107.すぴー…すぴ…クごッ……………………
「はぁ…」
酒に酔いいつもより可愛らしくなった姫様が隣の部屋でお眠りになられたので俺もベットに横たわる。
「起きたら闘技大会か…」
丁度、金が減ってきていたタイミングで飛び込んできた旨い話だ。
参加しない手は無い。
「金級冒険者の実力…見せてもらおうか」
「クごッ……………………………」
…隣のベットで眠っているスタンから奇妙な声が聞こえるがそれ以降静かになる。
「…………………………………」
「…………息してるのか…?」
…呼吸がしにくいのかもしれない。
いや、寝ゲロで窒息とかあり得るだろう。
「大丈夫ですか?」
スタンの体を軽く揺さぶってみる。
「カハッ…!?はぁハァ…コヒュー…コヒュー…すぴー…」
…はぁ…とりあえず大丈夫…そうだ。
「俺も寝るか…」
そろそろ眠ろう。
起きて寝不足では全力を出せないからな。
「…………………」
「すぴー…すぴ…クごッ………………………………………………………」
「………………まさか…」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………」
「…大丈夫ですか!」
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「おはよぅ〜!」
「…………………おはようございます」
俺は鎧を装着してソファに腰掛ける。
ちなみにあの後俺は結局定期的に呼吸が止まる人物のせいであまり眠れなかった。
「ふふふ…もしかして飲み過ぎたぁ〜?」
「…………………そうかもしれませんね」
スタンはそれを聞いて笑うと水を持ってきて背中をさすってくる。
違う、飲み過ぎたのではない。
貴方のせいで眠れなかったのだ。
「げろげろしとくぅ〜?したほうが楽になれるよぉ…ヨシヨシ」
「遠慮しておきます」
ジジ…
「あっつッ!!!」
おっと魔力が暴走しかけてしまった、気を付けなければ。
「私は姫様をお呼びしてきますね」
「あつぅい…うんわかったよぉ…」
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隣の部屋…姫様のいらっしゃる部屋の前に立ち深呼吸する。
「フゥ……よし」
コンコン
「おはようございます」
扉に向かって声を掛けるとすぐさま扉が開かれる。
「おはようカロン」
…姫様は今日もお美しい。
…今日のお召し物は白い生地に金の刺繍のあるドレスのようだ、美しい装飾は見れば見るほど素晴らしい物だが逆に言えば注意して見なければあまり目立たない。
「今日もお美しいですね」
姫様はニッと微笑まれる。
「ありがとう、そういえばプレゼントがありますの。こちらにおいでなさって?」
「プレゼントですか…?ありがとうございます」
姫様の部屋(旅館のだが)に入室する。
姫様にその気がないとしても若い女性の部屋に入るのは少し身がこわばってしまう。
なんか…こう、小物とかを壊してしまいそうで怖いのだ。
「こっ……れは…」
「好きなものを選んでくださいまし」
部屋に入った瞬間目に入ったのは大量の輝かしい宝石達と王国でもあまり見ない武器や防具だった。
まさに王国の宝物庫だ。
「…姫様…自分には勿体無い代物です…」
姫様のお気持ちを無下にしない為にもこの中で一番頂いてもよさそうなものを探してみたりもしたが…どれもこれも国宝級だった。
「何を仰っておられますの?わたくしに信用されている男なのだからこれくらい当たり前でしてよ。それとも大金を定期的に差し上げたほうが都合がよろしくて?」
非常にありがたいし、うれしいお言葉だが…流石にこれは…
「…わたくし酔ってもどうやら記憶が曖昧になったりしないようですの、だから…貴方の言葉…一言一言…全て覚えていましてよ」
…流石姫様。
酒にすらお強いなんて素晴らしい。
いや、こんなことを考えている場合ではない…どうにかしなくては。
………姫様のお気持ちをお察しするのだ…!……いや…もしかして。
「…姫様?私も昨日の言葉に嘘偽りは一つもございません。昨日お伝えした通り私は何があろうと姫様を裏切りません…なので…」
「……」
「私を物で繋ぎ止めなくとも良いのです」
姫様は無表情になられる。
「…貴方はいつもわたくしの予想を上回りますわね」
姫様は綺麗に並べられた宝石や武具を見つめる。
「貴方の喜ぶ姿が見たかった…というのもありますが、こういった宝石類でカロンを繋ぎ止めたかったというのも本当ですわ」
姫様は俺の隣へやってきて腕を触る。
「宝石さえ渡していればわたくしは捨てられない…それほど現実的で素晴らしい事はありませんわ」
「姫様…」
「だってそれが分かっていればいつ捨てられるのかを考えて恐怖することもないでしょう?」
そう仰る姫様はどこか疲れているように見える。
もしかするとそのことで昨日はあまり眠れていないのかも知れない。
「はぁ…不安ですわ…貴方がすんなりと宝石で喜んで下されば安心出来ましたのに」
「申し訳ございません」
年頃の少女のように仰る姫様を見て本来ならばこのように振舞われるのが一般だというのに、普段はキッチリとしていなければならない姫様を少し不憫に思う。
そして同時に目の前の姫様をどうしても守りたいと思った。
「あ…姫様。今私は年頃の少女のように振舞われる姫様を見て守りたい…と思いました」
「え…侮られまいと気を付けていましたのに…ついにしくじりましたのね…」
若干血の気が引いている姫様だが、自分の前だけでそうなってしまったのならば尚更うれしい。
「いえ…姫様のお年齢ですとそれが当たり前だと思いますよ。その…大変可愛らしいです」
「…………でしたら…カロンの前でだけ少し、その…気楽にしますわ…」
その無表情のまま照れているような身振りが何ともアンバランスで可愛らしく感じられた。