123.かかってこい
「オおおおオオオオオッ!!!!」
リコに続いて魔族を切り倒しながら走る。
リコにはヘルエス様の場所がわかるのか、一直線に突撃している。
途中後ろに振り向くと既に戦場は混戦状態になっていたが、他の騎士たちはうまく三人一組になっているようで魔族の数を減らせていた。
…もちろん騎士の数も減っている。
このまま混戦が続けば後方の姫様にも危険が及ぶかもしれない。
だが、少なくとも思いつく限り打開策はある。
今回魔族側がこの戦に応じた原因、魔族たちが群れている原因…それを潰してしまえばいい。
「フッ!はぁ…ハァ…進むほどに魔族の質が上がっている…統率者はこの先に居るのかもしれないな」
「ッ!…ああ」
俺は目の前の魔族を叩き切りリコに話しかける。
リコも同じく魔族をクレイモアで殺害して俺の言葉に頷いた。
…だが不味いかもしれない、奥に進むほどに強い魔族が多くなってきている。
先程と比べだいぶ進行速度は低下してきている、このままではヘルエス様の救出が間に合わないかもしれない。
応援を呼ぼうにも既に最前線で取り残されている俺達に加勢できるほど後方に余裕があるようには思えない。
……このまま突き進むほかは無い。
「騎士団を舐めるなよ…!」
リコは小さくそうつぶやくとクレイモアで魔族の腕から生えている大剣を受け止め、そのまま押し始める。
押し返されている魔族はありえないといった感じの表情で必死に抵抗している。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!!!」
リコの鎧に魔力がみなぎるのを感じる。
そしてリコはその魔族はおろか、その後ろにいた魔族ごと押し込んで突き進む。
何という馬鹿力だ…何十という魔族を押し込みながらだんだん加速して一直線に突進していく。
まるで闘牛のような猛進だ、俺も彼に続いて魔族たちが集まっている中心地へ特攻する。
「纏めて死ねッ!」
リコが押し込んでいた大量の魔族達に斬撃の魔術を何度も行使する。
発生した半透明の斬撃は押し込められて動けない魔族達の塊をみじん切りにする。
「良い魔術だ」
「そちらも凄まじい押し込みだった」
多くは語らない。
語る暇がない、既に魔族に包囲されている。
だがリコが歩みを止めたという事はヘルエス様が近いのだろう。
「ここからが正念場…だッ!」
リコは魔族を捌きながら少しづつ前進する。
そして勿論俺もリコと共に突き進む。
俺が盾で防いでリコが切り殺す。
…俺は…不謹慎だが案外この戦いを楽しんで居るのかもしれない。
言い訳をすれば普段前線で盾として突撃することが多い重装騎士である為、あまり味方と連携して魔族と戦う事が無かったからだ。
だが…この憎き敵を殺す高揚感。
大儀の為に振るう正当な暴力。
世の中には戦争が好きな物好きがいるが…今日、初めて少しそれらの気持ちが分かった。
…これは楽しい。
「ッ……ッ…」
気を抜けば笑ってしまいそうだ。
だがここで笑うのはあまりにも不謹慎なので耐える。
そんなことより、とにかく急いでヘルエス様を救出しなければならないのだ。
「彼奴はッ…!」
リコが向いている方向へ俺も目を向けるとここからほんの少し進んだ位置に先程からずっと上空でながれている映像に映っている魔族が見える。
「リコ、アイツで間違いない」
「ああ、行くぞッ!」
応、と返事をしてリコと共に映像の魔族のもとへと戦いながら進む。
もう何十体の魔族を殺したかわからない、俺もリコも疲れが見え始めていた。
