124.復讐だ
「死んだか」
真っ二つにした魔族が暫くビクビクと動いていたので動かなくなるまで直剣で突き刺していたが、30ヶ所ほど穴をあけたところで完全に動かなくなった。
「鞘は返してもらうぞ」
魔族が元いた場所に置いてある鞘を回収してリコのもとへ戻る。
恐らく先程いた場所で戦っているはずだ。
「…」
…体が痛む。
最期の一撃は防いだものの、蹴りをもろに食らってしまった。
あばら骨が折れているかもしれない。
魔力を適度に摂取しながらゆっくり休めば骨折は簡単に治るが現状そんなことをしている暇はないのだ。
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リコのもとへ戻ると、リコが後ずさる化け物にクレイモアを振り下ろそうとしているところだった。
「もう、別れはいいのか?」
俺はとっさに声を掛けた。
仮にもこの禍々しい化け物はヘルエス様の体内から生まれたのだ。
リコがヘルエス様を大切に思っていたことは分かる、だからもし辛ければ…俺がとどめを刺そうと思った為だ。
「此奴は団長では無い」
そういうとリコはクレイモアを化け物の歪んだ頭部に振り下ろした。
その一撃で化け物は糸の切れた操り人形のように地面に伏した。
「…」
リコは動かなくなった化け物を炎の魔術で焼く。
化け物が実は生きていた、という事も無く化け物は炎によって炭化していった。
「救えなかった」
リコはバラバラになったヘルエス様を集めながらそうつぶやく。
「…ああ」
慰めるべき…なのかもしれないが、良い言葉が思い浮かばない。
…俺たちは最善を尽くした。
その上で間に合わなかったのなら…もうどうする事も出来ない。
「……あの時無理にでも引き留めておけば…良かったのかもしれん」
リコは山積みになったヘルエス様の身体の横に座りこんで話す。
「……」
切り裂かれた騎兵型鎧の腹部からおびただしい量を血を流しているリコを見る。
前の見にくそうな兜から覗く双眸は虚ろで、もう長くはない事をこちらに悟らせる。
「……頼みがある」
「どうすればいい」
リコは携えていたクレイモアを俺の前に突き出す。
鞘に納められたクレイモアには強い後悔と憎しみが詰まっているように感じられる。
「こいつで魔族を皆殺しにしてくれ」
「…任せてくれ」
俺がリコからクレイモアを受け取るとリコは既に限界だったのか力なく腕をおろした。
「……ヘルエス…一人にして……悪か…った…」
リコから命の気配が消えていくのをうっすらと感じる。
そしてリコはどさりとヘルエス様の肉塊に倒れこんだ。
「……」
炎の魔術で二人を燃やして、神に祈りを捧げる。
願わくば二人の魂が来世でまた巡り合うようにと。
「…行かねば」
立ち上がり、リコに託されたクレイモアを帯剣する。
元より俺が使っていた直剣は二人の墓標として地面に突き刺しておく。
そして受け取ったクレイモアを抜剣した。
クレイモアは重装騎士用の片手剣よりほんの少し長く重いだけで感覚的には元から使っていた物とあまり変わらない為問題無く使用できそうだった。
魔族を大量に切り殺したのに俺が元々使っていた直剣より刃こぼれしていないのは特殊な魔術が込められているからなのか…それとも死んだ友の怨念によるものなのか。
「…戦う理由が増えたな」
2人が焼ける音を聞き流して進む。
俺にはやらなければならない事がある。
もしかすると魔族にも引けない事情があるのかも知れないと考えた事はある。
だが…もうそんなことはどうでもいい。
…絶対にやり遂げなければならないのだ。
たとえ最後の一人になろうとも。
「復讐だ」
俺はクレイモアを片手で握る。
そして視界に入った魔族を片っ端からー
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「魔族ですわ」
その一言で俺は目を覚ました。
車内から例の魔族を視認して、即座に走行中の魔動車から飛び降りて抜刀する。
やけに背の低い魔族はこちらをみて怯えているように見える。
俺は高速移動し左手で魔族の頭をつかむ。
「ま、まってくれ!俺は!ゲキョッ」
何か言っているが無視して地面に叩きつける。
そして直剣で突き刺す。
何度も、何度も。
魔族はしぶとい為、こうしなければならない。
ザク ザク
「死ね、死ね」
まだ生きているかもしれない。
完全に殺さなければ。
大切な姫様を必ず守る為に。
ザク ザク ザク
「…死ねッ!」
今度こそ守る為に。
「カロン」
…手を止める。
「はい」
姫様はいつの間にか魔動車から降車して俺の傍に立っていらっしゃった。
ああ…相変わらずお美しい。
あの悪夢から覚めても、暗い夜でも隠せない姫様のお美しさを見ると安心できる。
「起こしてしまって…ごめんなさいね」
「お気に…なさらないで下さい」
姫様はズタズタになった魔族の持ち物を探ろうとなさるので、とっさに止める。
「危険です、私が探ります」
「ありがとう」
まだ直剣を納めずに注意しながら持ち物を確認する。
「……これは」
丸められた紙だ。
ほんのりと魔力を感じる。
開いて確認するが魔術のスクロールでは無い様子。
……入国許可書か?
良くできている、本物だろうか?
だが魔族が持っていたものだ、偽物かもしれない。
「入国許可書を所持していたようです、他にはペンダント…だけですね」
「へぇ……ねぇカロン。コレは本物だと思うかしら」
…実は本物を見たのが何年も昔の為、偽物と本物の区別がつかない。
だが魔族が所持していたとなると流石に怪しい、偽物だろう。
「偽物…だと思います」
「ええ、偽物ですわ。ここをご覧になって」
姫様に言われた箇所を見ると数字と文字が合わさった暗号が見える。
そこに姫様が何かの魔術を行使なさるとその暗号は消えてなくなった。
「本物なら消えませんわ」
なるほど、特定の魔術を覚えている者にしか分からないようになっているようだ。
だから入国管理をしている連中は給金が良いのか。
「へぇ~!本当に魔族じゃないですかぁ~」
魔動車のドアを開け閉めする音が聞こえていたから来る事は分かっていたが突然大きな声を出されると心臓に悪いのでやめてほしい。
「運がいいなぁ~!よいしょっと」
スタンはどこから取り出したのかいつのまにか持っていたナイフで魔族の心臓を抉り始めた。