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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第5章:死の縁
125/226

125.意思というのは本当に不思議で…

ブックマークや評価ありがとうございます。

皆さまのおかげでこつこつと進められております。



 気味の悪い音が聞こえる。


 姫様はスタンが心臓を抉りだし始めた時点で既に魔動車に戻ってしまわれた。


 俺も魔動車に戻ろうと思ったが…目の前でこんなことを始められては戻るに戻れない。



「…それは何に使うんですか?」



 スタンは魔族の心臓を摘出して袋に詰めながら答える。



「う~ん…新たな生命?」



 新たな生命…化け物でも作り出すつもりなのだろうか?


「…実験は止めませんが、姫様に危険が無いようにして下さいね」



 いちおう一言言っておく。


 もし姫様に危害を加えるような物を作ったら問答無用で殺すだけなのだが。



「安心してよぉ、騎士君。それだけは絶対に無いからさぁ~」



 あまりにも真剣な表情でそういうので少し言葉を失う。


 …初めてまじめな姿を見たかもしれない。



「…」



 そうこうしている内にスタンは心臓以外の内蔵も摘出してしまった。



「これでよしだねぇ~、死体は燃やしていいかなぁ?」



 姫様は何も仰らなかったので炎の魔術を行使して死体を焼く。


 あまり気にしていなかったが思ったより威力が高かった為、近くの木に燃え移らないか心配になる。



「ぅおっ…騎士君の魔術初めて見たけど凄いねぇ」



 スタンは熱いのか胸元をぱたぱたとして涼みながら話す。



「騎士は皆これくらいだと思いますが」



 スタンは少し考えるような素振りを見せるとすぐに口を開いた。



「…いや、昔別の騎士と魔術勝負したときに身をもって体験したけどここまでの威力は無かったよぉ?」



 騎士と勝負するなんて一体何を考えているんだこの人は。


 それより気になるのは俺の魔術の威力が高まっているという点だろう。


 確かに言われてみれば大戦前より魔術の威力は上がっているのかもしれない。


 だとしたら何故だ?…やはり魔族の心臓を食ったからなのだろうか。


 実際初めて魔族の心臓を食った時、全身にまとわりつくように気持ちの悪い魔力があふれたのを覚えている。


 …いや、…うむ…そうだな。


 答えは出ているじゃないか、魔族の心臓だ。



「…もしかすると私が魔族の心臓を食った事が関係しているのかもしれません」



 スタンの目が大きく開かれる。


 驚愕しているのが丸わかりだ。



「…それで…そんな事に?」



 スタンが魔族の心臓を入れていた袋を取り出して凝視している。


 そしてスタンは何を思ったのか魔族の心臓を袋から取り出して口元に近づけた。



「待ってください」



 とっさに止める。



「……え?なにかヤバイ?」



 …本当に食うつもりだったのか。


 止めて正解だった。


 スタンがあれに耐えられるとは思えない。



「確かに私は魔族の心臓を食らい、このような身体になりましたが…」



 スタンは何も言わず、いまにも心臓にかぶりつきそうな状態で固まっている。


 俺の話をちゃんと聞くつもりなのだろう。




「…心臓を食った瞬間、想像を絶する苦痛に襲われますよ」



 俺は事細かく説明した。


 全身が拒絶する感覚。


 身体の内側から引き裂けるような痛み。


 食われた魔族の意識が自分の意識を上書きしようとする感覚。


 そしてそれらに耐えてもずっと精神の奥深くに残り続ける自分ではない誰かの感情。


 俺と同じように追い詰められて魔族の心臓を食い…死んだ仲間の事。


 …それらすべてに耐える為に肥大化し過ぎた自分自身の復讐したいという強い感情。



「私も一歩間違えていれば…ここにはいないでしょう」



 スタンはそっと心臓を袋に戻す。



「うん…ちょっと軽率だったねぇ」



 良かった、スタンは理解してくれたらしい。


 ただ食べるだけで強くなれるなんて理想の食べ物は存在しないのだ。



「これはやっぱり生命創造に使う事にするよぉ~」



 …スタンの作り出したものが姫様の利になれば良いのだが…


 そもそも考えたことも無かったが魔族の心臓で生き物を作れるなんて本当なのだろうか?



「魔族の心臓を使わないと創造出来ないのですか?」



「いや、ワタシの考えてる工程上は別に魔族の心臓じゃなくてもいいんだよねぇ~。とにかく魔力がたくさん宿るような代物なら生ものじゃなくても大丈夫ぅ~……たぶん」



 …どういったものを作るかは知らないが…知る人が知ったら憤怒しそうだ。



「…意思のある生ものには魔力があった方がいいと思うんだよねぇ~。魔力は昔不可能だと思われていたことを可能にする程の力があるしぃ~…」



 スタンは心臓の入った袋を見つめながら一人話す。



「ワタシはワタシより賢い子を作りたいんだよねぇ…そしてさぁ…その子がワタシの想像もつかない凄いものを作り出したらぁ…面白いと思わない?」



 スタンは頬を朱に染めて段々と早口になる。



「未だ理解しきれていないでさえ魔力があれば解明できるかもしれない…でもやっぱりその魔力を使って何かをするには意思が必要なんだよねぇ…」



「だから…ワタシは魔力なんてものより、意思の方が凄いと思うんだぁ…無限の可能性を扱えるのは意思がある者だけ…はぁ~……意思というのは本当に不思議で…面白いんだ」




 いままで、俺は理解していなかっただけなのだ。


 自らの意思の残るモンスターを作りだせてしまうスタンという研究者が…


 どれほどまでに狂っているのかを。




/////////////////////////////////////////////////




 憎い。


 憎い。



 …………



 復讐がしたい。



 復讐がしたい。



 ”奴ら”を皆殺しにしたい。


 この手で…潰して、引き裂いて。


 

「………」




 そうやって、ひたすらに。


 命が無くなった瞬間からずっと。


 考えていた。


 もし。



 もしも。



 もう一度奪われた両足で地を踏めるのなら。


 次は”奴ら”を踏みつぶしたい。



「…………」



 もう一度失った両手で空気に触れる事が出来るのなら。



 次は”奴ら”を握りつぶしたい、引き裂きたい。



「………………………」



 私は。



 立っていた、地面に。


 

「ああ……」



 弱い風が吹く。



 風が私の両手に触れて、過ぎ去っていく。



「復讐だ…」



 ある。


 私の足が。


 私の腕が。



「フフフ…」



 これがあれば。


 出来る。


 踏みつぶす事も、引き裂くことも…!!



「さぁ…復讐だ」



 私はまるで墓標のように地面に深く突き刺さっている大きな直剣を引き抜く。


 きっと重装騎士用の直剣だが…今の私にはとても軽く感じる。



「魔族も私を裏切った者も…皆殺しにしてやる」



 もはや信じられる者なんて……いや、いるじゃないか。


 そうだ。


 絶望的な状況でも私を助けようとしてくれた者がいた。


 きっと私のせいで彼は死んだのだろう。



「…あと…一度だけ私を助けてくれ…」



 私は灰に魔力をかき集める。


 確信がある。


 今の私なら…



「…」



 濃い気配が灰に発生する。


 そして、現れた。



「………団長」



 異様な気配を纏う彼はやはり。


 私を助けに来てくれた。



「リコ…お前だけは信じていたよ。さぁ…共に復讐しよう…皆殺しにしよう」


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