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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第4章:金級冒険者
121/227

121.変わらず信じ続けられる物



「これはこれは、騎士様。昨日は素晴らしい戦いを見せていただきました」



 俺は一人闘技大会の賞金を受け取りに来ていた。


 昨日姫様が報酬の早期受け取りを出来るように話して下さったおかげで表彰式に出てさらに目立つことは避けられそうだ。



「流石は騎士様でございます。一国民として大変誇りに思います」



「お褒めのお言葉、有りがたく思います。それで…ネイラさんは…」



 ちなみにこの方は闘技大会の主催者だ。


 賞金はこの方のポケットマネーから出るとの事。



「ネイラさんの事なら心配はいりませんよ。彼女も大会に出場している以上ケガをする事は承知しているはずですから」



 …いや、そうではなく怪我の具合を聞きたかったのだが…


 流石に顔を何発も殴ってしまったからな…勝つためとはいえ、流石に申し訳なく感じている。



「後遺症が残らなければ良いのですが…」



「ほっほっほ。大丈夫ですよ、特級の薬も用意しておりますのですぐに元通りになります。…それで優勝賞品ですが…こちらへどうぞ」



 主催者に連れられ歩く。


 主催者宅から少し歩くと一台の魔動車が目に入る。



「こちらが優勝賞品になります。」



「…魔動車ですか」



 車の型はひと昔前の物だが良く整備されている様子で動作は問題なさそうだ。


 パッと見たところ後部座席があるので最低でも4人は乗れるだろう。


 …それにしてもまさか優勝賞品が魔動車だったとは…そういえば優勝賞品が何かは今の今まで知らなかったのだった。



「それと、こちらの200万リンです。優勝おめでとうございます」


「ありがとうございます」



 主催者から200万リンの入った革袋を受け取る。


 中身を確認するとしっかり200万リン丁度入っていた。


 この辺はしっかりしているようだ、まぁ…さもないとあそこまで盛り上がる事もないのだろう。



「本当に表彰式はお出になられないのですか?勿体無い…」


「はい。急ぎの用事がありますので」



 魔動車のキーも受け取る。


 一応普通魔動車運転資格は持っているので問題は無い。



「魔力カートリッジは点検・充填済みですのですぐにでも動かせますよ」


「助かります」



 魔動車に乗り込むために運転席に右足を入れると車体がグッと沈む。


 タイヤが大きい為これでも走行できそうだ。


 ふむ…この内装でこの装備だと…アーレンの32式か。


 ひと昔前の物だが悪くない、悪路にも強く車内もある程度の広さがあるので俺でも乗れる。



「どうです?一応騎士様が乗っても大丈夫なように足回りはカスタムしたのですよ」


「とても良い感じです。大切に使われていたようですね」



 それなりに走っているようだがしっかりと整備しているのか、まるで新車だ。


 魔動車にキーを差し込み軽くひねると軽快な音と共にエンジンが動き出す。


 エンジンは……問題無く動いている様子だ、異音もしない。



「ほほほ、わかりますか。大切に大切に乗っていたのです、新車に乗り換えても定期的にエンジンに魔力を流していたのですよ」



「そんなものを本当に頂いてよろしいのでしょうか」



 主催者はひとしきり笑うと返事を話す。



「勿論でございます。魔動車は乗る為にあるのですから」


「…わかりました。では有りがたく使わせていただきます」



 32式のレバーを操作していつでも走行可能な状態にする。



「…では、そろそろ行こうと思います。この度はありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ良い戦いを見せていただきました。またお時間があればラマルラに立ち寄ってくだされ」



 車内から主催者に軽く会釈をしてペダルを踏む。


 重装鎧を装着したままの運転は久々だがラマルラにはあまり車が走っていない為大丈夫だろう。


 少しづつスピードを上げて走り出す。


 コレ(32式)があれば王国までの想定到着期間は大幅に縮まるだろう。


 とりあえず旅館へ姫様とスタンを迎えに行こう。



//////////////////////////////



「はぁ…平穏な日々ともお別れかぁ…」


「王国に帰ったらまた平穏に戻れますわ」



 サリンとスタンは旅館のロビーにあるふかふかの椅子に腰かけてカロンの帰りを待っていた。


 既にチェックアウトは済ませたものの、カロンが帰ってくるまではゆっくりしていてくださいとの事なのでゆっくり待っている。


 

「………不安ですわね」



 サリンがぼそっとそんな事を口にしたのをスタンは聞き逃さなかった。 


 …そして推しが不安そうにして居るときにじっとしていられるほどスタンは落ち着きのある人物では無い。



「…さサリンしゃまぁ!ワタシが居るので大丈夫ですよぉ!」


「……今ここで例の金級冒険者が襲ってきたら?」



 スタンはギュッと頭を回す。


 何と答えるのが正解だろうか?変に大丈夫だと言ってそんな実力ないだろうと言われてしまえばそれまででもある。



「そ…それはぁ~……あぁ~…騎士君が戻るまで死ぬ気で時間を稼ぎますぅ!」



 さすがのスタンも金級冒険者に勝てるかは正直怪しいところだ。


 でもカロンならば問題無く勝てるだろう。



「……………それが出来ればいいのだけれど…そもそもあなたが裏切らないとも限りませんもの…」



 スタンは昔と全く変わらず疑ってくるサリンの言葉を嬉しく感じた。


 変な意味は無く自分が推しているサリン様が単純に昔と変わっていなかったからである。



「ふへへ…サリン様は変わりませんねぇ…」


「…わたくしが成長していないと?」



 スタンは頭を振る。


 頭がおかしくなったのではなくてその問いを否定する為だ。



「いえいえぇ、変わらない事は悪い事ではないと思いますよぉ。世の中は常に変わり続けるものですぅ~…それでも昔と変わらないものがあればそれは凄い事なんですよぉ」


「…………そういうものかしら」



 スタンは真心を込めて話す。


 なにも変わり続ける事や進化し続ける事が全て正しいとは限らないのです、と。



「少なくとも、ワタシは変わらず信じ続けられる物が一つは欲しいですよぉ」


「…………」



 スタンは返事をしないサリンに気がつき慌てて言葉を付けたす。



「い、いやぁ~、変わり続ける事が悪いという事では無いですよぉ、それも大事ですけどぉ」


「…すぐに意見を変えますのね」



 スタンは心の中でひぃ~!と叫ぶ。


 サリンの不興を買えば後悔で夜も眠れなくなる。



「あっ!これはサリン様の意見を尊重したくてですねぇ~!わ、ワタシはサリン様に自由に生きてほしいんですよぉ!」

 


「ふふっ…ごめんなさい。ちょっと暇だったからからかってみただけですわ」



 サリンがそういって微笑むのを見てスタンは泥の如く溶けた。


 もちろん本当に溶けたわけではない、安心してドッと疲れが押し寄せただけである。



「はへぇぇぇ…ご冗談がお上手ですねぇっ…!お気を悪くさせてしまったかと思いましたよぉ…」


「ふふ、大丈夫ですわ」



 サリンは続けて話す。



「わたくしは他人からどういわれようと変わる事なんてありませんもの」



 スタンは息をのむ。


 かつて自分が初めてサリン様を尊敬した瞬間を思い出して。



「姫様お待たせいたしました」


「スタン、カロンが来ましたわ。行きますわよ」



 カロンは魔動車・32式のエンジン音と共に旅館についていた。 



「ふひひ…はい。サリン様」



 スタンはやはり気持ち悪く笑う。


 車内にぎゅうぎゅうに詰まって狭そうにしているカロンと過去の出来事を思い出して。

 

 





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