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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第4章:金級冒険者
112/226

112.あるんでしょう?とっておきが



【【試合…】】



 一瞬でコロシアムが静かになり緊張が増す。


 俺は抜剣し開始の合図を待つ。


 ネイラさんは姿勢を低くしている、恐らくとびかかって来るつもりなのだろう。



【【開始ィィィィィィィぃぃ!!!!!!!!!】】



 直後ネイラさんが目の前に現れる。


 驚くほどの事ではない、開始の合図と同時に飛びかかって来ただけだ。



「ッ!」



 盾で飛びかかりを防ぐと刺突音と衝撃が2回腕に伝わる。


 ネイラさんは二刀流か…いや…一瞬で2回攻撃したのか。


 直剣を横に振り払いネイラさんと距離を取る。



「さすが騎士様だねーここまではこれだけで勝てたんだけどなー」



 ネイラさんは直剣を構える。


 …やはり二刀流ではない、本当に一瞬で2回攻撃したようだ。



「流石金級ですね」



「そうだねーでも…」



 ネイラさんの姿は一瞬で消えた、もし高速移動で消えたとしたらもはや人間技ではない。


 推測だが転移魔術だろう。


 ならばどこに転移した?視界にいないのなら上か…背後…



「ハァッ!」



 背後に振り向き盾を構える。


 …が、誰もいない。


 …読み違えたか。



「金級を超えるよ」



 上空から声が聞こえた、急ぎ盾を上へ構えようとするが既に遅く2回切り付けられた。


 ネイラさんは攻撃を当てた後、すぐさま転移してしまった為追撃が出来ない。



「……超える…ですか」



 俺は体制を立て直して虚空へ問いかける。


 ネイラさんの返答を待っている間に頭を整理する。


 …今のところネイラさんの戦法は完全なる一撃離脱だ。


 次どう来るかは分からないが、もし次も一撃離脱をして来ればほぼ確定だろう。


 それにしても何とも微妙な戦法だ…慎重に戦うのならば重装騎士の基本的な戦法は反撃…カウンターだ。


 連続して攻撃されるよりはこちらの攻撃の機会は多いが、転移魔術を何度も使う完璧な一撃離脱をしてくる相手には不利だ。


 カウンターがあたらないのではこちらが一方的に攻撃され続けてしまうだけだからだ。



「ネイラは師匠に勝ちたかったんだ」



 背後から声が聞こえる。


 すぐさま振り返り対応しようとするが振り向いた時には既にいない。



「でも師匠が居ない今となってはッ!戦って勝つことは出来ない…から」



 背後から声が聞こえ、4回攻撃される。


 また振り向くがやはりもうネイラさんは居ない。



「……金級以上になってヘルエス様…いえ、師匠を超えようというわけですか」



 それは…なんとも良い話だ。


 似た境遇にいたわけでも無ければネイラさんやヘルエス様に思い入れがあるわけでも無いが…現実を受け止めて進もうとする人間というのは応援したくなるものだ。


 ならばこそ本当にわざと負けても良いだろう。


 もともと負けるつもりだったが少し…プライド的に勝ちたかったところもある。


 だが…もはや何の迷いもない、ネイラさんが前へ進むためにも協力したい。


 俺は悔いなくネイラさんの強い意志に負ける事が出来るだろう。 



「そろそろ本気をだして下さい、あるんでしょう?とっておきが」



 少しの間を置き、ネイラさんが少し離れたところに現れる。



「お兄さん、死ぬかもよ」



 こんな時でさえ忠告するとは、何ともやさしい娘だ。


 だが半端な攻撃で負かされては騎士の名に泥を塗ってしまう。



「殺すつもりで来てください」



 もし金級以上があるとすれば…それは騎士ですら…ただの超えなければならない壁だろう。


 金級と騎士は世間的には同等だという認識だ。


 ならばネイラさんは騎士…壁をのり超えなければならない。


 それに…これだけ目撃者がいればきっと認められるだろう。

 


「私は昔、演習でヘルエス様の本気の一撃を受けたことがあります」



 ネイラさんの表情が変わった。


 先程までのどこか遠い表情がひきしまり本気の目になる。



「じゃあ…もしネイラの本気の一撃をお兄さんが耐えられなかったら…」



「その時は確実にヘルエス様を超えたという事でしょう」



 ネイラさんは微笑む。



「…ありがとう、お兄さん」



 ネイラさんの顔からは微笑みが消え真剣な様子がうかがえる。


 目を瞑り、今は無き師匠の事でも思い浮かべているのだろうか?



