139.特別
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「というか、騎士君とジオネさんって幼馴染だったんだねぇ~」
…そうか、ジオネは魔術研究所に所属してるのだから偶々知っている事も有るのか。
「ジオネとはお知り合いで?」
実は未だにジオネとの交友関係は続いている。
仕事の件でストレスが溜まった時や何か良い事があった時に呼び出され、よく食事を共にしたりすることがあるのだ。
実は大戦に行く前日にもジオネと酒を飲み交わした。
ジオネは酒が入ってもあまり普段と変わらず一緒に居て不快に思ったことも一度も無いのだ。
まぁ若干物足りないような気もするが、俺とジオネはそれでいい。
「いやぁそんなまさか!有名だから知ってただけだよぉ~!」
…?有名?俺の知らないところで何かやらかしたのだろうか?…いや、そういう話は聞かない方が良いのだろう、自分のやらかした話を知人に知られて何とも思わない人間は少ないはずだ。
いくら幼馴染だからといって礼儀を欠いてはならない。
「なるほど」
「という事はもしかするとジオネさんはその時の恩を返すためにより強力な鎧の作成を第一線で頑張っているのかもねぇ~」
……初耳なのだが。
ジオネが?鎧を??
……確かに魔学研究所で働いているのは知っているが何をしているのか、というのはまったくしらなかった。
「そ、そうなのですね。知りませんでした」
「え…なんで…」
助手席に座るスタンは信じられないといった表情でこちらを見ている。
やめてくれ…そんな目で見ないでくれ……
「騎士君の重装鎧は大戦用に実装された最新式なんでしょぉ?」
確かに俺の重装鎧は大戦前に実装された最新式である。
今装着している物のひとつ前に装着していた旧重装鎧に比べて遥かに性能が良くなっており、当時は大変ありがたく思ったことを今でも覚えている。
「…はい」
「やぁっぱりぃ!じゃあそれジオネさんが設計した重装鎧だよぉー!」
「じゃあお前…そのジオネって奴に感謝を伝えてないのか…?」
ボス子がここぞとばかりに追撃を入れてくる。
「伝えてないな…」
「うっわ。ひでぇヤツだな」
許せ…ジオネ…
次会ったときは必ず感謝を伝えようと心に誓った。
「ちょっとちょっとぉ…という事はまさかソニ様の事も知らないとか無いよねぇ~?」
…ソニの事は流石に知っている。
知らないわけがない。
「……知っているさ。知らないはずが無い」
「ま、まぁそれぐらいは知ってるか。グレーギルドの私ですら知ってるんだからな」
あの日、俺がジオネと街に戻った時。
その時にはもうソニは居なかった。
もうソニは俺たちの手の届かないところへ行ってしまった。
「それにしても騎士君の幼馴染さんはみんなすごいねぇ。ジオネさんは最新鎧の開発者に、そしてソニ様は」
「第一騎士団の…騎士団長」
ソニはその実力の高さからか、俺の知らぬ間に人類最強の騎士になっていた。
その戦闘能力は先代を大きく超えており、いまや魔族に脅かされている民達の希望である。
もう、昔のように三人で会う事も無いのだろう。
そもそも俺の事なんて覚えていないのかもしれないが。
「っとぉ、そうそう!それが言いたかったのぉ。ホントすごいよね騎士君の周りの人たちぃ」
「…そうですね」
騎士君の周りの人達、か。
そうだな、確かに本当に凄い。
俺とは違って才能のあるあいつら…は。
ソニの活躍を聞いて凄いと思う反面、ずっと悔しさに苛まれてきた。
だが、ソニが活躍する事で国民が平和に過ごせるのなら…それが一番良いのだと自分に言い聞かせてきた。
ソニは特別だ、才能があるのだ。
ソニにしか出来ない事があると……ソニに追いつけない俺はそうやって偉そうに傍から、傍観していた。
それでも俺は、俺だけが置いて行かれたわけでは無いと…ジオネと二人で酒を呑んでいるうちにそう納得できていた。
特別なのはほんの一握りの人間であり…一握りの人間にしか出来ないからこそ、その人間は特別なのだと。
俺とは住む世界が違うのだと。
だが実際はどうだ?本当は俺だけだった。
置いて行かれていたのは。
俺だけだったんだ。
「…」
ジオネは俺がこの事実に気が付いてしまわないように隠していたのだろうか?実は自分も特別だということを。
………。
惨めだな…俺は。
「…?どうかしたぁ?」
ソニやジオネに…特別な存在……天才に追いつくためにはどうすればいい?
…その答えはとっくの昔に出した筈だ。
例えどれだけ凡人が努力したところで天才には敵わない。
なんて恐ろしい存在なのだろう。
だが、凡人である以上努力するしかないのだ。
天才に追いつくために…手段を選んでいる余裕なんて、無い。
目的の為ならば、どんな非道な行為だってやるしかない。
そこまでしても彼らに追いつける確証なんて無い。
ああ…最悪だな。
天才って奴は…本当に嫌いだ。
「…いいえ、何でもありません」
ふと姫様の反応が気になりバックミラー越しに姫様の様子を伺わせていただくと、丁度姫様も俺の顔を鏡越しに見ようとしていらしゃったのか、鏡と兜越しに目が合う。
「…カロン、貴方は特別ですわ」
と、姫様はなんの脈絡も無くそう俺に仰った。
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「そうですね」
バックミラー越しに見えるカロンはどこか思うところがあるように見えた。
これが、いつもカロンの瞳の奥底に溜まっている澱みの原因だったのだろう。
ああ、やっぱりカロンは私と同じだった。
大戦跡地で初めて出会ったあの日からずっとどこか私に近い何かを感じていた。
特別な存在に対する羨望、恐怖、憎しみ、諦め。
そしてきっとカロンも私と同じ結論にたどり着いたのだろう。
天才に追いつくためには、手段を選んでなんていられない。
「………」
近しい人間が何か特別な才能を持っているとどうしても比べてしまう。
どうして自分は特別になれなかったのかを考えてしまう。
そして考えれば考えるほど孤独になっていく。
もし、誰か一人でも私を特別だと思ってくれたら。
どれだけ私は救われるのだろう?
多分その人の為ならば何だって出来てしまうのだろう。
きっとカロンも同じなんだと思う。
だから…誰も信じることが出来なかった私を唯一信用させてくれた彼に伝えなければならない。
少なくとも私にとって貴方は…
「カロン、貴方は特別ですわ」