「ハァッ!!」
そしてリコが映像の魔族のもとへと続く道で立ちふさいでいた魔族を殺すとその光景をみていろんな感情に襲われた。
「リ…コ…」
ヘルエス様に腰を振る魔族と槍を何度も突き刺していた魔族を即座にリコが切り殺す。
「団長ッ…」
ヘルエス様は…生きていた。
心底ほっとする。
確かに酷い状態ではあるが…生きている。
「オウオウオウ。本当ニ助ケニ来タンダナ!」
映像に映っていた魔族が地面を揺らしながら歩んでくる。
…デカい。
映像で見た時から思っていたが、実物はもっと大きく感じられる。
「貴様…!」
「バハハハハ!!!ソウ焦ルナ!ソイツノ最期グライシッカリ見テヤッタホウガイインジャナイカァ?」
こいつは何を言って…
「ぎ…い…いだ…いたいッ!!」
ヘルエス様がうめき声を上げる。
「大丈夫ですか、団長ッ!今治癒魔術を…」
リコとヘルエス様に駆け寄る。
体中に槍や件で刺された跡があるが、既に血は止まっている。
だが…一か所異様な点がる。
「ころ…せ…私をっ…はや、くっ!」
腹部で何かが"蠢いている"
まるで袋に閉じ込められた獣のように。
「あ、ああああ…!」
ヘルエス様の目が異様にぐりぐりと動き回る。
口の端には血の混ざった泡を吹いている。
「だ、団長…」
ヘルエス様の美しかった金髪は徐々に白く変色してゆく。
顔は苦痛と絶望に塗りつぶされたような酷い物に変わり果てた。
「ごろ…し……で…………あ」
ヘルエス様の胸元から鎧を突き破って角?のような物が二本生えた。
「あ…あ…あ…あ…あ…あ」
角だと思っていたものは左右に離れて行きヘルエス様の身体は胸元から下半身にかけてぱっかりと引き裂かれる。
「なん…だ…これは」
俺はとっさにリコを盾で庇う。
それとほとんど同時にそれは魔力の爆発と共に現れた。
もちろんヘルエス様の体内から。
ばしゃん
「……ギ…ジ…ジ」
飛び散った肉片と血の匂いに構っている暇なんて無かった。
そのヘルエス様の体内から現れた異様に鋭い爪を持つ化け物がこちらを襲ってきたからだ。
「リコッ!」
俺は茫然としていたリコを後方に投げ飛ばして化け物の攻撃を受ける。
もろに肩にくらってしまったがここに来るまでさんざん切られたり刺されたりしてきたのでもはや気にするほどでは無い。
「此奴はヘルエス様では無い!殺らなければ殺られるぞッ!」
「あ、ああ…!」
リコは立ち上がりクレイモアを構え直す。
それを見た映像に映っていた大きな魔族も拳を握りしめて前へ一歩踏み出した。
【俺モマゼナァ!】
2対2か。
普通に考えて俺が大きな方を殺すべきだろう。
…だが彼はヘルエス様から生まれ落ちた化け物を殺せるのだろうか?
「爪の長い化け物は…俺がやる」
「…承知した。こっちは任せろ」
…杞憂だったようだ。
さて…俺はこの魔族を殺すか。
せめてケジメくらいは彼らだけで付けさせてやりたい。
「おい、お前。お前は俺と戦え」
【アアン?俺ニ言ッテルノカァ?】
大きな魔族の返事を待たずに全力で高速移動モードを使い高速突撃し、盾で思いっきり体当たりする。
「オラァッ!!」
バァンッ
思ったより鈍い音がして大きな魔族が吹き飛ぶ。
そして、そのまま追撃する為に走って追いかける。
…これでリコは俺を気にせず戦えるはずだ。
大きな魔族を殺したら戻って共にヘルエス様のお体を集めなければな。
/////////////////////////////////////
なにが起きた…?
俺の全身は何故こんなに痛いんだ…?
