117.髪がぼさぼさになるから嫌なんだけど
「また来て下さいね~!」
ワタシは見世物小屋を出るとただものじゃない……気がする店番のおっさんが手を振って来た。
「おっさんありがとねぇ~」
もちろんワタシも大きく手を振り返して帰路に着く。
「うぅん…来てよかったなぁ~」
貰ったコップに人差し指を突っ込むとソレはにぎにぎとワタシの指を揉んできた。
「どんな実験に使おうかなぁ~……はぁぁん…楽しみだねぇ~!」
どんな実験に使うか。
それは非常にワクワク・ウキウキしてしまう選択だ。
どう使うにしろ量は限られている。
ならば勿論やってみたい事は一つ。
「どうせならいっっっっちばんヤべー事につかっちゃおぉ~ふひひふふふふ…」
一番ヤベー事…それはつまりヤベー事なのだ。
それはもう…とてもとてもヤベー事…
「人間を作ってみようかな…!!」
人造人間
人工人間
ホムンクルス
あと…なんだっけ?
とにかく自分の意思をもち、自分で行動できる生命体を作り出したい……めっちゃ。
「となればまずはベースになる人間の身体の一部・遺伝子が欲しいなぁ…サリン様から髪の毛もらうとか…」
…………いや。
「いや、それは無いね。あまりにも不遜だねぇ~」
そもそもそんな事考えること自体罪だ。
アリ・ナシでいえば絶対にナシ。
むしろ頭おかしくなってセカンド・サリン様を作り出したとして、正気に戻った時にあまりの罪悪感に自殺してしまうだろう。
「では誰の……どうせなら優秀な遺伝子がいいよねぇ~」
髪の毛でもいいけど、出来る事なら血とか…眼球とか…
「そもそもぉ…優秀な人がそれをくれるかなぁ~」
思いつく限り現状優秀な人物は…
サリン様……不遜!ダメ絶対。
騎士君…は恩があるしなぁ…
……金級冒険者…
「あ。ネイラちゃん」
そうだ。
そうじゃないかぁ。
ネイラちゃんとかならあんまし恩を感じないし不遜じゃなーいぃ!
馬車で拾ってくれたことはあるけどあれは御者のおっさんに感謝だしね。
「そして問題は…体の一部をくれるかだよねぇ」
どうせ……
研究者ワタシ『髪の毛ちょーーーだい!』
ネイラちゃん『ダーーーーーーーメ!!』
……ってなるよねぇ…
「はぁ…だめかぁ…」
無理やり奪おうとしても金級冒険者にかなう人間なんて……
…
……
………
「いやいるわ」
そう、いる。
騎士君なら勝てるんじゃないかな?
髪の毛だけと言わず血とか眼球とか行けるんじゃない?
ネイラちゃんに言いがかり付けて救難信号発して…騎士君に駆けつけてもらって…
「あふふふひひ…ふっふふ…ひゃひひひふふ…イケる…!これはイケるねぇ~!!」
これは完璧だね。
もはや成功だね。
と、そこでワタシが周りの人に変な目で見られている事に気がついた。
「あ……えっと……へへっ…失礼しましたぁ~」
きょろきょろと周りの目を気にしながら退散していると、魔術掲示板に目が止まる。
「ぅえ………」
そこには映像付きで救護班?に連れていかれるボッコボコにされたネイラちゃんの姿が映し出されている。
そしてついでに〔優勝者はリコ選手!ネイラさんの連勝記録は破られた!〕と記載されていた。
「うぅわ……直接ボコボコにしてるところは撮影されていないみたいだけど…こりゃヒドイねぇ~…リコって奴どんなやつなんだぁ~?」
それはもう素直な感想だった。
ワタシから見てもかわいげのあったネイラちゃんの顔はもう直視できないほどに損傷していて……ああぁ~!!かわいそうだねぇ~!
