135. 今日は厄日なのかぁ!?
「急げッ!」
俺は身体強化魔術を行使し、ジオネを誘拐した馬車を追う。
既に馬車は走り出しており、そのままでは追いつかないと判断した為だ。
「今日は厄日なのかぁ!?」
今日に限って厄介な事ばかり起こる、本当に!かと言ってただただ厄日で終わらせるつもりもないんだけどな!
「おい!なんだアイツ!追いかけてくるぞ!」
馬車の方からガラガラ声が聞こえてくる、どうやら馬車に乗っている人間の声が聞こえる程度には近づいているようだ。
「オラ!来るんじゃねぇ!!」
馬車の積荷から槍を持ったハゲ男が顔を出した。
「ッ!」
ギリギリの所で槍を躱す。
危なかった、俺を近づけさせないつもりか。
「来るなと言われて、来ないと思うか?」
ハゲ男の槍による刺突を交わして馬車に近づいていく。
それにしても本当に厄介だなこの長い槍…いや、騎兵用のランスなのか?実物を見たことが無いから分からん。
「クソが!さっさと失せやがれ!」
ハゲ男が魔術を行使したのがわかる。
なんの魔術だ?炎か?電気か?
…空気を裂く音がする!
「風、いや斬撃か!」
魔術による斬撃なら剣で受け流せる。
素早く抜剣し、見えない刃を剣で受け流す。
「なっ…!これならどうだァ!」
更に追加で魔術を行使しているのがわかる、次はなんだ?どんな魔術を使うんだ?
「…またそれか!」
複数の見えない斬撃を剣で受け流す。
実際にやった事は無かったが案外上手くいくもんだな。
「あああ!クソが!ムカつく野郎だ!」
ハゲ男は焦りを隠しもせずに悪態をつく。
もし追いかけているのが俺でなくソニだったらこのハゲは「ムカつく女郎だ!」と言っていたのだろうか?はは、ソニは顔が良いから案外本気で間違うのかもしれないな。
「はは」
「てめぇ…笑いやがったな!ジョン!人を轢いても構わねぇ!速度を上げろ!」
「今やってる!!」
む、ハゲ男がジョンと言うらしい男に声をかけると馬車の速度が上がり、俺と同じくらいのスピードになる。
クソ…後少しで追いつけたのに。
まぁ、諦めはしないが。
「オラオラァ!さっきまでの調子はどこ行ったんだァ??」
引き続きハゲ男の妨害は続いており、俺は引き離されないようにするので背一杯だ。
なんとかしたいところだが…馬車への直接攻撃はジオネを危険に晒してしまう。
「…!あれは」
前方に町の門が見えた。
しかも都合よく門は閉ざされており馬車は通れない。
…いやいやいや!不味いだろ!このまま門に突っ込めばジオネが危ない!
「おい!止まれ!」
「アァァン?止まるわけねぇだろ!!」
こいつ…!前が見えて無いのか!
「おいジョン!馬車を止めるんだ!」
「へ?あ、俺に言ってんのか!?」
恐らくこの馬車の御者はジョンという男なのだろう、ならばジョンに言うしかない!
「この先が見えないのか!あんたらごと死ぬぞ!」
「前って…ああ、アレか」
前方に立ち塞がる門を視認した筈のジョンは馬車を減速させようとせずにそのまま突き進んでいる。
「アレはな、こうするんだよ」
ジョンは大量の魔力を纏わせながら立ち上がる。
「まさか!?」
その直後、凄まじい爆音が鳴り響き、正門が砕け散った。
「なんと言うことを…」
破片は外側に飛散したようでこちらに被害は無いが、門がなくなればモンスターが入ってくるかもしれない。
これから訪れるかも知れない悲劇に身を震わす暇もなく俺は馬車を追いかけて走る。
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あれから随分と走り続け、俺は未だに槍を避けながら馬車を追いかけていた。
「はぁ…はぁ…おまえ…!どうな…ってんだよ!」
槍を突き続けているハゲにも疲れが見えてきた。
次第に槍捌きは悪くなり今となっては簡単に避けれるようになっていた。
「クソっ…がぁ!」
突き出された槍を掴む。
「なっ!お前!」
そしてそのまま槍を横に払うと、その槍はハゲ男の脇腹に抱えてあった為ハゲ男が馬車から転落した。
「正当防衛だよな、許してくれ!」
地面に転がるハゲ男に直剣を突き刺す。
運悪く…いや運良く直剣は心臓付近に突き刺さった、恐らく致命傷だろう。
「がえっ」
そのまま馬車を追いかけている為ハゲ男はだんだん遠くなっていく。
ふと振り返ってみたが、悶えているものの立ち上がる様子は無い。
「おい!?ウソだろダン!?」
「ジョン!今止まればあのハゲ…ダンはまだ助かるぞ!」
俺はジョンに嘘をつく。
嘘をつくのは良くないという教養はあるが、幼馴染が危険な今はそれどころではない。
もっと言えば人だって殺してしまった、このまま諦めてしまえばただの人殺しで終わってしまう。
どうせなら…ジオネだけでも助けたい。
「クソ!クソおおおお!!今更止まれるかよお!!!」
「おいジョン!まて!」
ハゲが降りた為か更に馬車は加速している。
だんだん距離は離されていく、このままでは不味いだろう事は分かる。
「くっ…流石に止まらないか」
とにかく走って追いかける。
今の俺にできる事はそれだけだ、たとえソニに斬られた傷が痛もうとも止まるわけにはいかないのだから。