「しっかり受け止めてね…!」



 コロシアム周辺の魔力が全てネイラさんに吸い寄せられていくのが分かる。


 …昔受けたヘルエス様の本気の一撃は魔力の全放出だった、あの時も確か今回のように魔力を集めて…


 …まさか…同じ技なのか?


 もしかすると……これはヘルエス様の物よりも強力かもしれない…そうか、ヘルエス様より魔力量がおおいのか。


 純粋な魔力の放出は技量関係なく本人の素質に左右されるというが…まさかネイラさんはすでにヘルエス様よりも…!?



「うぅおおおおりゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!」



 今は亡きヘルエス様の姿がネイラさんに重なる。


 まるで昔ヘルエス様と演習をした時の事を思い出すようだ。



 ……黄金に光る魔力の本流がこちらに迫る。


 凄まじい魔力だ…下手すれば本当に死ぬかもしれない。



「…流石ヘルエス様の一番弟子だな」



 だがこれだけの威力ならば騎士を倒してもおかしくはないはずだ。


 ……俺を倒して先へ進んでくれ。




「---」



 …不意に


 声がした方を見る。


 本来ならば戦闘中によそ見をする事などありえないのだが。


 俺はその声を無視する事は出来ない。



「…………」



 声の主はとても不安そうに、俺を…俺だけを見ていた。


 



 俺は……そのお方の前では…



 誰にも…負けるわけにはいかないのだ。



「………ッッ!!!」



 盾を前方に構えた直後凄まじい黄金の本流に呑み込まれる。


 全身を焼き尽くす熱と全身を蝕む魔力。


 ここまでの攻撃は大戦以来だ、ヘルエス様の一撃よりも強い。


 重装鎧が溶け出しそうな熱に中身が耐えられるわけがない。


 だが、それでも決して屈するわけにはいかないのだ。


 肺が焼けても。

 

 魔力にさらされ"変質"しても。


 心臓が停止しようとも…絶対に負けるわけにはいかない。



/////////////////////////////////////



「ハァッ…ハァッ…はぁ……はぁ…師匠…ネイラ…強くなったよ」



 空中に舞う土埃と魔力残滓で視界が悪い中、ネイラは魔力不足になりながらも立っていた。


 コロシアムの中心部は大きく地面がえぐれており、本流の威力を物語っている。



【【きゅ、救護班!!承認済みとはいえ騎士様を死なせたらマズいッ!!】】



「はぁ…はぁっ…お兄さん、いきてるー?」



 視界が悪い中、死にかけているであろう騎士にネイラは声を掛ける。



「俺の番だな」



「…へ……?」



 魔力残滓が霧散し視界が良くなって一番初めにネイラが見たのは焼け爛れ所々変質している騎士の拳だった。



「おぼっ」



 異様な姿の重装騎士はネイラの顔面を強く殴った。


 ネイラは後方に2m程飛ばされる。



【【嘘だろ…】】



「げほぉっ!ゲホっ…う、うそ…なんで…なんでまだうごけ-うぐっ…」



 ネイラが喋っている内に騎士はネイラの肩をつかみ持ち上げる。


 さらに拘束魔術を行使して騎士はネイラが絶対に逃げられないようにする。



「あ、ああああ!い、いたいっ!ちょっと!」



 ごりごりと騎士に掴まれたネイラの肩から無理やり骨を握りつぶす音が聞こえる。



「ま、まって……まって………!」



 再び騎士の拳がネイラの顔面にめり込む。



「ひ……こ、こうさ」



 ネイラはもう片方の腕で顔を守ろうとするが騎士はその腕ごと顔面を殴る。


 腕の骨は殴られた箇所が砕けてぐにゃぐにゃになりネイラの顔にひっついている。


 明らかに戦闘続行不可能なネイラを騎士はいつまでも殴り続けた。


 観衆は言葉を失い黙りこんでいたが、どこかで誰かが泣き出したのを皮切りに半ばパニック状態に陥った。


 その惨さにおびえる者


 気分が悪くなり嘔吐する者


 異常な光景に興奮しもっとやれと叫ぶ者


 ただ静かに見守る者



【【しょ、勝者8番リコ!!試合終了っ!!誰か騎士様を止めてくれ!!】】



 その掛け声に応じてコロシアムに数人が入場して騎士を止めるべく今もネイラを殴り続けている騎士に組み付く。



「騎士様!それ以上は本当に死んでしまう!」



 男は騎士の肘を腕をかけて止めようとするが騎士は何もなかったかのようにネイラを殴る。

 