「あっ帰る前にリコって奴一目見ておこう…襲われたら速攻逃げる為にもねぇ~」
そして映像は流れていき…最終的に魔術掲示板に映し出されたのは…
「………ゴクリ……」
見覚えのある重装騎士だった。
「いや君かよォ!!?!!!?」
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「騎士君…ナイスだよぉ…」
ワタシはコロシアムに来ていた。
もう人はほぼおらず閑散としている。
そして勿論…ワタシはネイラちゃんの血を採取していた。
「いやまぁ惨いけどねぇ~!」
対戦相手で金級冒険者だからってあそこまでやるか!?と思ったのも事実だけれど、そんな事より楽にネイラちゃんの血を回収できて満足だね。
「おい、何してやがる」
「ほぇ~…?」
背後から声を掛けられたので振り返ると、そこには男女が立っていた。
片方は大きな袋を引きずっている男、もう片方は魔術の触媒…長い杖に露出の多い服を着た女。
「何ってぇ~…掃除?ですよぉ~」
「へぇ…掃除ね。じゃあその隠し持ってるものは何かしら?」
見られてたのか。
ここは観念してブツを見せよう。
ちなみに例の生命の元的な奴はおいてきた。
「これですか?ネイラさんの血ですよ。あの子は中々健康診断に来てくれなくて、たまにケガしたときとかに勝手に採血して診断してるんですよぉ」
嘘を付く。
どうかな?親しい人物じゃなければそれほど怪しい問題ではないはずだ。
「あのネイラにそんな一面があったのか…!これはいいネタになりそうだぜ」
何とかなるかな?
それっぽい事を言って話を流そう。
「ははぁ、でもあまり言いふらさないでくださいねぇ?ネイラさんはその事を言うと恥ずかしがるんですよぉ」
「はは、違いねぇ」
騙せそう。
このまま不本意だがカモフラージュのため掃除をしてから帰ろう。
「ああ…本当にいいネタになりそうだぜ………それが本当の事だったらな」
………あれま。
「貴方ネイラちゃんのこと何にも知らないのね。ネイラちゃんは健康診断ぐらい普通に行くわよ」
………。
「ちなみに献血にも行ってるわよ。だって…それでこそ私達が認める金級冒険者ネイラちゃんなんだから」
これはやってしまったねぇ。
でもワタシも今更ホムンクルスを諦められないし…こんなところであきらめていたらワタシは研究者をやっていないよねぇ。
「ははぁ~ばれちゃいましたかぁ。別にもう流れた血なんてネイラさんだっていらないだろうし見逃してくれませんかねぇ~?」
「こんな怪しい人を見逃してネイラちゃんに何かあったら私は後悔する事になるわ」
明らかに魔術をメインに使いそうな女はワタシの顔をみて険しい表情をする。
そんなに人の顔をまじまじと見つめちゃって……ちょっとワタシが悪い顔してるからって失礼だなぁ。
「お前ほどあからさまに悪い事考えてそうな顔してる人間はそうそういねーんだよ」
「えっ?ひどくない?」
歯がギザギザなのも関係しているんだろうか?
サリン様はほめてくれたんだけどなぁ。
「…とにかく!それを渡してもらおうかしら?」
血を?
ワタシの希望を?
「いやって言ったらぁ…」
「無理やり返してもらうぜ」
男は袋から直剣を取り出して構えた。
「デスヨネぇ~」
二対一かぁ…めちゃくちゃ不利だよねぇ…
「………わかったわかったよぉ~…返すよぉ~…はいパス」
血の入った小瓶を山なりに放り投げる。
勿論本物は投げないけどね。
「おまっ投げるか普通!?」
男はあたふたしながらキャッチしようとする。
投げるか普通って…いやいや、そもそも君たちその小瓶が割れても何も損しないよね?
でも、人間物を投げ渡されると一応キャッチしようとしてしまうものなのかねぇ。
「ふヒヒっ!」
自身に電撃魔術を行使して無理やり身体能力を上昇させる。
そして電気を纏いながら瞬時に男に接近して…
「ッ!?」
ッガァン!!
「あっぶないわね…!」
ワタシの袖に隠していた暗器は女の防護魔術に防がれた。
「二対一はズルくないぃ~?」
防護魔術を蹴って後方に素早く跳躍する。
ワタシが通った所はバチバチとわずかに電気が迸っている。
「助かったぜ、アマシア」
「…呼び捨てしないでもらえる?」
ワタシは二人から距離をとり、男を見る。
…男の手にはワタシが投げた小瓶があった。
ちゃっかりキャッチ出来たんだ、偽物。
「あぁ~もう。電撃魔術を使うと髪がぼさぼさになるから嫌なんだけどなぁ」