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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第5章:死の縁
143/226

143.ティーカップが落ちる可能性



 搭乗券を購入する為、魔動車で飛空艇乗り場へ向かう。


 意外と飛空艇乗り場は入口から近いようですんなりと到着しそうだ。



「あそこですね」



 飛空艇乗り場は結構大きな建物なのだが…大型飛空艇が大きすぎるのか建物越しでもその大きな船体は見えるようだ。


 ふむ…最新型では無いが割と新し目のモデルだ、あれならば内装もそこまでひどくは無いだろう。



「大きいですわね」


「はい。分かりやすく例えると…アリスシア王国の王城と同じくらいのサイズの筈ですよ」



 王城のサイズは大体縦に450mぐらいのサイズなので全く同じでは無いと思うがあの大型飛空艇も大体430~480mくらいだろう。


 480mを超えるサイズの飛空艇は超大型飛空艇に分類されるのでそのサイズは超えていない筈だ。


 そうこうしているうちに乗り場のある建物に到着した。


 魔動車を駐車場に止めて、車から降りる。



「姫様、降車致しますのでご注意ください」


「わかりましたわ」



 姫様が天井に手を添えたのを目視で確認して、降車するとやはり車は軽く跳ねた。


 そして姫様が降車できるように後部座席側の扉を開き、手を差し伸べる。



「どうぞ」


「ありがとう」



 姫様は俺の手をお取りになって魔動車から降車なされる。


 車は微動だにしなかった…もっとちゃんと食事を取って体重を増やして欲しいものだ、なんだか不安になってしまう身軽さであらせられる。



「では行きましょう」


「ええ」



 駐車場から飛空艇乗り場の建物は直通しており、そのままいけるようになっているのでその道を通ろう。


////////////////////////////////



「やはり様々な人種の方がいらっしゃるようですね」



 飛空艇乗り場には大量に客がおり、またその客たちの背格好もバラバラである。



「カロンが一番強そうで安心致しましたわ」



 姫様はホっとした表情をなさっている訳でもなく、いつも通りの微笑みでそう仰られた。


 俺が一番強そう…か、それはその筈だ、世界中どこを探しても一般人が騎士に勝てるはずが無いのだから。



「姫様には指一本触れさせませんのでご安心ください」


「ええ、信じていますわ」



 姫様はニッと微笑えまれる。


 一応俺の戦闘力はある程度信用して頂けた…のだろうか?もしそうであれば姫様のご期待を裏切らぬようにしたい所だ。


 あたりを見回すと、天井からぶら下がっている看板に搭乗受付と記されている場所を見つけたのでそちらへ姫様と共に歩く。



「4人分の搭乗券と魔動車の輸送券を購入したいのですが」


「へぇあ!?騎士様!?あっ!搭乗券と輸送券ですね!!少々お待ちください!」


「搭乗券の内一人分は個室でお願いします」


「かしこまりました!」



 案の定受付に驚かれてしまった。


 まぁここに来るまでに既に数十回以上通行人に驚かれているので大した問題ではない。



「人気者ですわね」


「…恐らく騎士であれば私で無くとも驚かれると思いますよ」



 そう、騎士と言えば一般人にとっての希望である。


 現役騎士を一般人が倒すのは数十人掛かりでもほぼ不可能に近いと言われる程戦闘力が高い、それこそ重装騎士なんて通常の騎士が束になっても勝率は低いと言われている程だ、そんな重装騎士が居ればそれは勿論興味を引くのだろう。



「騎士様!お待たせしました料金はこちらになります!」



 受付が差し出した料金表には5万リンと書かれている、まぁ妥当な金額だろう。


 俺はリンを支払い、受付から搭乗券を受け取った。



「今日は3時間後のフライトになります!30分前には搭乗口にいらしてください!」


「わかりました。それでは…行きましょう」



 3時間後か、なら姫様が洋服を見る時間も取れるし丁度良いだろう。


 …うむ、予想通りあっさりと終わってしまったな…残った時間はどうしようか。



「集合予定時刻まではまだ余裕がありますが、どうなされますか?」



 まずは姫様の意見が最優先なので姫様に伺う事にする。



「そうですわね…もし良かったら、お喋りでも…どうかしら」



 姫様は若干小さな声で俺にそう仰られた、何やら気恥ずかしそうなお様子だ。


 それにしても姫様から俺と話がしたいとは…なにやら嬉しいな。



「はい、喜んでご一緒させていただきます」



///////////////////////////////////////////



「…という事がありまして。その時は大変困りました…」



 俺と姫様は魔動車に戻り、しばし話をした。


 昔大変だった話や面白かった話など…他愛のない話だ、だがそんな普通が俺には幸せに感じられる。



「ふふっ…それは酷い話ですわね」



 姫様はいつもの微笑みとは少し違う笑みを浮かべられながら話される。


 こうして話をしていると姫様の言葉の節々からはとても考えて話している事が伝わってくる。


 姫様は思った事を言葉にする前に慎重に考えて、大丈夫だと判断してからやっと口に出されている様に感じる。



「そういえば…こんな話がありますの」


「是非、お聞かせください」



 姫様は何もない空間からティーカップを取り出して言葉を続けられる。



「このティーカップが落ちる可能性は何%だと思うかしら」


「落とすか、落とさないかの二択であれば50%…でしょうか」



 姫様はそれでは、と言いティーカップを落とされる。


 落ちたティーカップは姫様の太ももにポトリと落ちた、どうやら中身は入っていなかったようだ。



「さて、このティーカップが落ちた可能性は何%かしら?」


「既に落ちているので100%…という程簡単な話では無さそうですね」



 姫様は優しくニッとほほ笑えまれる。



「ええ、その通りですわ。この既に落ちたことが確定している様に思えるティーカップが…落ちる可能性は100%ではありませんの」


「既に落ちているという事実を変える方法がある…という事ですね」



 姫様は少しだけ驚いたような表情をされる。


 そしてすぐに先ほどと同じ微笑みに戻られた。



「そう、その通りですわカロン。既に確定しているように思える事実は…変えられますの」



 姫様はそう仰ると少しだけ不安そうな表情をされる。



「わたくし達には過去が判明していますわ。でも未来は判明していない…」


「今は無理でも…この先の未来で過去を変える事が出来るようになるかもしれないと…いう事なのですね」



 ふと考える、既に知っている筈の過去が…自分の気が付かないうちに書き換えられる事を。


 それは、とても恐ろしい事だ。



「その通りですわ。全ての未来が分からない以上、100%なんてあり得ませんの…勿論いつか過去を変えられるようになったとしても先ほど落ちたティーカップを落ちないようにするかなんて分かりませんわ。それでも遠い未来でティーカップを落とさないようにするかしないかの50%が発生しているのですから、やはり100%ではありませんの」


「それは…とても恐ろしいですね」



 恐ろしい。


 俺が今まで経験してきた事全てが…未だに知っている結末と違う結末を迎える可能性が残っているなんて…それは、恐ろしい。


 俺は未だに『大戦で戦死して姫様を守れ無かった可能性』を持っているのだ。



「…100%が存在しないから絶対は無い…でも絶対が絶対に存在しないと言う可能性も100%ではありませんの、だから絶対は存在しているともいえるし、そうでないとも言えますわね」


「なるほど、きりが無い話なのですね」


「ええ。本当に意味が分からなくなりますわ…わからないことが…恐ろしい」



 姫様はどこか遠い目をされる。


 姫様はこんな事実に気が付いていらっしゃったのか…まだ16歳だというのにこんな事実を知ってしまえば…それは、その事実はいったいどれだけ姫様の心を蝕んだのだろうか。


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