119.…納得できる
「ただいまぁ戻りましたぁ」
旅館の部屋に戻り扉を開く。
「無事でしたのね」
扉を開くとサリン様が窓辺で黄昏ているのが目に入る。
夕日に照らされるサリン様の美しさと言ったらそれはもう………ウッ…心臓が止まりそう。
「…土まみれですね…何があったのですか」
ワタシは自分の白衣を見る。
うへぇ…ほんとに土まみれだぁ…あの銅級冒険者の地雷魔術かぁ……
次会ったらアマシアのあることないこと言って関係をややこしくしてやるから覚悟しとけよぉ。
「はぁ…魔術使って魔力を消費したせいで白衣に魔力が行き渡っていないようだねぇ…お風呂でも行ってくるよぉ」
「そちらのコップと小瓶の液体は冷やしておきますか?」
騎士君が私の手にあるものを見て聞いてくるが、これは冷やさなくても良いと思うのでそのままにする。
「これは常温で大丈夫だよぉ。じゃあちょっとお風呂行ってきますねぇ」
「ええ、ゆっくりしてくると良いですわ」
サリン様はこちらに目も向けずに話される。
ああぁぁぁああ…!そっけないご対応ありがとうございますぅ!
「日が暮れる頃に夕飯ですのでその頃にはお戻りを」
ああ、夕飯か、忘れてたぁ。
騎士君は律儀だなぁ。
「わかったよぉ、ありがとねぇ~」
さぁて!温泉タイムだぁ!!
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「よいっしょっと…」
湯着に着替えて大浴場に入る。
「おおぉ~人が少ない…というか誰もいない…」
昨日も入浴したけど今日はほぼ貸し切りだ。
…大浴場を貸し切りに出来るとなんだかワクワクしてしまうのはワタシだけだろうか?いや、そんな事は無いはず。
「よっと…マナーは大事だよねぇ」
洗浄魔術を行使してから大きな湯船につま先を入れる。
シャワーで身体を流すより洗浄魔術使った方が良いよね!!!
「おぉう…あたけえ」
肩まで入ると身体がぶるぶるってしてしまう。
身体の外側から内側にじんわりと熱が染み込む感覚は何とも心地いいね。
「ふぅ~…」
人心地ついたところで例のブツをどうやって人間にするかを考える。
せっかく人間作るんだしどうせなら完璧に近いモノにしたいよねぇ。
「男性女性…どっちで作ろうかなぁ~…あ、いや…ネイラちゃんの血で作るし女の子にしかならないかもなぁ~…」
うぅ~ん…ワタシ強制されたり決めつけられるの大嫌いなんだよねぇ…
「……どっちもつけちゃうか」
うん…うん…決めた。
両性器を持ち合わせた子を作ろう。
どちらもないよりかは…あった方がその子の未来と選択肢が広がるよね。
「…最後の問題はぁ…生成する過程でモンスター化する可能性があるって事だよねぇ…」
…まぁ…そうなったら騎士君が何とかしてくれるでしょ。
いくらネイラちゃんの血をひいているとは言っても騎士君が負ける可能性は無い。
「映像みてて思ったけど…騎士君は"誓い"を宣誓してなかったしねぇ」
騎士が騎士である事、それはあまりにも多くの技量が必要だけど…そのなかでも一番騎士として大切なものは誓いだよねぇ。
騎士が誓った事を真実と証明する為の宣誓は理解の範疇を超えて事象を発生させる。
それはもう誰が見ても一目瞭然、ガチのマジで奥の手だからねぇ。
「騎士君は重装騎士だから耐える事に特化した"誓い"なんだろうなぁ」
だから…もし騎士君が初めから真剣だったならさっさと宣誓してアッサリ勝利していただろうね。
きっと騎士君、初めは模擬戦ぐらいの感覚だったんだろうねぇ。
なんか映像見た感じだとネイラちゃんに誘われただけって感じだし。
「まさか騎士君がネイラちゃんに初めからわざと負けるつもりだった訳ないしねぇ~!」
そう、騎士君は騎士なのだから…そんな事するわけないよねぇ!