【ゴボォ…グ】
口から青い血が噴き出す。
上手く体が動かない。
「案外軽いな」
声が聞こえる。
前を見るとこちらへ騎士が歩いてくるのが見えた。
あいつは他の騎士とかいう奴より体がデカい、きっと群れの長だろう。
もし違ったとしても確実に上位の奴だと分かる。
【バハハ…!コレハ幸運ダ…!オ前ヲ殺セバコノタタカイハ我々ノ勝チニ近ヅク】
人間・騎士という生き物は群れの長が殺されると戦意を喪失すると”カレ”から聞いた。
もし俺がこの騎士を殺せれば他の騎士は絶望して戦意を喪失するだろう。
無理やり身体を動かす。
女騎士団長を捕まえた時に魔力はほとんど使い果たしてしまったが、まだ数発は使える。
【バハハ!騎士ハ決闘ヲ断ラナインダッテナ!?】
どうせ一対一だ、決闘を申し込めば逃げたりはしないだろう。
ここで手柄を逃すのは惜しい。
「は?決闘だと?…………まぁいいだろう」
騎士は決闘を受け入れるようだ。
そして騎士が持っていた武器の入れ物を投げ渡してきた。
「私の直剣の鞘だ。これが騎士の決闘の証だ、どちらかが負けを認めて鞘を返却すれば剣を収めて終りだ」
【ンア?俺ハ拳デ戦ウカラソレ持ッテナイゾ】
武器なんて臆病者の証だ。
「…なら、まぁいいだろう。かかってこい」
それでいいのか?
まぁいい、さっさと殺しあおう。
俺も強い奴と戦うのは大大大好きなんだ。
【オラァ!ヨケルナヨ!!】
火の魔術を使う。
そしてそのすぐ後に拘束の魔術も使う。
女騎士団長はこの手にあっさり引っかかったのだ。
「…」
だが、騎士は火の魔術すら避けれなかった。
そして拘束の魔術もだ。
俺は勢いよく未だに爆炎の中にいる騎士を引き寄せる。
【アアン?】
なんだ…?引き寄せられない?
直後に俺の身体に魔力の鎖が巻き付く。
「これでお相子だな」
【オ前ハ火ノ魔術モクラッテルダロウガ】
ぐっ…!だめだ、引き寄せられる。
何とか近くの俺の腕ほどの太さのある木をつかむ。
「ハハハ。まだ軽いな」
引き寄せる力はどんどん強くなっていき、俺の掴んだ木がメキメキと音を立てている。
【クソックソ】
木が半ば抜けかかっている。
【ヌグ…グ…!オアッ!?】
ついに木が抜けてしまった。
俺は勢いよく木と一緒にコケる。
【ヴアッ!?】
だがそのまま引き寄せられ続ける。
俺は急いで木から手を離した。
このまま引き寄せられるくらいなら俺からぶん殴りに行ってやる!
【オアアア!!】
ガンッ
突っ立ったままの騎士の頭を殴りつける…が。
【グ…!カ、カタイ!】
まるで効いているようにいるようには見えない。
「…お返しだ」
騎士の身体に魔力が満ちたのが分かった瞬間俺はぶん殴られていた。
途中までしか目で追えない速度だった。
拘束されているせいで上手く受け流せないし、吹き飛ぶことすらない。
【ウゴアァァ!?クソ…オラァ!!】
ゴンッ
思いっきり横っ腹を蹴る。
…が、やはり効いている感じがしない。
「ぐッ…邪魔な足だなァ!」
騎士は蹴った俺の足掴んで、締め付ける。
そして、あろうことかそのまま骨ごと締め潰された。
【ゴアアアアアアアッ!?】
痛みがまたしても俺を襲う。
俺は戦いで傷つけ、傷つけられるのは楽しいが一方的に傷つけられるのは大嫌いなんだ!!
【ウルルアアアア!!!】
足が潰されあまりバランスが良くないが魔力をのせた本気の一撃をお見舞いする。
ガンッ
「おっと…今のは危なかったな」
盾で防がれてしまった。
強い。
こいつは強い、流石騎士の長なだけはある。
「そろそろ時間だな。死ね」
もう魔力は残っていない。
防ごうにも足がつぶれてうまく立てない。
騎士の長は武器を俺に振り下ろす。
【ガウッ…ゴ…ガ…】
騎士の武器が俺の頭から胴体にかけて通って行くのが分かる。
流石に俺ともいえど魔力がないまま動けなくされたら死ぬ。
【オマ…エ…魔族…カ】
真っ二つにされても話せるのは俺達魔族の生命力が高いからだ。
そんなことより俺は知りたい。
こいつは実は魔族だったんじゃないか?
魔族に殺されるのなら…俺は…
「失礼な、私は人間だ」
…笑えない冗談だ。
俺の知っている人間はお前ほど強くは…な……い…