141.なんでお前が自慢げに話してんだよ
しばらく道に沿って走行していると景色が変わり始めた。
ここまでの道のりは何もない草原だったのだが、どうやらこの先は石畳になっているようでエルドレインの管理人が人々の出入りを良く意識していることが分かる。
大型飛空艇の発着場がある事もあって人の流れは大きいのだろう、実際に訪れたことは一度も無いが昔学んだ事によるとエルドレインには商業施設が多数あり大変賑わっているらしい。楽しみだ。
だが姫様は心配事が多いお方だ、そのような人混みの中へ行かれるだろうか?もし行かれない様であれば俺も行くのは止めて姫様のおそばに控えるとしよう。
…そういえば姫様の毎日変わるお召し物はどこで調達されているのだろうか?ラマルラで自由行動をされた際も姫様は闘技大会をご覧になられていたようだし…取り寄せているのだろうか?いや…この状況下で取り寄せるのは困難だろう、そうなるとやはり手作り…?
姫様ならば十分にあり得る…!だがそんなことを続けているとお疲れになるだろう、姫様には少しでも楽をして頂きたい…かと言って姫様の毎日着替えるという行為を否定したくも無い。
うむ…どうすれば姫様に楽をして頂けるだろうか。
……普通に買い物をして頂くというのはどうだ?それならば女性は目新しいものを好むと聞くし姫様に楽しんで頂けるのではないだろうか。
姫様に楽しんで頂き、更に…これは推測だがご自分でお召し物を作成する手間も省ける…!なかなか良い案ではないだろうか?まぁもっとも姫様が行かないと仰るのならば、この計画は無しだが。
あまり思慮していることを悟られない様にそれと無く買い物をし易いように話しておこう。
「エルドレインには様々な物がありますので飛空艇に乗船する前に必要なものがあれば買い物をしておいた方がよいかもしれません」
「いいねぇ~!!」
「そういやアソコは色々売ってるもんなぁ、服とか買ってくか」
おお!よく言ったボ…ドルティ!
この機会を逃さず姫様が会話に入りやすいような基盤を作り上げなければ!
「ふむ、ドルティもよく着替えるのか?」
「は?バカにしてんのか当たり前だろ女だぞ私は、…便利な魔術があっても気分転換したい時があんだよ」
「毎日白衣でも気にならないけどなぁ~」
「お前は例外だろ」
「なんかワタシへの当たりキツくないぃ?」
なるほど、そういうものなのか。
そういえばジオネも結構頻繁に着替えていた気がする、理由を聞いた事は無いが。
俺もよく着替えるがあまり気分転換にはならないが…いやあまり頭ごなしに他人の意見を否定するべきではないのだろう、きっと俺が着替えても気分転換にならないのは重装鎧を装着することによって外見的な変化が無いからだろう。
もしくは…常時冷静でいるように努めるよう訓練し続けた結果なのかもしれないが。
「そういえばサリン様は昨日と違うドレスを着ていらっしゃいますね、どれくらいの頻度できがえているんですか?」
よく言ったボ……ドルティ!まさか俺の思惑を理解しているのではと思ってしまうほど良いタイミングだ。
「毎日着替えていますわ」
「毎日ですか!?そ、それは何というか…その、凄いですね」
「サリン様はモノづくりの才能があるからねぇ~!来てるもののほとんどは自作されているんだよぉ~!!」
「なんでお前が自慢げに話してんだよ」
「才能…とまでは行かないですわ、練習で得た物ですもの」
本当に姫様はご自分でドレスをお創りになっていたのか!流石姫様…やはり素晴らしいお方だ。
そんな素晴らしいお方の傍に居られるなんて一体俺はどれほどの幸運なのだろうか?…いやまて、話がずれてしまう、そうではなく姫様に楽をして頂くために話をしなければならないのだ。
「では折角ですから偶にはお召し物を買いに行かれては如何ですか?もちろん私もお供いたしますので」
「そうですわね…カロンがそう言うのなら一度見てみますわ」
おおっ…!よし、これで姫様に楽をして頂けるかもしれない。
あとは姫様が人混みで不安になられないよう俺がしっかりお守りしなければな。
「わ、ワタシも付いていっていいぃでしょうかぁ~!?」
「ええ、良くってよ」
姫様がニッとほほ笑まれるのをバックミラー越しに見た。
ミラー越しに俺を見つめる瞳は相変わらずお美しく、運転中にも関わらず少しの間見とれてしまった。
「へ、へぇー私もサリン様がどういうのを好まれるのか少し気になるなぁ」
わかる、わかるぞドルティ。
こんなにも素晴らしいお方はいったいどのような物に目を付けられるのか…やはり気になるよな。
素直じゃ無い奴め、自分からついていって良いか尋ねれば良いものを…まぁいい手を貸してやろう。
「姫様、ドルティも共に行動してよろしいでしょうか?」
「ええ、良くってよ」
「あ、ありがとうございます」
後部座席…姫様の隣に座るドルティの顔をバックミラー越しに見ると若干うれしそうな表情をしている事が分かる。
姫様は相変わらずニッと可愛らしく微笑まれていた。