「でも普通あんな一撃をまともにくらったら戦闘を継続しないよねぇ」
あのダメージで戦闘を続行すれば下手したら…死ぬ。
でも騎士君は戦闘を続けた。
なぜ?
「自分が死んだらサリン様を守れないし、そんな事をするメリットは……賞金が欲しかったとか!?」
確かに高い温泉旅館に泊まっちゃったしなぁ…でもサリン様がいらっしゃるのにショボイ宿とか絶対無いでしょうぅ!?
仕方ないよねぇ!?
「でも2位くらいにとどめておいたほうがあまり目立たないし安定だよねぇ…そんな事騎士君なら分かってると思うけどなぁ」
………………なんで騎士君はあそこまでして勝ちに行ったんだろう…?
ヤバイ…研究者としての性が…いやまぁ!気になるし仕方ないよねぇ!
ぶつぶつ独り言っちゃうのも仕方ないよね!性だし!
うん!無限に考えそうだからのぼせるまでをタイムリミットにしよう!
「えーと、まず騎士君は初めは模擬戦程度の感覚だった可能性が高いんだよね」
けど1位になると目立つっていう事を理解してるとすると…初めから勝つつもりは無かった?
でも騎士としてそれはどうなんだろうか?清廉潔白でなければならない騎士が…そんな事をするのだろうか?
…もし、騎士が…いわゆる非道な行為をするときは必ず理由があるはず。
ワタシは騎士じゃないから分からないけどきっと何かしらあるはずなんだ。
過去に実際にあった事例から参照するとしたら…例の大虐殺だよねぇ。
でもあれは王の命令だったからであって………
「あっ…」
…そうだ……これだ…これしかない。
サリン様だ…!
「目立ち過ぎない為にわざと負けるつもりだったのは…サリン様からそうするように指示されていたとしたら…納得できる」
ではなぜ最後の最後で騎士君はあそこまでしてネイラちゃんに勝とうとしたんだろう?
もしサリン様に負けるよう指示されていたとすれば…その行為は命令違反だよねぇ。
あ~楽しい。
なんでだろ?なんで騎士君は姫様の命令を無視してまで勝とうとしたんだろう。
「命に危機が迫って無意識の内にボコボコにしたとか?それとも自分は操り人形じゃないという事を伝えたかったのかなぁ~?!」
それとも単純に年下の女の子に負けたくなかったとかぁ~?ふひひふふッ…もしそうなら面白いなぁ。
………でもまぁ…そんなはずないよねぇ…
「騎士君がサリン様を裏切る…なんてありえないよねぇ…」
実際に聞いてみてもいいけどもしそれで騎士君の怒りにふれたら…
…ネイラちゃんを呼んで2対1でも勝てないからねぇ。
そもそもバルトルウス級戦術魔動車を5台用意するより重装騎士を一人動員したほうが賢い判断だと言われているくらいだしねぇ。
「でも…だとしたら…なぜ?…騎士君は………ぶぶくぶく;GT;HSごぶく;;Vんヴぃぶくぶく」
あ…やばい…意識が……
「ごぼっぼぼあああーーー!!あぶねぇーーー~~!!」
あっさいお風呂でおぼれじぬところだったあぁあああぁ~~!!?
「しぬしぬこれ!もう出ようかなぁ!」
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夕食がテーブルに並べられ、スタンを姫様と待っていると、部屋の扉が開く。
「かえって来ましたか。もう夕食が……大丈夫ですか?」
目の前の茹でられた人間をみて思わず心配する。
「いやあぁぁ~~…ゆっくりし過ぎたぁ~…」
「大丈夫ですの?」
姫様もスタンを心配なさっている。
あまり姫様を心配させないで欲しいものだ。
「冷たい水を貰えるように伝えておきます」
「あぁい…ありがとぉ…」
スタンは椅子でぐったりしながら返答している。
まるで、一般人には価値の分からない美術品のようだ。