150.天体映写機になるそうですよ
「あぁ…まだ殺したりない」
「…」
私は殺した。
憎き魔族を、何百体も。
再び目覚めたあの日から一度も休まず殺し続けている。
気持ちの悪い視線を浴びせてくる魔族を、老いた魔族を、まだ幼い魔族を!老若男女問わずに殺して回った。
「足りない…足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない!!!」
「ヘルエス様」
でも…それでもまだ殺したりないのだ。
殺しても殺しても殺したりない、どれだけ返り血に染まろうとも心の穢れは洗い流せない。
今でも奴らが憎くて憎くて堪らない。
私は成長したのだ、逃げる魔族を追い詰めるために魔術を行使せずに空も飛べるようになったし、隠れる魔族を見つけるために瞳も増やした。
なのに、それなのに…!
「ヘルエス!!」
「…」
「…ソレはもう死んでおります。次へ向かいましょう」
「そう…だな」
今さっきまで私が刺し続けていた魔族を魔術で燃やし、次へと向かう。
「…っ」
「…大丈夫ですか?疲れておられる様子…少し休まれては?」
一瞬気が遠くなり転びそうになるがリコに支えられる。
そういえば私に良く似た戦い方をする魔族に苦戦した挙句に逃げられたのだった。
…その時の傷は未だ癒えてはいないのだ。
「…ああ、では少しだけ…休ませて…くれ…」
「…………寝付きの良さは昔と変わらない…か」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふぅ…では今日の訓練はここまでとするッ!!各自解散!」
私の言葉を聞いた騎士候補生達がトボトボと訓練場を後にし始める。
…今日も訓練中に多数の脱落者が出てしまった、情けない等と罵るつもりはない、騎士候補生の訓練は困難極める物ばかりであり実際死者も出ているのだから彼らを責める事は出来ない。
私の同期も半数以上脱落してしまったのだ、私は才能があったのか何とか騎士になる事ができたがそうでない者達からすれば地獄だろう。
私が第二騎士団の団長になった暁には脱落者を無くそうと思って居たのだが…実際はこの様だ、例年通りに脱落者は出てしまっている。
「ハーイ、負傷者はこっちに来てねー…あヒィ…いったそうな顔してるぅぅ…っ!」
「おいイリーネ…せめて口に出すなよ…」
「でもさぁヘルエス、我慢するのって身体に悪いんだよぉぉ…!」
主張の激しい髪色をしてはいるものの、第四魔術団の団長であるイリーネは他人の痛がる表情が好きという特殊な性癖をもつ人物なので騎士候補生からは大変評判が悪い、そのせいで副団長やその他の第四魔術団員から苦情も来ているのだ。
「耐えるのは騎士として当然だろうに…」
「私…魔術師だもーん」
「はぁ…リコ、お前からも何か言ってやってくれ」
私は副団長であるリコに助勢を求めた。
「…魔術師も基礎として騎士の訓練を受けている筈ですが」
「リコってば頭かったいなぁ」
「おお~い!訓練はもう終わったのか~?」
そんなやり取りをしているとなんだが冴えない顔をしている第三魔術団の団長、カコルネルさんが超低空飛行でやってきた、そのすぐ後ろには王国では珍しい白髪の副団長のリインが追従している。
…ちなみにカコルネルさんは4つ年上なのでさん付けなのだがリインは同期で同じ歳なので呼び捨てさせてもらっている…ついでにイリーネも同じ歳だったりする。
「おお、カコルネルさんじゃないか。久しいな任務は無事果たせたのか?」
「よっと…勿論だ問題ないさ」
カコルネルさんは私の目の前に着地するとリインも同じくその横に着地する。
「ヘルエス様、団長は天体映写機になるそうですよ」
「いやならねぇよ!!」
「ふふっ、本当に仲が良いな貴方達は」
「えぇ…何をどうしたらそう見えんのかなぁ…」
カコルネルさんは顔を引きつらせているが…まぁ誰がどう見てもリインは彼に惚れているので彼がそれに気付くのも時間の問題だろう。
「ってかそうそう!言うの忘れてたんだが、久しぶりに皆で飲みに行かないか?」
「ああ、勿論付き合おう!リコも来るだろう?」
「…ああ、私も行こう」
リコは頑固だがこう見えて付き合いが良い、誘うと来てくれる男だ。
「おぉいいねぇ私も行く!酔いつぶれてゲロってもいいんだよぉ?」
「えぇ…嫌だよ…気持ち悪いのにお前となりで気持ち良さそうにするじゃん…」
「それは…まぁ…うん…イリーネはそういう奴だから我慢しよう…」
昔からイリーネは変わらない、同期なので同じ訓練に参加していたが私が痛がるとコイツは喜ぶのだ。
「あ、そうそうリインお前も来いよ」
「良いのでしょうか?」
「気にすんなよ」
「…では私も同行します。団長が酔って酒場の店員に手を出さないとも限らないですしね」
「いや出さねぇよ!?」