「邪魔だ」



「……!」



 その一言で男たちは怖気づく、あの暴力が自分に向くのを恐れたのだ。



「そこまでだ」



 そこで怖気づいていた男たちに希望が芽生えた。


 そこに参戦したのはあごひげが良く似合う男…ラマルラ冒険者ギルドの管理人、ラルス・テンパルトとよくわからないが金髪に青い瞳の似合う可愛らしい少女だ。


 可愛らしい少女はともかく、男たちはラルスに絶大な信頼を置いていた。


 ラマルラの英雄ラルスとはラマルラ出身の者ならば誰でも知っているほどに有名で、強い。


 

 だが…騎士はそれすら無視してネイラを殴り続ける。



「本当に金級冒険者には気が抜けないな」



 …致命傷を受ける寸前にこの試合に負けられなくなったカロンは魔力の本流に耐えた後、次に何かしらの技を受ければ負けるかもしれないと考え、カウンターを止めて相手の行動を封じる戦法を取った。


 実際は初めの1発で既にネイラの戦意は喪失していたが、それを知らないカロンは絶対に負けない為に絶対に勝てる戦法を取ったのだ。


 

「カロン」



 可愛らしい少女…サリンが騎士に声を掛けるがそれでも騎士は攻撃を止めない。



「おい、アンタあいつの知り合いなんじゃなかったのか?」


「嘘は言っていなくてよ。…彼がわたくしの呼びかけに応じないなんてありえませんわ…きっと耳が聞こえ無いのですわ」



 ラルスはなるほど、と納得する。


 先程の本流をまともにくらって無傷なわけがないのだ。


 あれは…遠い客席に居ても熱が伝わるほどの威力だったのだから。


 耳が爛れてふさがっていてもおかしくはない。



「俺が止めてくる」



 ラルスが騎士の元へ行くのを見てサリンが自分が行くと言おうとしたところ他の男たちに

危ないからと止められてしまった為、ラルスが一人でカロンの元へ行く。



「…そいつは俺の娘みたいなもんだ、その辺にしてもらおうか」



 ラルスは流石にやり過ぎている騎士に怒りを覚え背中の大剣を騎士の腕に叩きつける。



「……!!」



 騎士は大剣で叩かれたにもかかわらずびくともせず後ろに振り替える。


 


 …そこには大剣の柄を握りしめたまま驚愕している不審な男とその他数人の不審な男。


 そしてその不審な男たちに押し止められているサリンだった。



「カロンッ!」



 サリンはカロンに振り下ろされた大剣を見て心配故にとっさにカロンの名を呼んだ。


 …そして、現在聴力が低下しているカロンからは…その不安げな様子は…まるで助けを求めているように見えた。



「きき、貴様あああ!!そのお方に触れるなああアア!!!!」



 騎士の焼き爛れた重装鎧に魔力が凝縮したのを感じた瞬間ラルスは20m程後ろに居るサリンをかばっていた若い男の目の前に転移魔術を行使して移動し、大剣を盾にするように構える。


 そしてラルスが大剣を盾にした直後、大剣は跡形もなく砕け散る。


 その大剣を砕いた騎士のシールドバッシュは勢いを緩める事無くラルスとかばわれた男ごとコロシアムの一番後ろの壁まで叩き飛ばした。



「ハアッ…ハッ…お怪我はありませんかッ…」



 カロンはサリンを盾で包むようにして抱きかかえる。 


 そして幸いサリンから少し距離がありカロンの初撃を受けなかった男たちはその戦闘力を見て怖気づき逃げ出した。



「…」



 サリンは焼き爛れた重装鎧の隙間からおびただしい量の赤と青白く発光する血を流している騎士を…声を掛けるわけでも無く、ただ抱きしめた。

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