147.遅刻バカ
「おや…もうこんな時間ですね」
姫様と紅茶を嗜んでいるうちに定期合流の時間になっている事に気が付く。
姫様の発案で一定時間に一度全員集まるという取り決めをしたのだ、船内で何かあって到着までそれが発覚しない事を恐れての判断だろう。
コンコン
ノックが部屋に響く。
一応索敵魔術を行使し、扉の向こうに居るであろう人物を特定する。
「…ドルティか」
扉の鍵を開けて扉を開く、するとやはりドルティが突っ立っていた。
「お邪魔します…やっぱりお前はサリン様と居たんだな」
「当たり前だろう」
「スタンは一緒ではありませんの?」
ドルティの後ろは勿論、先ほど索敵魔術を行使した時にもスタンの魔力は確認できなかった。
「?一緒では無いですよ」
「待っていれば来るでしょう、それに…まだ予定時刻より10分程早いです」
流石に5分前には来ると思うが、スタンの性格を考えると時間丁度にやってきそうである。
待っている間にドルティにも紅茶を淹れてやろう。
「ドルティ、紅茶を淹れてやるからそこに座っているといい」
「騎士ってそんな事までやるのか…」
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「……」
「………来ないですね」
「…そうですわね」
あれから20分、既に集合時間を10分もオーバーしている。
だというのにスタンは未だに姿を見せていなかった。
「あいつサリン様を待たせて何やってんだ…!」
「何か事情があるのかもしれませんね…私が探してきます」
「…」
本当はドルティに任せて俺が姫様の傍に控えるというのが最善なのだが…ドルティは索敵魔術が苦手だというので効率を考えると仕方がない。
姫様の表情は不安そうに見える、だが俺以外が居る場でそれを口にしない所が非常に姫様らしい。
そして姫様の不安は俺が一人で行動する事に対する不安なのだろうと今は理解できる、少しずつであるが俺も姫様のお気持ちを察せるようになってきた。
「ご安心下さい、すぐに戻りますので」
「ええ…待っていますわ」
「姫様は私が守るからさっさとあの遅刻バカを捕まえてきてくれ」
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「(はぁ~あぁ~…どうしてこうなったぁ…)」
ワタシは目の前で繰り広げられる惨劇を茫然と見つめる。
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飛空艇が離陸した後ワタシは好奇心から飛空艇内を探索していた、見たことの無い魔術構成の機械や見たことのある魔術構成の機械をワクワクしながら見て回っていると、何やら機関部でこそこそしている連中を発見したんだ。
「なにしてるんですかぁ~?」
「あッ!?」
バッチリ目が合った。
覆面をしている怪しい集団と。
「捕まえろ!!」
「エエェ!?!?」
普段引きこもって研究ばっかりしているワタシが屈強な覆面集団に肉弾戦で敵うはずも無く…
「ぎょわああぁぁぁ!?!?」
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「(はぁ…これはぁ大変だなぁ…)」
そして今縄でぐるぐる巻きにされて床に放置されている。
「よし…制圧完了だ。機内にアナウンスをする準備をしろ」
「(あちゃ~機長もみんな殺されちゃったわ)」
そう、ワタシがいま横たわっているのは操縦室。
つまりこの大型飛行艇は…ハイジャックされてしまったのだった。
「隊長、コイツはどうしますか?」
「乗客は人質にする、ほっとけ」
「んぅ~!んんん!ぬぬぬぬ…!うぬーーーーッ!!」
「うっさこいつ…」
怪しい覆面集団はげんなりしている様子だが危害を加えてくる様子は無いようで取り合えず安心する。
横たわっているせいで良く見えないけど、私のほかにも捉えられてる人は数人いるらしい事をさっき喋っているのを盗み聞きした。
その人たちと協力すればこの状況を打破できるかもしれない…!聞いたときはいつ使うんだそんな技と思ったけれど、ドルティ直伝の縄抜け術を早速使う機会が来るとは…。
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「というわけでどうやらスタンはハイジャック犯によって機長室でとらえられているようです」
「ハァ~~~!!!??それ本当かよ!?」
「どうして毎回面倒なことが起こるのかしら…」
俺はスタンを探し始めて一番最初にサービスカウンターへ行き迷子のスタンが届けられていないかを確認しに行ったのだが、そこで騎士であることを理由に機長室への連絡が通じなくて困っているから助けて欲しいと頼まれてしまった。
勿論スタンを探すのを優先しようと思ったのだが、機材トラブルがあれば人探しどころでは無い事を長々と力説されてしまい仕方なく一度操縦室に向かったのだが…そこで入室前に定期的にしている索敵魔術を行使したところ、床で寝ているスタンの魔力と共にその他幾人かの魔力反応を察知した。
明らかに怪しいので魔術を行使して中の様子を探っていくと幾人かの死体を発見したのでハイジャックされていると判断した。
現状この大型飛行艇が異常な軌道をしていない事を考えると恐らくハイジャック犯の中に飛空艇を操縦できる人材が居るのだろう。
「わたくしに良い考えがありますわ」
「お聞かせください」