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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第5章:死の縁
128/226

128.マジで…ヤバいッ!



 きれいに整備された道を直進して行くと宿屋がいくつか見えてきた。


 出来れば魔動車を止めれるような場所のある宿屋がいいが…む、あそこはどうだろう。



「右側に見える大きな看板の宿屋にしましょう。魔動車を止めることが出来そうな空き地があります」


「えぇと…ここかなぁ~?」



 スタンは魔動車を俺が指定した空き地で停車した。


 空き地を見回すが特に建物や看板は見当たらないので問題ないだろう。



「泊まれるか確認してきますので少々お待ちを」


「わたくしも付いていきますわ」



 俺が降車したのち姫様も降車なされる。


 騎士としては姫様にこのような雑用を手伝って頂くのは良くないのだが…俺個人としては魔動車にいるよりも傍にいてただいた方が守りやすいので助かる。



「承知いたしました」



 聡明な姫様の事だ、きっと何かしらの思惑があっての事だろう。


 無粋な事は言わず姫様の判断に従うのが正解だ。



「それじゃあ気を付けてねぇ~」



 スタンの言葉に頷いて宿屋へ姫様と二人で向かう。


 歩く道に雑草は生えていない、よく整備されている。



「…」



 宿屋の前に着いて、ひとまず安心する。


 きれいな建物だったからだ。


 あまりボロボロだと姫様に泊まっていただくわけには行かないからな。


 …それに俺の重さで床が抜けると不味いからな。



「どうかなさいましたの?」


「いえ、何でもありません。行きましょう」



 宿屋の扉を開ける。


 開いたドアから不穏な音がすることも無く、宿屋に入る。


 …うむ、可もなく不可もない。


 この高い宿屋にありがちで不可解なオブジェもそこまで主張してこない。


 ……いやちょっと邪魔くさいな…何故入口付近にこんなものを置いたんだ…!



「……フゥ…」



 あと少しで肩がオブジェに当たるところだった。



「邪魔ですわね」



 …俺の心の声を代弁していただき大変うれしく思います。


 ちなみに姫様や一般人が通る分には全く邪魔にはならないのだが…きっと姫様は俺が狭そうにしているのを見てそう仰って下さったのだろう。



「いらっしゃいませ、お二人でよろしかったですか?」



 顔の良い娘が訪ねてくる。


 看板娘といったところ…なのだろうか。



「いや、外にもう一人いる。明日には発つので一泊で頼む」



「かしこまりました。三人で一泊でしたら2万リンになります」



 安い…!わけではないが前日泊まった高級宿に比べれば安い!十分の一ではないか。


 高級宿1泊分で10日間も泊まれてしまう、素晴らしい。


 一人当たり…6666.66…リンぐらいか?…いやなんだその値段設定は。



「本当は三人で2万1千リンなのですが、サービスです!」


「あぁ、なるほど。ありがとうございます」



 それは素直に助かるのだが少々不吉じゃないか…?そうでもないか?


 …いや、気にしないでおこう。


 支払いを済ませて、スタンを呼ぶために一度魔動車に戻ろう。



「ではスタンを呼んで参りますので少々お待ちください」


「付いていきますわ」



 ……まぁ姫様がそうされたいのであればそれで良いのだが。



「承知いたしました」



//////////////////////////////////////////////



 戻ると何やら魔動車を数人が囲んでいた。


 囲んでいる者たちは皆黒いマントを着用しており何やら怪しい雰囲気を纏っている。



「すいませぇんすぐどきますんでぇ~…」


「困るなぁこんなところに勝手に車止めちゃってさー」



 よくよく見ると数人のうちに青髪の人物も混じっている、スタンだろう。



「いやぁ~…でも看板とか何もなかったんでぇ~…」


「いやいや、じゃあ何。看板無かったら人の家でも勝手に入んの?」


「いやそれは」



 はぁ…面倒なことになったものだ。


 とりあえずスタンを助けよう。 



「なんの騒ぎだ」


「あぁ~!騎士君!遅いよぉ~」



 スタンはこちらを確認すると小走りでやってくる。



「ちょっと邪魔なオブジェが…いえ、なんでもありません」


「はぁん?騎士ぃ?んなもんこんなところにいるわけ…」



 黒ずくめの男と兜越しに目が合う。



「まじかよ…モノホンだ」


「それで何の用だ」



 男は苦虫を噛み潰したような表情になり、半歩程後ずさる。



「こ、ここに勝手に車を止めていた奴がいたもんでして…誰かの邪魔になるといけねぇって訳で…注意してたんですよ」


「嘘つけぇ~!さっきめっちゃ金払えとかいってたじゃんかぁ~!」


「…」



 …まぁ大体わかった。


 はぁ…しょうも無い事を…



「なにやってんだお前ら」



 また新しいのがやってきた。


 目の前の男たち同様黒いマントを装着している…声からして女。



「ボス!ちょっと厄介なことになってやして…」


「あら、凄い小物感ですわね」



 姫様がボソっと仰る。


 全く持ってその通りでございます。



「は?今なんつったお嬢ちゃん」



 ボスと呼ばれた女は姫様の胸倉に手を伸ばす。



「そのお方に触れるな」



 素早く女の手を掴む。


 流石に素性の知れない相手だ、今回は本当にこちらが悪い可能性もあるため怪我をさせないように掴んだ。



「なんだお前、お嬢ちゃんの騎士か」



「…」



 俺は何も言わない。


 実際のところ騎士ではあるが姫様の近衛騎士ではないからだ。


 …もっとも、こんな奴にわざわざ情報をくれてやる必要もない。



「ケッ…昔騎士には助けられたことがある。だから見逃してやる…今はな」



 女の殺気は消えていない、たくましいものだ。


 グレーギルドの人間なのだろうか?だとすれば集団である事も、こんな小悪党じみた行為をしても街から追い出されていない事も頷ける。



「…おい、聞こえなかったのか?見逃してやる、手ぇ離しな」



 まぁこうでもしないと生きることも難しい者がいることは分かっている。


 いつか…こんな事をしなくても皆生きていけるような世界は訪れるのだろうか。



「オイ!聞いてんのか!離せって言ってんだよ!」


「いやいや…お前のような不穏な者を騎士が野放しにするわけないだろう?」



 今はな…なんて言われれば警戒して然るべきだろう。


 こちらは姫様の安全が掛かっているんだぞ?



