126.正確には何もない地点から突如
弱い風が戦場跡地を過ぎ去って行く。
そこら中に広がる敵味方の区別がつかない死体群を見ていると心が痛むのと同時に清々しい気持ちにもさせてくれる。
「…」
リコが先ほどから私をずっと見ている。
もう魔力で生成した服も着ているし可笑しなところはないと思うのだが。
「どうした、リコ」
「…いえ、笑っていらっしゃるようでしたので」
…笑っている?私がこの死体群を見て?
それは……仕方が無いだろう?
だってこんなにも沢山の魔族の死体を見て平常心でいられるはずが無い。
「…仕方無いだろう?魔族共の死体を見るとどうしても楽しくなってしまうんだよ」
「そう…ですか」
なんだ?ノリが悪いじゃないか、リコ。
私だけなのか?この無様な魔族共の死体を見れて愉快なのは。
「これからどうなさいますか」
これからどうするか。
せっかく生き返ったこの命をどう使うか。
「そんなこと決まっている、魔族を殺す。拷問して殺す。残虐に殺す」
私の願いはそれだけだ。
もう、奴らを殺したくて殺したくてウズウズしている。
奴らの激しい衝動を思い出すと殺したくなる。
奴らの熱い吐息を思い出すと殺したくなる。
奴らの下劣な視線を思い出すと殺したくなる。
「はぁ…はぁ…早く殺したい…復讐がしたい!!」
「団長…」
そうだ、こんなところで死体を見つめているだけでは更なる快楽は得られない。
いこう、殺しに。
奴らを殺しに。
「行くぞ、リコ」
「承知いたしました」
私は歩く。
奴らを殺すため。
もはやこの渇きに耐えることはできない。
今すぐにでも奴らを殺したいのだ。
奴らの香りは先ほどから感じている。
この先にいるのが分かる。
私は歩く。
殺したい衝動に身を任せて。
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「姫様?」
俺たちは車の中に戻っていた。
スタンにまだ運転するから寝てて、と説得され助手席に座ると後部座席にいらっしゃる姫様がなにやら心ここにあらずといった様子であった。
「…そういえば大戦跡地の死体に浄化の魔術を掛けていませんでしたわね」
「その通りです。今も我らの同胞はあの地に焼かれもせずに眠っています」
スタンが魔動車に魔力を注ぎ込んだのか、魔動車は動き始める。
「私が置いてきた探知魔術に反応がありましたの」
大戦跡地に?…死体あさりだろうか。
なんとも不快だが、そうでもしなければ生きる事も出来ない者は存在する。
これも仕方のない事なのかもしれないな…
「凄まじく莫大な魔力…もしわたくしの探知魔術に狂いが無ければ広範囲人型消却爆弾の臨界反応に近い魔力ですわ」
思い出してゾッとする。
以前姫様にご教授頂いた広範囲人型消却爆弾…あれは本当に危険な物だった。
あれ程までに凝縮された魔力の爆発…今の俺ならばギリギリ生き残れるかもしれないが、他人となれば話は別だ。
きっとあれは爆発の衝撃だけで人間をズタズタにすることが出来るのだろう。
もしあんなものが大戦跡地でまき散らされれば…魔力にあてられた死体のいくつかは確実にモンスター化するだろう。
…まぁ爆発の威力で死体が残るかは疑問だが。
「魔力が自然と一か所に集まる事があるのは知っていますが、本当にあれだけの魔力が都合よく一か所に…それこそ広範囲人型消却爆弾程の魔力に達する事が本当にあり得るのでしょうか?」
姫様はニッと頬笑まれる。
「基本的にはあり得ませんわ。でもねカロン、わたくしは大戦跡地が跡形もなく消し飛ぶ程度でしたら一々気にしていませんわ」
サラリとそんなことを仰られたがそういえば姫様は死体はどれも同じ肉塊だとも仰っていた事を思い出して納得する。
「では…誰かが大戦跡地で死体から魔力を吸収している…とか、でしょうか?」
「ほぼ正解ですわ。正確には何もない地点から突如、膨大な魔力を伴って生命反応が発生致しましたの」
…それは…誰かが生き返った…という事でいいのだろうか?
いや、しかし…もう大戦から数日経っている。
そんな状態で生き返ることは本当に可能なのだろうか?
いや、蘇生は簡単な事ではない。
それは無理だろう。
「誰かが生き返った…という訳ではなさそうですね…」
「ええ、その通りですわ。だから…恐らく、生まれましたの」