113.ドレスが汚れてしまいます
「姫様…ドレスが汚れてしまいます」
カロンはサリンを抱き上げているがそれ以上には触れないようにしている。
勿論…焼け爛れて黒く汚れた重装鎧でドレスに触れると汚れてしまうからなのだが…
「…これでどうかしら」
「……聞こえます、ありがとうございます」
サリンの抱擁からカロンが解放されるのと同時にカロンの聴力は回復していた、サリンが抱擁しながら治癒魔術を行使した為だ。
カロン自身も魔力の本流を受けきった後すぐに治癒魔術を行使していた為最悪の事態は避けられたのだが、聴力の回復までは至っていなかったのだ。
「カロン、闘技大会は優勝ですわ」
「当然です。姫様を守る騎士が負けるはずがありません」
カロンはサリンを安心させるため痛みと苦しさに耐えながら話す。
勿論サリンだってカロンがどれだけ重症なのかは分かっているが、カロンがそうしてまで自分に心配させまいとしてくれている事を嬉しく思った為、カロンの意思を尊重し野暮な事は言わない事にしたのだった。
…こっそり治癒魔術は行使し続けたが。
【【えー…表彰式は出場者両名重症の為、後日とします!!】】
実況者がそう発言するとまだコロシアムに残っていた観客も少しづつ帰り始める。
「表彰式は後日のようですし、帰りましょう」
カロンは直剣を鞘に納める。
ちなみにカロンはネイラを殴っていた時もずっと直剣は装備していたが、殺してしまう可能性があった為使っていなかった。
「おい」
壁の瓦礫から這出てきた男…ラルスが2人に声を掛ける。
ラルスにかばわれた男は気絶しているのか今もまだ倒れている。
「悪漢が…」
カロンは直剣の柄に手を掛ける。
「その嬢ちゃんを離しな」
ラルスは砕けた大剣の破片を拾う。
「…」
カロンはそっとサリンを地面に降ろし、サリンを庇うようにラルスの前に立ちはだかる。
「お前…化け物になりかけてるって事、自分でも分かってんだろ?」
ラルスは全身の痛みに耐えながら騎士の鎧の隙間から流れ出ている血を見る。
その赤い血は半分ほど青白く発光しており、異常であることは明らかだ。
「私は騎士だ…私の身がどうなろうとも、やるべきことがある」
事実、カロンは強力な魔力の本流をもろに浴びたせいでモンスターになりかけていた。
それでもまだ理性を失わずにいられるのは恐らくカロンの忠誠心故だろう。
「それは分かる、だがいつモンスター化して暴れだすか分からない奴を放っておくわけにもいかん」
カロンはいつでも戦闘を開始できるように構える。
先に襲い掛からないのは、襲われたから自己防衛をしたという事実を残す為だ。
「だから…治してやる。冒険者ギルドの管理人…いや、英雄ラルスの名にかけてなぁ!」
「……………英雄?」
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「ほんっとうにうちの馬鹿が迷惑をかけた!!すまん!!!」
「い、いえ……こちらこそ殴り飛ばして申し訳ない」
カロンがサリンを襲っていると思っていた男が実は庇っていたと伝えられた事で様々な誤解が解け、とりあえずは和解していた。
「絶対に許しませんわ」
「そ、そこを何とか…!」
そして今、カロンの身体を蝕む魔力を何とかしようとしているところであった。
「…それで…カロンは大丈夫ですの」
「あ、ああ…いま身体を調べているところだ……です…」
和解した後、サリンは事情をラルスに話していた。
立場ある人間はむやみな行動をしないだろうと考えた為だ。
「(そりゃあ騎士様だって激怒するだろう…サリン様だものな…俺だって同じ立場ならああする、むしろそうした結果が英雄と言われるようになった所以だからな)」
ラルスが古い記憶に思いを馳せながらカロンの身体を医療型解析魔術で調べていると信じられない結果がでた。
「おい…なんだこりゃ…適応しているのか…?」
-本来ならば魔力というものは心臓に蓄積されるものである。
モンスター化する原因の一つは魔力を浴びせられた者の心臓がその魔力を蓄えきれずにあふれ出して全身が魔力に蝕まれたときにおこる現象だ。
ちなみに魔人病患者は自己生成魔力が非常に多く、薬や魔術等で治療しなければ数日で心臓から溢れ出た魔力が全身に行きわたりモンスター化してしまうのだ、さらに治療で延命をしてもずっと治療を続けなくてはいけない点から料金の問題もありその病の致死率は100%と言われている。
そして、今のカロンは既に全身を魔力が蝕んでおり何時モンスター化してもおかしくない筈なのだが…
医療型解析魔術で調べたカロンのバイタルデータは全て正常値を示している。
「適応ですか?」
カロンは重装鎧を脱着せず仰向きに寝そべったまま話す。
「ああ、細かく見てみても魔力に身体が蝕まれている様子はない…むしろ浸透して…身体の一部として組み込まれているような状態だ…」
「このような前例はありませんの?」
ラルスは考える。
…昔何か関連性のありそうな話を聞いた事はあるが…それはもう何年も昔の話だ。
「いや、流石に無い。前例は無いしあまり関係も無いかもしれないんだが……昔、変な話を聞いた事がある…」
「変な話…ですか」
ラルスは今から何十年も昔の言葉を思い出す。
「ああ、確か…魔族は全身に魔力をため込む」