「クソが!ボスを放せ!」



 黒ずくめの男が懐の短剣を取り出さずに襲い掛かってくる。


 なるほど、ここで刃物を取り出さないとは中々賢いじゃないか。


 明確に殺意があれば正当防衛で殺していたが…まぁグレーギルドに所属しているだけはあるな。


 法律ギリギリなことをしてきて、さらにそういう事をしっかり調べている証拠だ。



「賢いじゃないか、だが残念だったな」



 俺はあいている手で襲い掛かって来た男の腹部を殴り飛ばす。



「ぐぇ!?!?…ごふっ…はぁ…これで俺たちも正当な防衛をする権利があるぜ…!」


「ああ、確かにその通りだな。先に手を出したのはこちらだ……だがお前たちは運が無い」



 本当にこいつらは運が悪いな。


 前に騎士に助けられたとか言っていたが似たような状況だったんじゃないだろうか。



「あぁん?そりゃ確かに運が無かったぜ!お前みたいなめんどくさい騎士に出くわしてよぉ!」


「なんとでもいえ、だが私も仕事なのでな…非常事態特権を行使する」


「…は?なんでお前に行使権があるんだよ」



 非常事態特権は非常に特殊な法律だ。


 一般人ならまず関わることは無いだろう。



「非常事態特権の内に…王国指定重要人物護衛中の暫定防衛権利というものがある」


「ちょ…ちょっとまて、じゃあそこの二人のどっちかは…」



 まぁ要約すると、王国指定の重要人物に危害を加える可能性のある存在を真偽問わず排除して良い権利なのだが…俺も本当に行使する事になるとは大戦前までは思っていなかった。



「教えてやってもいいが死んでもらう事になる」


「あ、じゃあ言わなくていいです…」



//////////////////////////////////



 その後黒ずくめの男たちを拘束した。


 今は街の拘留所に連れていくところだ。


 数人が暴れても無理やり連れていけるように強行モードを発動している。


 これを発動すると目的地まで壁があろうが、装着者が死のうが鎧の力だけで直進することが出来る。



「オイ!!いつまで掴んでんだよ!今更抵抗しねぇよ、離せ!」



 こいつは縄抜けしそうなので相変わらず掴んだままだ…実は反応が面白いから…とは言えないが。


 姫様とスタンは宿屋に入られたのでひとまず俺一人で来ている訳だ。



「おい…!本当にそろそろ離せ…!ヤバイんだよ…」



 もじもじと内股をこすり合わせながら居心地が悪そうにしている。


 何してんだこいつ。



「…くぅ…そ…オイ!マジで…ヤバいッ!」


「はぁ…どうしたんだ」



 息が荒い。


 体調が悪いのか?…いや、小悪党だぞこいつは。


 体調が悪い振りして逃げるつもりかもしれん。



「だ・か・ら!ヤバいんだよ!!とにかく一回離してくれ!絶対に戻ってくるから!」


「はぁ…逃げるつもりだろう?拘留と言っても数日程度で解放されるのだからそれくらい我慢すればいいだろう」



 こいつらも生きるためにしているのだし最低でも俺たちが街に居る間だけ拘留されていれば問題ないのだから、そうなるように進言してやろうと思ったのだが…



「ああぁぁ~!!ほんっッとにヤバイ!!漏れるって!!トイレに行きたいんだよッ!察してくれよおお!!」



 あぁ~!なるほど、先ほどから顔を赤らめて恥ずかしそうにしていたのにも頷ける。



「軽はずみで行動したお前が悪い。そもそも魔術で処理すれば良いだろう」


「ア・ホ・か!!お前が魔術封印したんだろうが!!!」



 そうだった。


 …いやでもして当たり前だろう?そうでもしないと何をされるかわからないではないか。



「あぁ~そうだったな。すまんすまん、じゃあもう……漏らすしかないな」


「ざっけんな!!そんなこと出来るか!!私はこれでも女なんだぞ!せめて物陰に行かせてくれ…」



 はぁ…面倒臭いな…グレーギルドの連中全員を連行してる俺の身にもなってほしいものだ。


 …というか現在強行モードを発動しているので目的地まで止まることはできない。



「それは無理だ。強行モード発動中は目的地まで何があろうと到達するようになっている」



「……………は?……なんでそんな……」



 なんでって…それはもちろんお前達が暴れるかもしれないからじゃないか。



「ちなみに壁とか街路樹とかに引っかかるなよ、縄か肉体のどっちかが引きちぎれても私は止まらん…ちなみに縄には私の魔力が練りこまれている。騎士より実力があると思うのならチャレンジする事だな、推奨はしないが」



 ボスと呼ばれていた女の顔が青ざめていく、可哀想だ。



「あ、ああ…や、やだ…た、助け」


「出来たらとっくにやっている」

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