎士だと騒がれることも無い。
「いらっしゃいませ!空いている席にどうぞ!」
「おっ今日もイケてるね」
「団長…」
カコルネルさんに冷たい視線を送っているリインを無視して全員座れる席へ行く。
木製テーブルの上にはメニュー表があるがそれを誰も見ることはない、といっても深い理由があるわけでは無くて単によく通っているので大抵いつも頼むものは同じというだけだ。
「まずは麦酒だよな?」
「…だな」
「異論な~し」
という訳で私が何かを言うまでも無く麦酒が5人分注文された。
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「ぷは~~~!!どんどんのめ~!そして体調崩せ崩せ~!」
「…なのでいつも愛とは許容だと言っているではありませんか」
「団長狭いのでもっと詰めて下さい」
「ちょちょちょお前、これ以上詰めたら俺つぶれるって!てかそっち滅茶苦茶スペースあるだろ!?」
悪酔いさせようとするイリーネ・分かりやすく酔うリコ・早口になり執拗にカコルネルさんに触れようとするリイン・そして触られるカコルネルさん…いつもの光景だ。
「ふふ、楽しいなぁ…」
私は酔うと口数が少なくなるタイプなのだとか、まぁ確かにこうして楽しそうにしている仲間達を見ているだけで楽しいので仕方ないと言えば仕方ない。
何よりも幸せになってほしい仲間たちが楽しそうにしている姿を見ているとそれだけで私も楽しくなってしまう、そんなとき隣の席に座る人達の声が聞こえてきた。
「それでよォ…新しい鎧がァ」
「そうか」
鎧…というとやはり"通常"の鎧の話だろうか?まぁ滅多にこんな酒場で騎士が装着する鎧の話が出る事は無いのだし、多分通常の鎧について話しているのだろう。
「…ってカロン…お前話聞ィてんのかァ?」
「ああ」
む?カロン?
隣の席に座るトレンチコートの大男の顔を見る。
「ってカロンじゃないか!?」
「これは…ヘルエス様」
まさかと思って見てみるとやはり同期のカロン・ヴァンヒートであった。
彼は私の同期であり、そして…初めて私の"宣誓"した本気の一撃を受けて無事だった男。
一応"宣誓"を用いた訓練だったとはいえあの一撃は確かに私のもてる全ての力をつぎ込んだものだった、故にそれまでたった一度もあの一撃を受けて無事だった者はいなかったのだが…そんな事知るかと言わんばかりに大きくえぐれた地面の中心に彼は立っていた。
「ハァ…?ヘルエスゥ~?」
「ああ、えっと私がヘルエスだが…」
「じゃあテメェかァ、カロンにあんな馬鹿げた攻撃したボケェ!!」
「えっ!?ええと、あれはだな訓練で…!」
カロンの対面に座る顔がとても怖い女が歯をガチンガチン鳴らしながらテーブルを殴る。
こういっては何だが魔族より怖い。
「爛れた重装鎧見たらワカんだよォ!アレはァ味方に撃つモンじャァねェだろォがよォ!!」
「き、君には分からないかも知れないが騎士の間ではあれくらい…」
「嘘吐いてんじャァねェぞボケがァ…重装騎士の訓練にあそこまでの威力をもった攻撃の対処訓練なんざァねェんだよ!!」
「ひ、ひぃ…カロン彼女は一体…」
「魔学研究所に属するジオネ・ヴェインです」
なんだって?ジオネ・ヴェインってあの…今までとは全く違う製法で数々の高性能鎧を作り出したあの!?
「え、あ、いつも貴女の作った鎧には大変感謝し
「オイ、こんなところでその話はスんなよなァ」
「?ジオネどうかしたのか」
「お前は気にしなくてイイんだよォ」
まさかこんなところで有名人に会えるとは今日はなんて幸運な日なのだろうか!せっかくだしこの機会に色んなことを聞いておきたい!
「あれ~?どしたのヘルエス~…ってうわカロン」
「イリーネ様もいらしたのですね」
「同期なんだから魔術団の団長になっても様付けないでって言ってんじゃんか~…」
「いえ…同期でも立場が上であれば敬称は付けるのが当たり前です」
「固ッッた!リコより固いわ~!!」
ふとリコを見るが酔っているのかカコルネルさんと真剣に何かを話しておりこちらには全く注意が向いていない様子だった。
というか真横なのにそれはどうなのだろうか?
「あらカロンじゃない貴方も来てたのねそちらの方は?デートかしら」
「リインか、久しいな」
「ででででェとじャァねェよ…!」
もうせっかくだしこのまま机くっつけてみんなで呑もう。
というか個人的にジオネさんに色々聞きたいことがある…それはもう鎧とか鎧とか…!
「さて、長い夜が始まりそうね…!」