140.墜落ぅ!?いやいやいや!
1周年でございます。
大変ありがとうございます。
続けること自体は余裕ですのでこの調子でどしどし投稿したいと思っております。
今後ともよろしくお願いします。
「姫様…」
特別だと、仰った。
他の誰でもない、俺に。
「っ……ありがとうございます」
有難い。
紛れもなく本心からそう思う。
やはり姫様は素晴らしいお方だ。
その一言で、その言葉で。
少なくとも俺は救われたのだろう。
…普段誰かに助けられることの無い俺としては、この感情が救われた時の物かは分からない。
だが…こんなにもうれしく思うのは普段では中々無い事だ。
きっとこれが救われるという事なのだろう。
今一度バックミラー越しに姫様の様子を伺うと姫様は既に視線を外しておられた。
きっと姫様にとってはこの行為が特別では無いのだろう。
行く末が見えなくなった者に道を示す事、これは簡単なことでは無い。
ならば俺はいつまでも腐っている訳には行かないだろう。
姫様の期待にお応えする為にも前に進まなければな。
「…次の目的地はエルドルインです」
「エルドルインっていえば飛空艇で有名だな」
やはりここら辺に住んでいるだけあってボス子は知っていたようだ。
そう、次の目的地エルドルインは大型飛空艇を本格運営している街だ。
エルドルイン発の大型飛空艇は人間は勿論、車両すらも空輸できるのだ。
大戦時には人数が多すぎて運用できなかったが、今回は別だ。
これを用いれば大幅な時間短縮になるだろう。
「えぇ!?飛空艇乗るのぉ~!?!?」
「乗ります」
「ままままっままじかぁ~…」
助手席のスタンの様子がおかしい。
なにやら青ざめているのだ、まぁ普段から顔色はあまりよくないのだが…
もしかして高い所が苦手なのだろうか?
「…まぁもし墜落したとしても飛翔魔術を行使すれば良いでは無いですか」
「墜落ぅ!?いやいやいや!そんなこと言っても落ちる事には変わらないじゃんかぁ~!!!?」
…?
どうせ飛翔魔術で衝撃は無くせるのだし何の問題も無いと思うのだが…
「ああぁ~!騎士君今、なに言ってんだコイツみたいな顔したでしょ!!兜越しでもわかるんだからねぇぇ!?!?」
「うわうっさ」
ボス子よ、それには同感だが声に出すのはどうかと思うぞ。
「では落ちる寸前に仮死状態になればよろしいですわ。着地だけは他人に任せて…あとは気が付いたらもう地上ですわ」
「…!」
その手があったか!
それならばスタンも納得するだろう。
「えぇ?なんで騎士君その手があったか!みたいな顔してるのぉ…?」
「実際良い手段だと思いますよ。高所が苦手な人間のほとんどは恐怖によるものだとされています。つまり…意識が無ければ恐怖も感じる事はありません」
「や"ぁ~だぁ~!騎士君の姫様全肯定スタンスや"ぁ~だぁ~!!」
むぅ…困ったな、ある程度高所に対する恐怖については理解はあるつもりだが…一応非常時なので自分で何とか折り合いをつけてほしいものだ。
高さを感じないように木箱にでも閉じ込めて行くか…?
「んなもん我慢しろよ」
「やや…そんなこと言われてもねぇ~?」
「じゃあここに残ればいいじゃねえか」
「え…そんな、ひどいぃ…!」
ボス子は説得が得意なのだろうか?いや正論責めなのか…?
なんにしろスタンが若干涙ぐんでいるのはかわいそうに思えなくも無い事も無い気がしないでもない気がする。
「ひどくねぇよ、お前サリン様と自分どっちが大切なんだ?あぁん?」
「そ、それはぁ~………う"う"…ざりんざまでず…」
「じゃあ我慢しろ」
「ばい"…ぐずっでずみまぜんでじだ…」
「らしいですよ、サリン様」
「あら、それは良かったですわ」
…………既視感が…ああ、ナレの時の俺と似ている。
案外こいつは信用できるのかもしれないな。
……こいつ…こい………
……
「そういえばお前なんていう名前なんだ?」
「はぁ!?!?いやまてよ……わりぃ名乗ってなかったな。いやまぁ今更かよとは思ったが」
ずっとボス子とか適当な名称で呼んでいたからな、知っておいて損は無いだろう。
…いや、寧ろ知っておかないと失礼だな。
「それについては今更になってしまって申し訳ないと思う」
「はぁ…まぁいいぜ、私はドルティ・グロウリアだ。好きに呼んでくれ」
グロウリア…?聞いた事があるぞ、俺が騎士になって間もないころに少しだけ…だが。
没落したんだったか?まぁ詳しくは覚えていないのだが。
まぁ没落貴族だろうが、グレーギルドのボスだろうが今は関係ないな。
ともに姫様を守る仲間として歓迎しよう。
「わかった。よろしく頼む、ボス子」
「いやいやいや、どうしてそうなったんだよ!?『ボ』も『ス』も『子』も一文字もあってねぇーぞ!!」
「はは、冗談だ。よろしくドルティ」
なかなかいじりがいのある奴だ。
「いきなり下の名前で呼ぶか普通…」
「やめた方がいいか?」
「けっ、好きにしやがれ」